ひとりごとのつまったかみぶくろ
 ここに掲載の文章は、ある関係者の情報交流メーリングリストにおいて、標記のテーマについて私が投稿した文章を整理したものです。
 (投稿期間:2014.8.1〜2014.8.20)
 


佐世保市女子高生同級生殺害事件(2014.7.26)



  児童の心の問題による重大事件発生 それに至る前に周りの関係機関等はどう動くべきであったか
  精神保健福祉法第22条申請の適正な活用を
  地域の児童見守り機構「要保護児童対策地域協議会」
  私たちは有効なツールを手にしているはず 制度とその変遷の正しい把握と理解を
  私たち実務者を悩ませた守秘義務、個人情報の取り扱い
  児童通告及びその後の対処における個人情報管理の考え方の変遷
  医療観察法の児童への適用について
  発達障害による行為は、多くは責任能力が認められてしまう
  伊予市児童監禁殺害遺棄事件(2014.8.16)
  「要保護児童対策地域協議会」が機能していない!?
  児童に対する措置と児童本人の自己決定の関係
  それは児童相談所の地域での信頼構築の努力が解決する
  現場ごとの、様々な解釈、統一されていない行動指針




児童の心の問題による重大事件発生
それに至る前に周りの関係機関等はどう動くべきであったか


 (2014年)7月26日、佐世保市で、女子高校生(当時15歳,高1)が同級生を殺害、遺体損壊という痛ましい事件が起きました。この報に接した時、過去に起きた、神戸市での事件(1997.5:いわゆる酒鬼薔薇事件)、豊川市での事件(2000.5:17歳少年による主婦殺人事件)、佐世保市での事件(2004.6:小6女児同級生殺害事件)等を思い出しました。このような大きな事件になる前に、周りの関係機関等の連携により、何らかの対処はできなかったのだろうかと思いました。

 そうしている中で、下記のような気になる情報が伝わり、皆様と一緒に検討することはできないかと思い至り、ここにこれを投稿する気持ちになりました。

 下記(※1)にあるように、事件の1か月前の6月に、女子生徒を診察した精神科医が児童相談所に「本人をこのままにしておいたら人を殺めてしまうかもしれない」と通告 …という経過があったとのことです。その報道の論調から、児童相談所バッシングに転化するのではないかと気になっています。

 今回のようなケースで、児童相談所に通告があった場合、児童相談所は具体的に何ができるか、そんなことを自分なりに考えて記してみました。

 もしこれが、児童虐待に関わる通告であったならば、通告受理後ただちに緊急受理会議を実施し、48時間以内に調査開始等の手立てがなされると理解しています。しかし虐待関連以外の通告や相談の場合は、受理者がその場でよほどの切迫感を覚えない限り、通常の相談や受理になってしまうと思います(※2)。

 今回のように、本人を診察した精神科医から、「本人をこのままにしておいたら人を殺めてしまうかもしれない」という内容の相談があった場合、児童相談所は、どのような対応をすべきでしょうか。

 もしも私がこの種の通告又は相談の受理者であったとしたら、きっと私は、その精神科医が本人について見込んだ診断名を聴取の上、それが精神疾患(の疑いを含む)であれば、保健所への通報〔正しくは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第22条の診察と保護の申請、すなわち措置入院に導く検討を要請〕を助言することになると思います。(保健所への通報は当事者が行うものであり、相談を受けた児童相談所が代理して保健所に通報するということはないと考えます。)

 また、今日的には医療保護入院を提起することが多いと思いますが、症状が真に自傷他害のおそれの事例であれば、公費を用いての措置入院による治療が是と考えます(※3)。

 精神疾患によるものではないとのことであれば、本人の親とのコンタクトの試みの上、承諾を得られれば、親子との継続相談の開始に至るのではないかと思います。

 この種のことで、警察や学校ほか、関係公的機関に、本人情報を添えて相談提起はできるだろうかということが迷いました。せいぜいコンサルテーションを求めるのが精一杯かなと思いました。

 かつて、「何をしでかすかわからない人がいる」という趣旨で警察に相談したところ、「おそれのある人であれば、五万といる(おそれだけでは警察は動かない)」というような返答を受けてしまった記憶があります。

 今回のことがあり、とり急いで書いたものであり、見落としたことがいくつもあるかもしれません。皆様の反論、お叱りを含めて期待しております。

(※1)例えば、
http://www.yomiuri.co.jp/national/20140801-OYT1T50108.html (現在は削除されています)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140801/t10013448231000.html (現在は削除されています)
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2014/08/01/kiji/K20140801008668440.html (現在は削除されています)
https://ja.wikipedia.org/wiki/佐世保女子高生殺害事件

(※2)
児童相談所運営指針
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv11/01.html
子ども虐待対応の手引き
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv12/00.html

(※3)
「精神衛生法等の一部を改正する法律の施行について」(昭和六三年四月六日 健医発第四三三号 各都道府県知事あて厚生省保健医療局長通知)
二 措置入院等
(一) 今般の改正により、指定医が措置入院及び緊急措置入院の必要があるかどうかを判断するに当たつては厚生大臣が定める基準によらなければならないこととされたが、これは従来よりみられる措置入院制度の運用の格差の是正に資する等制度の適正な運用を期する観点からのものであり、この旨の徹底に努められたいこと。
(三) 前記(一)及び(二)のほか、特に次の点に留意されたいこと。
ア 自傷他害のおそれのある精神障害者は、措置入院によつて入院措置が採られるべきことが原則であり、殊更、医療保護入院に誘導して対処するようなことはないようにすること。

「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第二十八条の二の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準」(昭和六十三年四月八日 厚生省告示第百二十五号)
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=hourei&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=2050



 ですから、今回のケースの場合は、本人を診た精神科医は専門家の立場でもあり、もしその本人が基準に該当する精神疾患及び状態と判断され、症状的に真に自傷他害が予測されると見立てたならば、精神保健福祉法第22条に基づく申請を通して、公的介入と支援のもと、対処すべきケースではなかったのかと思った次第です。

2014/08/01 15:15




精神保健福祉法第22条申請の適正な活用を


 ○○様

 素早い応答を感謝します。

 いくつか問うてみたい指摘がありましたが、とりあえず、次の点について…

>> 措置入院というのは可能だったのでしょうか。
>> 事件が何も起こってない段階で,何かやりそうだから他害の恐れがあるので予防的に措置入院,という判断はかなり難しい気もしますが,

…のくだりがとても気になりました。

 事件を起こした人が精神病者とわかり、措置入院になったということはよく聞くことです。

 しかし、精神保健福祉法の申請・通報等の本来の趣旨は、自傷他害という結末に至る前に公的な介入ができるように整備されたものと理解しております。

 また、措置入院は、本則では、二人の指定医の診察の結果下されるものです。制度の論理上は、措置入院を前提とした申請・通報等を発することは不謹慎と思います。

 制度的には、精神保健福祉法22条以降に記述の申請・通報等については、保健所はそれを受理した後、法27条の調査を経て、最終的に、@診察不要、A一次診察のみで終了、B入院以外の処遇、C不要措置要入院(医療保護入院等に)、D要措置(措置入院)等の結果が導き出されるものと理解しております。結果として措置入院に至らなかったとしても、正当なプロセスに基づく評価がなされたわけであり、それを受け入れればよいと思います。

 世間の一般的な状況として、22条申請が敬遠されている現実は承知しております。しかし申請・通報等がなければ、保健所は、それに向けての動きができないわけです。申請等をしても無駄だというような風潮があるとしたら、これは正さなければならないと思います。(これは児童虐待等における通告の場合も同じです。通告をきっかけに児童相談所等が動き出すわけです。ただ、児童虐待等の通告は、国民の義務と定められていることに留意する必要があります。)※

 制度的に準備、整備されているにもかかわらず、本当に必要な時にそれが活用されていないというのは、苦々しく感じます。

 参考までに、我が国の措置入院等の状況を記した資料を紹介します。これらを深く読み込めば、この世の中の現実の状況が、少しは見えるのではないかと思います。

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/12/dl/kekka1.pdf
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001114932



精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
(診察及び保護の申請)
第二十二条 精神障害者又はその疑いのある者を知つた者は、誰でも、その者について指定医の診察及び必要な保護を都道府県知事に申請することができる。
A 前項の申請をするには、次の事項を記載した申請書を最寄りの保健所長を経て都道府県知事に提出しなければならない。(以下省略)

児童福祉法
第二十五条 要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。ただし、罪を犯した満十四歳以上の児童については、この限りでない。この場合においては、これを家庭裁判所に通告しなければならない。
A 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前項の規定による通告をすることを妨げるものと解釈してはならない。

児童虐待の防止等に関する法律
(児童虐待に係る通告)
第六条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
A 前項の規定による通告は、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十五条の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。
B 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。

高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律
(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第七条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
A 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
B 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。

障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律
(養護者による障害者虐待に係る通報等)
第七条 養護者による障害者虐待(十八歳未満の障害者について行われるものを除く。以下この章において同じ。)を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
A 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。


2014/08/01 22:16




地域の児童見守り機構「要保護児童対策地域協議会」


 ○○様はじめ皆様、それぞれの立場からのコメントに感謝します。

 私が児童相談所に勤務したのは、児童福祉法平成16年改正の前の時期で、「要保護児童対策地域協議会」はまだありませんでした。その当時は、市町村に「児童虐待防止ネットワーク」(平成10年制度化)を立ち上げるために動き回った時期でした。「児童虐待防止ネットワーク」稼働後は、毎月定期的に「実務担当者会議」が開かれました。保健センター、保育所、小中学校等の担当者が集まり、各機関が有している虐待ケース(と認定されたケース)について順次近況を報告し合いました。1ケース当たりの報告・検討の時間は短いのですが、毎回、総じて数十ケースについて、落ちのないように見守るという体制を作り上げました。対象はほぼ虐待ケースのみでした。(これに並行して、「サポートチーム」という取り組みも行われていました。これは、虐待をはじめ非行・養育等の問題を抱える児童について、学校を始めとする関係機関が、個別のケースについて、協議が必要と感じた時に、適宜構成諸機関に呼び掛け、会議を開催するものです。)

 児童福祉法の平成16年の改正により、要保護児童対策地域協議会が法制化されました(法第25条の2)。これにより、児童虐待防止ネットワークの取り組みがここに移りました。要保護児童対策地域協議会の設置・運営指針(※1)に「非行児童なども含まれる」が明記されたことにより、虐待ケースに加えて、非行児等のケースも一緒に報告検討のテーブルにのせることができるようになりました。

 ところで、具体的な個々のケースについて、いくつかの機関の担当者が集まり、報告、検討するというような地域での会議等は、それ以前にはなかったのでしょうか。実はあるのです。だけれども対象は老人で、「市町村高齢者サービス調整チーム」、「保健所保健福祉サービス調整推進会議」等が稼働していたわけです(※2)。私が保健所に勤務していた時は、これらに関わりました。しかしながら、平成初期のこれらの開き方の実態は、事例を持ち寄ってのコンサルテーション的な検討会、または専門家を呼んでの学習会というような形式の開催が一般的で、職員の技術を磨くための研鑽の場という印象でした。

 保健所では(全国的なものかは不明ですが)、自殺予防・思春期・アルコール等の精神保健福祉関連、ハイリスク児等、いろいろな対象別の関係機関連絡会議の開催が予算措置されています。これもかつては講演会、学習会的なものが常でした。でも最近(といっても数年前ですが)それに出席した時は、あるハイリスク児のいる世帯の支援策検討を目的に、保健所、市町村担当課、保健センター、児童相談所、福祉事務所、民生委員等、対象ケースに直接的、間接的に関わっている機関の各担当者が集まり、大学教員等研究者による技術援助も伴い、その世帯の援助策について協議されました。「保健センターはこれをして」「児童相談所はこの役割」等と、各機関の役割分担を定めてその世帯をフォローしていきましょうという会議の展開でした。

 地域の諸機関が協働してひとつひとつのケースを支援していこう、という体制が構築されつつあると感じました。でも、制度は成っても、活用されなければ何にもならないわけです。またいびつな活用のされ方では興ざめです。上手な制度の活用、運用ということが肝要です。

(※1)要保護児童対策地域協議会設置・運営指針
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv11/05.html
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000035097.pdf

(※2)
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=tsuchi&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=13907


2014/08/02 21:27




私たちは有効なツールを手にしているはず
制度とその変遷の正しい把握と理解を


 インターネット内を覗いてみると、佐世保市の事件に関連して、いろいろな論調が飛び交っている様子がうかがわれます。その中に、市民の質問に対して専門家らしき方が回答するというページも見つけることができます。しかし、憶測をもとに論理展開したものや、対象制度を誤って説明しているもの等も認められ、気になってしまいます。

 私自身、最初の投稿では、十年以上前の感覚で記してしまったところがあり、大きなことは言えませんね。そういうところからミスリードが始まり、「そうだったんだ」と多くの人が思い込んで、ミスリードのスパイラルに落ち込んでいくことはとても怖いことです。このメーリングリストで、間髪入れずに指摘がなされ、投稿者自身がそれに気付く。これはとても大切な機能と自覚します。皆様の指摘に感謝します。

 私は、三十数年にわたりこれら関連分野の仕事に携わり、一般の人にはまず見ることができないさまざまの世界を目にし、そこでの営みに立ち会うことができたことは、私の人生の宝と思っています。

 制度というものはけっこう目まぐるしく変わっているものであり、その時々の正確な把握と共に、なぜその制度が整備または改正されたのか、その整備や改正は世の中のどのような人々の営みや努力によってなされたか等を併せて知っておくことが大切と思います。

 今回は、私の体験のレビューも含めて、テーマを取り上げて少し触れてみようと思います。


私たち実務者を悩ませた守秘義務、個人情報の取り扱い


 行政による処遇というものは、本来は申請が基本であり、そうでなくても当事者の同意さえ得られれば、けっこう踏み込んだ営みができるものです。しかし、児童福祉、とりわけ非行や虐待の分野の対象者は、事実や認定の否認、関わりや支援の拒否、無視や反撃等の反応を返してくる場合が多いです。そのような上に、行政側は、制度に明記されていない内容の個人情報を収集したり、それを他の機関等に規定の裏付けのないままに秘密裏に個人情報を伝えたりすることは厳に戒められています。

 個人情報の保護や諸機関の守秘義務、人権や自己決定の尊重等については、昔から論議が続けられていることです。このコンセンサスの度合によって、私たちの仕事の後押しになったり、また足枷にもなったりします。

 先に、特定の個人のことについて複数の機関が集まって情報交換や処遇検討ができることが規定、整備された市町村高齢者サービス調整チーム等のことを述べました。また複数の機関が共同利用することを目指した共用カルテ(福祉カルテ)の営みがあることは、皆さん知っておられると思います。これらは当事者本人の同意があって初めて対応できる手立てと思っています。

 児童相談所をはじめその他の機関に勤務した時でも、個人情報の収集や管理についてはとても気を使ったものです。自分の担当のケースについて、他機関に機関長名の公文書で照会しても、地公法34条や国公法100条等を理由に答えられないという回答を得たことがあります。

 児童福祉法25条の通告は、全国民に課せられた義務であることは、法制定の最初からの記述です。しかしながら、刑法の秘密漏示罪や、諸法の守秘義務規定から、例えば医師がその事態を知っても通告を拒む、というようなことがよくありました。


児童通告及びその後の対処における個人情報管理の考え方の変遷


 それを打ち破った最初の手がかりが、平成9年の厚生労働省からの通知(「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」平成九年六月二〇日 児発第四三四号 各都道府県知事、指定都市市長あて厚生省児童家庭局長通知)(※1)と思っています。その後、「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年公布・施行)では、その第6条第3項に、「刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。」とまで記されるようになりました。

 これがお墨付きだったのでしょう、虐待通告後に開かれる児童虐待防止ネットワークのテーブルに載るケースは、虐待通告の延長であるとして、たとえ当事者側の告知の否認や関与の拒否があったとしても、関係機関間の情報交換や処遇検討ができるようになったと理解しております。

 更に児童福祉法平成16年改正で要保護児童対策地域協議会が法制化され(児童福祉法第25条の2)、同第25条の3により「協議会は、前条第二項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる。」となったわけです。当事者の同意がなくてもそのケースのことについて躊躇なく伝えることができるようになったわけです。

 最初は虐待ケースのみが対象でした。でも、平成16年の児童福祉法の改正後に、要保護児童対策地域協議会の設置・運営指針に「非行児童なども含まれる」が明記されました。これにより、市町村が設置する要保護児童対策地域協議会においては、非行ケースについても(「など」が付いているからそれ以外も含まれると読めます)、当事者の同意がなくても関係機関間で情報交換や処遇検討ができるようになったと捉えることができます。

 すごいツールを手にしたものだと思いました。要保護児童対策協議会が稼働し出した今日では、通告ケースは皆要保護児童対策地域協議会に載り、地域関係機関の協働のもとに適切な処遇が展開される制度の基盤が成立したといえます。

 だから今回の佐世保市でのケースも、彼女が小学生の時の最初の非行があった時、上手に通告(今は市町村へも通告できる:平成16年改正)してさえくれれば、みんなで見守ることができたということが、既に制度的には整備されていたということになります。

 少し誇張して書きすぎましたか。皆様の見解やご意見もお聴ききしたいと思います。

(※1)児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=tsuchi&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=10579

参考:子ども虐待の援助に関する基本事項(厚生労働省HP)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv12/01.html


2014/08/04 20:49




医療観察法の児童への適用について


 今回の事件の加害者の処遇について、○○氏より、医療観察法適用に関する論点が出されました。

 医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律:平成15年法律第110号,2003年7月16日公布,2005年7月15日施行)は、心神喪失又は心神耗弱の状態(精神障害のために善悪の区別がつかないなど、刑事責任を問えない状態)で、重大な他害行為(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害)を行った人に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的とした制度です。

 私は平成17年の法施行時からこれの実務に携わりました。これの適用になれば、対象者の社会復帰に向けて、関係機関協働の実に丁寧な治療をはじめとした様々な対応がなされます。この手法に限って言えば、社会復帰を望みながらそれが実現しないでいる多くの精神障害者に適用してもらえたらいいな、と思うことさえあります。

 しかしこの法律の適用は、不起訴処分となるか無罪等が確定した人に対して、医療観察法による医療及び観察を受けさせるべきかどうかを、検察官が、地方裁判所に申立てを行うというところから始まります。現規定下ではこれのみのはずです。

 つまり起訴の対象になる人でないと出発点に立てない、要するに未成年者 …少年法適用者は対象でないということです。これの適用のためには「逆送」が必要、という論理になってしまいます。

 対象となる行為は、心神喪失又は心神耗弱の状態での他害行為です。つまりその行為においての責任能力が認められない場合に適用されます。


発達障害による行為は、多くは責任能力が認められてしまう


 精神疾患であっても、統合失調症等の症状下の行為によるものであればそのように判断されることが多いです。しかし、知的障害や発達障害の人の行為は、判例を眺める限り、多くは責任能力が認められてしまいます。

参考
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15HO110.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sinsin/index.html

関連論文
http://www.chukyo-u.ac.jp/educate/law-school/chukyolawyer/data/vol019/01_Ogata.pdf


2014/08/06 6:35




伊予市児童監禁殺害遺棄事件(2014.8.16)


 さて、こんどは伊予市で、いやな事件が起きてしまいました。こんどの事件は、発覚するずっと以前から、市、児童相談所、警察、また現場の世帯が生活保護受給世帯という情報もありますから福祉事務所も関わっていた世帯での事件ということになります。このようにいくつかの公的機関が関与している中で、どうしてこのような結末になってしまうのか、この辺りをじっくり検証する必要を感じます。

 この事件の報道に接して、私が最も奇異に思うのは、被害者本人がことに至る前に、なぜ、「逃げる」とか「救助を求める」という行為をしなかったのか、ということです。説得しても帰宅を拒否という経過もあるようで、このあたりのことが常識的感覚からしてあまりにもかけ離れているので、どのように想像しても奇妙な展開になってしまいます。

 これが解明されないと、「本人の意思尊重」という理屈のもと、誰が関与しても救えないということになってしまいます。このことは、私はとても深刻なことと感じますが、皆さんはどのように思われますか。

 今回の結末に至るまでの間、被害者少女はどのような生活を、どのような思いで過ごしてきたか、皆さんはどのように想像されますか。

 このことを考えた時に頭をよぎったのは、1989年に発覚した、いわゆる女子高生コンクリート詰め殺人事件です。被害者は一日も早く逃げたいと思っても、脅迫と暴力の壁を前にしてそこから脱することができなかった。その被害者のその時々の心情を想像するに、この上なく可哀相という思いが私を襲い、辛い気持ちになってしまいます。

 もちろん、今の段階では、憶測でしかなく、また得た情報にしても憶測をもとにした記述なのかもしれません。私自身、ミスリードの毒牙に咬まれたままの発言かもしれませんね。でも今の気持ちを抑えきれず、投稿してしまいました。ごめんなさい。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140816/k10013847261000.html (現在は削除されています)
https://enpedia.rxy.jp/wiki/伊予市少女暴行殺人事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/女子高生コンクリート詰め殺人事件
https://www.youtube.com/watch?v=2MqYyPR3Mfk
http://rankingoo.info/archives/10073


2014/08/17 16:01




「要保護児童対策地域協議会」が機能していない!?


 伊予市少女遺棄事件に関連して、市や児童相談所、警察等の関係機関の対応のまずさや連携がなされていなかった状況がテレビのワイドショー等で取り上げられていますね。要保護児童対策地域協議会が今回の事例については関与、機能していなかった状況が暴露されてしまった感じですね。今日になり、「伊予市が連絡組織立ち上げ」のニュース(※1)が流れましたね。あれれっ、と思ってしまいました。

 伊予市の要保護児童対策地域協議会はどのような活動をしていたのかを知りたく思い、ちょっと調べてみました。

 厚生労働省の資料によると、現時点では愛媛県下の全20自治体において要保護児童対策地域協議会は設置が完了しており、伊予市については、平成18年度中に設置されたようです。では、どのような運用がされているのかなと思い、市に問い合わせようかとも思いましたが、ちょっとそのような度胸はないので、ネットの中から、伊予市の要保護児童対策地域協議会関連の情報を含むページを探してみました。その結果が(※2)です。

 今日はこれまでにして、これらをもとに、ちょっと考えてみます。

(※1)伊予市が連絡組織立ち上げ
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140818/waf14081811230009-n1.htm

(※2)
愛媛県の資料 (54頁に関連記述)
http://www.pref.ehime.jp/comment/22-1-22kosodate/documents/p54-59.pdf

伊予市次世代育成支援行動計画 後期 (27頁、45頁に関連の記述あり)
https://www.city.iyo.lg.jp/kosodateshien/kurashi/shusyoku/rodo/worklife/documents/jisedai_ikusei_plan.pdf

市長の主な活動状況から
https://www.city.iyo.lg.jp/soumu/sityoukatudoujyoukyou/201305.html

愛媛県の啓発誌
http://www.pref.ehime.jp/h15200/kouhoushi/documents/danjo31-4.pdf

愛媛県議会議事録 (5-保健福祉部長答弁)
http://www.xn--y8jydtcw98ny26a.net/materials_h21_09.html


2014/08/18 15:05




児童に対する措置と児童本人の自己決定の関係


 ○○さん、コメント、ありがとうございます。
 ○○さん、もし差支えなければ、次のことについて教えてください。

 児童相談所ができる対処として、今回の伊予市の事例を想定していえば、他人の子を同居させる場合の届け出義務(児童福祉法第30条第1項)不履行を根拠にして一時保護を行うという行動計画が最初に思い浮かびます。

 この状況下で、児童本人が保護されることを拒否した場合の対処はどうなるのでしょうか。

 児童福祉法33条第1項の規定は、児童相談所長が一時保護すると言ったら、誰が反対しても(一旦は)一時保護できるという強権と捉えることができます。

 また、児童福祉法上の規定で、各措置について、親権者・未成年後見人の意に反しては行えないとあるわけですが、児童本人の同意を明記しているものはないわけです。

 しかし、児童権利条約によると認識しているのですが、今日では児童本人の同意が求められるようになっていますね。いわゆる「本人の意思の尊重」ということですね。しかし、この効力がどこまで及ぶかの規定や判断根拠が見つけられないのです。

 かつては教護院(現児童自立支援施設)に、児童本人の意思はどうであれ、親権者の同意のみを得て、けっこう安易に入所させていたわけです。でも今は児童本人の同意が得られないと、入所はとても難しいわけです(四号送致した場合は別)。

 この対応の転換をすることになった根拠の通知や指導等はあったのでしょうか。

 私が成文のもので確認できたのは、現行の児童相談所運営指針に、「子ども及びその保護者の意向を聴取」とか「子ども及び保護者に説明」等の文言ぐらいです。

 そのほかの方でも、このことについて承知されている方がおられましたら、ご教示いただけることを望んでいます。

2014/08/18 21:12




それは児童相談所の地域での信頼構築の努力が解決する


 ○○さん、直ちのコメント、ありがとうございました。

 今の児童相談所は、関係機関との日常的に良好な関係と、問題に対する緻密な分析力と、協働的な行動設計のもとで、なおかつ豊かな経験に裏打ちされた行動をされているのですね。

 私が児童相談所に勤務した時と比べて、とても機動的な対応をするようになっていると感じました。

 児童相談所も警察もその他これに関わる関係機関は、生じた問題の当事者として、危機感を持つこと、想像力を持つこと、行動力を持つことにかかっているのかなと感じました。

 そのように現場を指揮されていることに敬意を表します。

2014/08/19 0:32




現場ごとの、様々な解釈、統一されていない行動指針


 ○○様。多忙の中での応答、ありがとうございました。

>> そこに、子どもの権利条約第12条の意見表明権、特に第2項の意見聴取される権利が、裁判規範となるとの解釈の下入ってきたので、少なくとも、意見聴取が必要・・・(それがないと原則違法となる)という形で、制度の議論はすすんできたものです。
>> もっとも、その意見は、年齢そのたに応じて考慮すればいいのであって、その表明内容に従うところまでは強調していませんから、適切な判断のもと、表明意見と異なる判断はいくらでもあり得ることになります。
>>問題の所在が、制度なのか、実務がそのような方向で動いているとは限らないという点なのかを明確にしつつ議論できたらよいと思います。

 要するに、様々な解釈、いろいろな行動指針ができてしまうということですね。

 例えば「児童の意見表明権」なるものをその現場に最初に示された時、「こうしなければならない」と"解釈"した時点でその現場での原則になり、それがその後の現場の行動基準として引き継がれていく。その現場の文化になってしまう。

 これが現場単位であるがゆえに、全国のレベルで見まわしたら、各現場の対応がちぐはぐしているように見えてしまう。

 各現場では、一生懸命仕事をしているはずなのだけれども、「児童の意見表明権」にしても「個人情報管理」にしても、過度に気を遣い、慎重に(歪に?)運用するがゆえに、実態としてまずい結果を産み出してしまった。 …そんな様子が感じられました。

 児童の権利に関する条約に関連する諸要素については先に紹介した「子ども虐待対応の手引き」等にも触れられてはいますが、

 包括的な対応を求める国レベルの通知としては、
・「児童の権利に関する条約」について(平成6年5月20日,文部事務次官通知)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/jidou/main4_a9.htm#label1
のみのようですね。

 条約をもとに、自治体のレベルで、条例がいくつか定められているようです。
・子どもの権利条例等を制定する自治体一覧
http://homepage2.nifty.com/npo_crc/siryou/siryou_jyorei.htm


2014/08/20 19:21



(2014.8.31)


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