社会保障研究会
社 会 保 障 案 (21.7.31.)
基本理念
一 生存権の確認
換言すれば最低生活の保障
二 国民全部のものとしての革新的社会保険制度の確立
従来の制度を単に弥縫補修するにあらず
国民一部の利害と過去の因襲より脱却して真に革新的なる制度の樹立
三 他の社会部門との関連性の尊重
保健政策 教育、住宅 完全雇傭等に関する政策及施設の拡充と及それらと社会保険制度との関連を密に
し、以て真に一体として国民生活の保障を確立する
実施上の方針
一 国民の各階層各部門の感ずる窮乏はそれぞれ異るところあるを以て国民を左の如く分類する
被傭者 自営者 主婦
無業者 退職者 児童
二 最低生活のため保険給付は之を均一とする
社会保障制度は最低生活の維持を目的とするを以てその給付は之を均一にしそれ以上の生活については国
民に対し自己の責任に於て任意保険その他を利用することを奨励すること
三 醵出は社会政策的考慮を以て負担能力(即ち収入)に応ずることとする
(1) 大体所得に比例せしむるも累進せず、単純比例をとる
(2) 被傭者に対しては一定の所得階級以下のものは全額雇主負担とする
(3) 一定限度を超る所得階級については別に考へる
(4) 「被傭者の醵出は男女年齢によりて階級を設ける」之は収入比例により必要なし
四 行政上の責任を統一する
運営の機関も可成的に統一する
其の他一般的事項
一 医療は国営を窮極の目標としそれに到達する迄は社会保険運営の医療施設を全国的に設置する
一 労働年齢 最低義務教育終了時、最高男60、女55
一 従て老齢年金開始は、男60、女55
一 保険料は被傭者と雇主と分担する
家族手当
1人50円、範囲 妻、小児の全部(義務教育終了迄)
其の他の家族に認めざること「我国の民主化のため」
負 担
(イ) 原則としては全額国庫
(ロ) 醵出式とすれば保険料1人100円
その分担方法次の如し
本人 雇主 国庫 合計
被 傭 者 25 25 50 100
自 営 者 50 − 50 100
妻 − − − −
無 職 者 50 − 50 100
退 職 者 − − 100 100
児 童 − − − −
被傭者の場合
自営者・無職者の場合
保険料 家族手当 差引
保険料 手当 差引
独身者 25 − 25 50 − 50
妻帯者 25 50 25 50 50 0
一 子 25 100 75 50 100 50
二 子 25 150 125 50 150 100
三 子 25 200 175 50 200 150
四 子 25 250 225 50 250 200
我国の賃銀は今日では人が喰うことの出来る程度であるとの考へを前提とする
其の他
一 官吏、政府職員
(イ) 従来の恩給法その他社会保障に関する特権的取扱いは総て之を廃止する
(ロ) 但し新に樹立さるべき社会保障法に於ける保障以上の部分に付任意的保険(組合その他による)は極
力奨励
之により官吏の生活は手厚く保障せらるることになる
二 葬儀費用
之は社会保障法中に規定すること
(イ) 300円 全国民に与ふ(年金受領者も含む)−之は年金月300円の規準に於て暫定額
(ロ) 但年少者に対しては5歳以下100円、6−14 200円
三 外国人(朝鮮、中国)互恵的にのみ社会保障制度を適用する
四 行政上の責任の統一
任意保険(生命、傷害)の監督
共済組合等の資金運用の枠を作る 厚生省保険局
資金運用の枠を作ることは労働組合等の要求を抑へて正しき資金運用をする上に便利(当事者が利益を図
り却て失敗する事を防止するに役立つは勿論)
健康保険関係
一 労働者災害
(イ) 之はビ案の改正案たる英政府案にては特別の制度として一般社会保障案の外廓に置く。従つて、我国
に於ても現行法の適用を全被傭者に拡張して改善すればよし。
(ロ) 労働保護法との調和を考へる。
二 分娩費
1 一般国民 (イ) 実物給付(医療の国営を前提とする)の外現金給付100円
(ロ) もし全部を現金給付とするならば療養費の給付に準ずる
2 被傭者 出産手当産前4週間、産後6週間
但し日給者にして月給全額を受くる者は支給せず
三 傷病手当
(イ) フラットの手当(被傭者、自営者のみ)(3円50銭 待期3日)
(ロ) 任意保険の奨励
(ハ) 継続1ケ年にて廃疾年金へ移行
(ニ) 職員(月給者)は現実に月給の切れたるときより
四 医療の給付
(イ) 現金給付を原則とすることに反対
但し申し出により自由に現金給付とする途を開く
理由、国民の85%が現金給付を望むも之を望まざる15%の国民階層が社会保障の対象としては重大なり
(ロ) 医療は国営原則 他し暫定として任意契約による嘱託医とする
年 金
一 年金の種類
老齢年金 男60 女55
廃疾(名称は傷痍年金)
業務災害(之は補償法に譲る。)
寡 婦
孤 児
二 老齢年金
(イ) 退職を条件とするか否か決せず、末高の意見条件とせよ
(ロ) 待期 10年
(ハ) 月額 100円のフラット
最初は50円とし爾後毎年5円宛累進20年にてフルの100円となる
(ニ) 家族内にある(即ち戸主ならざる者)にも同率(減額せず)
三 傷痍年金(傷病手当期間1ケ年を経過したることを条件とす)
(イ) 待期なし(年齢の制限なし)
(ロ) 全部的労務不能 老齢年金と同額(従つてフラット)
(ハ) 部分的 収入主義によらず機能主義による(ヌーメリカル メソッド)
(ニ) 適用 無城者にはなし、自営者には6月(1ケ年を短縮)以後支給
四 寡婦年金
夫の死後1ケ年間 月100円
以後は子あることを条件として保護者年金月100円
別に普通の家族手当
失業保険
失業問題は之を保障計画の中に入れて考へるか入れずに考へるかにて異る
社会保障計画中に入れるとして
(1) 保険主義(醵出主義)
(2) 扶助主義(無醵出主義)
(3) 折衷主義(Semi-contributory)
保険主義にて基金不足部分は国庫負担
(1) 保険主義 8%―10%の少量失業に対しては有効。但し現況の如く大量、長期の失業には成立せず
Beveridge は Full employment なきときに失業保険は成立せずとして居る。
失業者の見透し 闇商人――失業者にあらで(流通面)不健全乍ら職業を有する者
ビ案の解説
現在の状況では失業保険は不成立。
我々としては日本の経済があるスタビリティを得たる時を目標として立案。
(2) 扶助主義
長期、大量の失業には不成立。我国の産業は之を負担し得ず ビ案440項にて吟味。
(3) 折衷主義
保障計画の中に採り入れる。経済の安定を見る迄は資格調査(ミーンズテスト)の条件にて行ふ。
完全雇傭と扶助
完全なる失業保険(3年間の待期)は、之を制度としては採り入れて置いて、その実施を安定時迄保留して置
く。安定時とは失業率が8%−10%の時(ビ案)
最低賃銀制度(労働保護法)の給与を1ケ月(?)与ふ
ストライキ中の失業に対しては、失業保険給付は行はず、労働組合にて行ふべし
産業負担 総資本的負担 個別資本の負担
8000万がスキ腹で生きて行くか、之を5000万に減じて(3000万は死ぬ)行くか
北岡氏 扶助で行き、之を地租でとれ。(農業に負担能力あることを前提とする。)
3年の後に安定する、平和条約の制定。
○額 1日3円50銭(但月 100円規準)之が動けば当然3.50も変る
┌ 訓練手当 ┌ ビ案279項
│ 移転下付金 │ 大蔵大臣の負担
└ 宿泊下付金 └ 失業給付の 1/3
○期間 3ケ月トレーニング
○待期 地方毎……区別見ず
年齢別 義務教育 14−20 女 2/3
終了年齢 21以上 full rate
(終)
〔佐口卓氏より貸与された謄写のプリントによる〕
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