《 萌文社「季刊 ゆうゆう」No.16(1992.3.20発行)から許諾を得て転載 》 《 精神障害者の権利救済に関する調査研究部会(部会長 永野貫太郎氏)訳 》 1991・11・29 国連総会 第3委員会 世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、並びに障害者権利宣言、あらゆる形態の抑留・拘禁下にある人々を保護するための原則、その他の関連人権文書に留意し、 その1978年12月14日付総会決議33/53において、人権委員会に対し、差別防止小委員会が優先事項として、精神障害を根拠として抑留された人々を保護する問題につき研究を行い、ガイドラインを作成するよう要請したことを想起し、 同じく、1990年12月14日付総合決議45/92において、差別防止小委員会によって人権委員会宛提出された草案に基づき、精神病者の保護及び精神保健ケアの改善のための原則草案を起草する上で人権委員会内作業部会によって成し遂げられた進展を歓迎したことを想起し、 人権委員会がその決議1991/46において、作業部会により提出された原則草案を承認し、それを作業部会の報告書と共に経済社会理事会を通じて国連総会に送付することを決定したことに留意し、 さらに経済社会理事会が1991年5月31日付決議1991/29において原則草案と作業部会の報告書を総合に送付することを決定したことに留意し、 さらに又、人権委員会決議1991/46及び経済社会理事会決議1991/29により、総会における原則草案の採択に際し、原則草案の全文を最大限公布し、かつ草案序文が同時に、加盟各国政府及び公衆のために附属文書として公表さるべきであることを勧告していることに留意し、 原則草案及び原則草案に付された序文を含む事務総長報告に留意し、 1 本決議に付された精神病者の保護及び精神保護ケア改善のための原則を採択し、 2 事務総長に対し、本原則とその序文が共に「国際人権文書」の次版に含められるよう要請し、 3 本原則を最大限広範に公布し、加盟各国政府及び公衆のため、その序文が附属文書として出版されることを確保するよう事務総長に対して要請する。 附属文書 精神病者擁護及びメンタルヘルスケア改善のための原則(仮訳) 適用 これらの原則は、障害、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的又はその他の意見、国民的、民族的又は社会的出身、法的又は社会的地位、年齢、財産、門地を根拠にしたいかなる差別もなく通用される。 定義 この原則において、 「弁護人」(counsel)とは「法的あるいは他の資格を有する代理人」を意味する。「独立機関」とは「国内法で規定されている権限を有しかつ独立した機関」を意味する。 「メンタルヘルスケア」とは「精神病(mental illness)又は精神病の疑いに対する精神状態の分析及び診断、治療、ケア、リハビリ」を含む。 「精神保健施設」とは「第一義的機能としてメンタルヘルスケアを提供する全ての施設又は施設の全ての設備」を意味する。 「精神保健従事者」とは「医師、臨床心理学者、看護婦、ソーシャルワーカー又はその他のメンタルヘルスケアに関連する特別な技術をもった適切な訓練を受けた有資格者」を意味する。 「患者」とは「メンタルヘルスケアを受けている人」を意味し、精神保健施設に入所させられている全ての人を含む。 「法定代理人」とは「いかなる特別な状況においても患者の利益を代表しあるいは患者の代理として特定の権利を行使する義務を法的に負う者で、国内法によって規定されていなければ未成年者の両親又は法律上の後見人(ガーディアン)を含むもの」を意味する。 「審査機関」とは「精神保健施設への患者の非自発入院又は退院制限を再審査するため原則17に従って設置された組織」を意味する。 一般的制限事項 本原則において規定された諸権利の行使は、法的に規定され、かつ、本人若しくは他人の健康、安全を護るために必要であるか、さもなければ公共の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳又は他人の基本的権利と自由を護るために必要な限度においてのみ、制限を受ける。 原則1 基本的な自由と権利 1 すべての人は保健と社会的ケアの体系の一部である、最良で有用な精神保健ケアを利用する権利を有する。 2 精神病者又は精神病者として扱われているすべての人は、人道的かつ人間固有の尊厳を尊重して処遇される。 3 精神病者又は精神病者として扱われているすべての人は、経済的、性的及び他の形態の搾取、肉体的あるいは他の虐待及び品位を損なう取り扱いから保護される権利を有する。 4 精神病に基づく差別があってはならない。「差別」とは、権利の平等な享受を無効にし、又は損なう効果を有する区別、排除、特恵を意味する。精碑病者の権利の保護又は向上の確保のためだけの特別の手段は差別的であるとみなされない。差別には、本原則の規定に従って採られた精神病者や他の個人の人権を守るのに必要な区別、排除、特恵は含まれない。 5 精神病者は各々、世界人権宣言、経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、障害者の権利宣言、あらゆる形態の抑留または拘禁の下にあるすべての者を保護するための原則といったような他の関連文書において認められているすべての市民的、政治的、経済的、社会的、文化的権利を行使する権利を有する。 6 精神病を理由とする法的能力が欠如しているとの決定及び無能力の結果法定代理人が指名されるという決定は、国内法によって設置される独立、公平な審査機関による公正な聴聞の後にのみなされるものとする。能力が争われている者は、弁護人によって代理される権利がある。能力が争われている者が自らそのような代理人を選任しない場合には、その者が支払うに足る財産がない場合には費用を支払わずに代理人を選任できなければならない。弁護人は、裁判所が利益の衝突がないと確信しなければ、同一の手続において精神保健施設又はその職員を代理し、又は、能力が争われている患者の家族のメンバーを代理することができない。能力に関する決定と法定代理人の必要性は、国内法によって規定されている合理的期間毎に審査される。能力が争われている者、もしいるならばその法定代理人及び他の利害関係人は、そのような決定に対し上級裁判所に異議申立する権利を有する。 7 裁判所又は他の審理権を有する審査機関が、精神病者が自己の事務を管理する能力がないと判断した場合、その者の状態に必要かつ適切である限度で、精神病者の利益保護を確保するための手段が講じられる。 原則2 未成年者の保護 この原則の目的及び未成年者の権利を保護する国内法の趣旨の範囲内で、必要な場合には、家族のメンバー以外から法定代理人を指名することを含む特別な保護が、未成年者の権利を守るために与えられるものとする。 原則3 地域での生活 全ての精神病者は可能な限り地域において生活し働く権利をもっている。 原則4 精神病の決定 1 精神病(mental illness)であるとの決定は国際的に認められた医学的基準に即すべきである。 2 精神病であるとの決定は、政治的・経済的・社会的地位、文化的、人種的、宗教的グループの一員であることを理由としもしくは精神保健状態に直接関係しない理由に基づいてなされてはならない。 3 家族や職業上の葛藤あるいはその者の所属するコミュニティにおいて支配的な道徳的、社会的、文化的、政治的価値観又は宗教的信条とその者のそれとの不一致は精神病を判断する際の決定要因としてはならない。 4 患者としての過去の治療又は入院の経歴それ自体は、その者の現在もしくは将来における精神病であるかどうかの決定を正当化するものではない。 5 いかなる人も、個人を精神病に直接関係した目的や精神病の結果以外のことで精神病を有しているとして区別したり、あるいはその者が精神病であると指摘することはできない。 原則5 医学的検査 いかなる人も国内法で認められた方法に従う以外に、精神病であるか否かを決定するための医学的検査を受けることを強いられない。 原則6 機密 本原則が通用される全ての者に関する情報につき秘密を保護される権利は尊重されるものとする。 原則7 地域と文化の役割 1 全ての患者は、できるだけ自己の居住する地域で治療されケアされる権利を有する。 2 治療が精神保健施設において行なわれる場合には、患者は、可能な場合にはいつでも、自己の家庭又は自己の親族もしくは友人の家庭の近くの施設で治療される権利及び可及的速やかに地域に帰る権利を有する。 3 すべての患者は、自己の文化的背景に適した治療をうける権利を有する。 原則8 ケアの基準 1 すべての患者は、自己の健康に関するニーズに適合した医療的及び社会的ケアを受ける権利を有し、又は、他の病気の者と同一の基準に従ったケア及び治療を受ける権利を有する。 2 すべての患者は、不適切な投薬を含む危害、他の患者、スタッフもしくは他人による虐待又は精神的苦悩もしくは身体的不快をもたらす他の行為から保護される。 原則9 治療 1 すべての患者は、最も制限の少ない環境で、最も制限の少ないもしくは最も侵襲的でない治療によって、自己の健康的ニーズ及び他人の身体的安全を護るニーズに通うように処遇される権利を有する。 2 すべての患者の治寮及びケアは、個別的に定められた治寮計画に基づくものとし、この治療計画は患者と検討され(discussed)、定期的に再審査され、必要な変更を受け、かつ資格ある専門スタッフにより作成される。 3 メンタルヘルスケアは常に、国連総会において承認された「医療倫理原則」といった国際的に受け入れられている基準に従って提供されなければならない。精神保健の知識及び技術は、決して濫用されてはならない。 4 すべての患者の治療は、個人の自律性を保持し、増進することに向けられる。 原則10 投薬 1 投薬は、患者の最良の健康ニーズを満たすものでなければならず、治療的又は診断的目的のためにのみ患者に与えられ、罰として又は他者の便宜のためには決して用いられてはならない。本原則第11条第15項の規定に従い、精神保健従事者(mental health practitioner)は、効能が既知の又は実証された薬物のみを施用するものとする。 2 すべての投薬は法的資格を有する精神保健従事者によって処方され、患者の診療録に記録されるものとする。 原則11 治療の同意 1 治療は、以下の第6項から第8項まで、第13項及び第15項に規定する場合を除き、患者のインフォームド・コンセントなしには与えられないものとする。 2 インフォームド・コンセントとは、威嚇又は不適当な誘導(inducements)なしに、患者が理解できる方法及び言語により、適切で理解できる以下の情報を患者に適正に説明した後に、自由に得られた承諾をいう。 a 診断の評価 b 提案された治療の目的、方法、予想される期間及び期待される利益 c より侵襲的でない(less intrusive)方法を含む他の治療方法 d 提案された治寮で予想される苦痛又は不快、危険及び副作用 3 患者は、承諾の手続の間、患者が選んだ者の同席を要求することができる。 4 患者は、以下の第6項から第8項、第13項及び第15項による場合を除き、治療を拒否し、又は中止させる権利を有する。治療の拒否又は中止により生ずる結果については、患者に説明されなければならない。 5 患者は、決してインフォームド・コンセントに係る権利を放棄するよう要請され、又は勧められない。仮に、患者がこれを放棄しようとするときは、治療はインフォームド・コンセントなしにはおこなわれないことが患者に説明されなければならない。 6 以下の第7項、第8項及び第12項から第15項までの規定による場合を除き、次の条件が満たされた場合には、患者のインフォームド・コンセントなしに、提案された治療プランが患者に与えられる。 (a) 患者が、その際、非自発的患者となっていること (b) 第2項で規定されている情報を含むすべての関連する情報を提供された後独立機関が、提案された治療プランに対するインフォームド・コンセントを与える又は留保する能力を当該患者が欠いており、若しくは当該患者が国内法の規定により患者自身及び他者の安全を考慮した場合に不当にインフォームド・コンセントを留保していると認められ、しかも、 (c) 独立機関が、提案された治療プランは患者のヘルス・ニーズにとって最善の利益であると認めること 7 第6項は、法により患者の治療について同意するため権限を与えられた法定代理人を有する患者には通用されない。ただし、以下第12項から第15項に規定する場合を除き、上記第2項に規定する情報を与えられた法定代理人が、患者のために承諾する場合には、インフォームド・コンセントなしに治療を行うことができる。 8 以下第12項から第15項に規定する場合を除き、法により資格のある精神保健従事者が、患者自身又は他の者への即座の又は切迫した害が及ぶことを防ぐために緊急に必要であると認める場合もまた、治療はインフォームド・コンセントのない、いかなる患者に対しても行うことができる。但し当該治療は、この目的のために厳密に必要とされる期間を超えて行なわれてはならない。 9 患者のインフォームド・コンセントなくして治療が認められる場合においてもなお、患者に対し当該治療の本質及び他の可能な代替方法について知らせ、及び治療プランの進展の際可能な限り患者を参加させるよう、あらゆる努力が払われねばならない。 10 すべての治療は、それが非自発的か又は自発的かを記して患者の医学的記録に直ちに記録されねばならない。 11 患者の身体的拘束又は非自発的隔絶は、精神保健施設において公に認められた手続に従い、かつ、それが患者自身又は他の者への即座のないし切迫した害が及ぶことを防ぐ唯一の手段である場合を除いては、行なわれてはならない。それは、当該目的のために厳密に必要とされる期間を超えて行なわれてはならない。 身体的拘束又は非自発的隔離のすべての事例、それらを行う理由並びにそれらの本質及び程度については、当該患者の医学的記録に記載される。拘束され又は隔離される患者は、人道的環境に置かれ、資格のあるスタッフのケア、綿密かつ定期的な監督を受ける。 法定代理人は、患者の身体的拘束又は非自発的隔離について、直ちに知らされなければならない。 12 不妊手術(sterilization)は、精神病の治療としては決して行なわれない。 13 大きな医学的あるいは外科的処置は、国内法で認められている場合であって、その処置が、当該患者のヘルス・ニーズにとって最善であり、当該患者がインフォームド・コンセントを与えた場合に限り、精神病者にこれを行うことができる(但し患者がインフォームド・コンセントを与える能力を欠き、その処置が独立機関による承認を与えられた場合を除く)。 14 精神病者に対する精神外科手術(psychosergery)及び他の侵襲的かつ不可逆的治療は精神保健施設における非自発的患者に村し決して行うことはできず、及び国内法が実行を認めている範囲内において、いかなる患者に対しても当該患者がインフォームド・コンセントを与え、かつ、独立した外部機関が真にインフォームド・コンセントが得られ、かつ、当該治療が患者のヘルス・ニーズに最善のものであると認めた場合に限り、行うことができる。 15 臨床試験及び実験的治療は、インフォームド・コンセントを与えることが不可能な患者に対し、その目的のために特に構成された資格があり独立した審査機関が承認を与えた場合を除き、インフォームド・コンセントのないいかなる患者に対しても行なわれない。 16 上記第6項から第8項まで及び第13項から第15項までに規定されている場合において、患者若しくはその法定代理人又は何らかの利害関係人は、患者に与えられている治療に関して裁判所又は他の独立機関に異議申立をする権利を有する。 原則12 権利の告知 1 精神保健施設内の患者は、本原則に従った権利及び国内法下での権利のすべてについて患者が理解する形式と言語で入院後可及的速やかに告知される。その場合、告知には当該権利についての説明とその行使の仕方についての説明を含むものとする。 2 患者の権利は、患者がそのような説明を理解できない場合、できない期間は、もしいて適当な場合はその法定代理人に対し、及び患者の利益を最もよく代理でき、そうする意志のある適切な者に告知される。 3 必要な能力を有する患者は、当該施設当局に対し自己を代理する者ばかりでなく自己のために告知されるものを指名する権利を有する。 原則13 精神保健施設における権利と条件 1 精神保健施設内のすべての患者は、特に自己に関する以下のことについて十分に尊重される権利を有する。 (a) 法の下で個人としてどこにおいても認められること。 (b) プライバシー (c) 施設内の他人とコミュニケートする自由、検閲を受けない個人的通信を発信及び受信する自由、弁護人又はその法定代理人の秘密を保障された訪問を受け、合理的な時間にいつでも他の訪問者の訪問を受ける自由、郵便及び電話サービス並びに新聞、ラジオ、及びテレビに接する自由 (d) 宗教又は信条の自由 2 精神保健施設内の環境及び生活条件は、同年齢の者の通常の生活に可能な限り近いものとし、特に以下の施設を含む。 (a) レクリエーション及びレジャー活動のための施設 (b) 教育施設 (c) 日常生活、レクリエーション及びコミュニケーンョンに必要なものを購入し、受け取る施設 (d) 患者の社会的及び文化的背景に因んだ活動的仕事に従事するための施設及び地域社会への復帰を促進するための適当な職業的リハビリ手段のための施設並びにそういった施設の使用を奨励されること。これらの手段には、地域社会において雇用を確保又は維持できる患者に対する職業ガイタンス、職業訓練及び職業紹介サービスを含む。 3 決して患者は強制労働に従わされない。患者のニーズ及び制度の運営上の要求に適合する範囲内で患者は自己の望むタイプの仕事を選ぶことができる。 4 精神保健施設内の患者の労働は搾取されてはならない。すべての患者は国内法や慣習に従って、従事したどのような労働についても患者でない人が当該労働を行った場合に支払われるのと同じ報酬を受ける権利を有する。いずれにしてもすべての患者がその労働について精神保健施設に対して支払われている報酬の正当な分け前を受け取る権利を有する。 原則14 精神保健施設のための資源 1 精神保健施設は、他の保健施設と同一水準の資源、特に以下のものについてのアクセスを有する。 (a) 十分な人数の、資格を有する医学その他の適切な専門スタッフ、並びに患者にプライバシー及び適切な積極的治療のプログラムを提供するのに十分なスペース (b) 患者の診断及び治療機器 (c) 適切な専門的ケア、並びに (d) 薬物の供給を含む適切、定期的かつ包括的な治療 2 すべての精神保健施設は、患者のおかれている状態、治療及びケアが本原則に従っていることを確かめるために、権限を有する当局によって十分な頻度で監査を受けるものとする。 原則15 入院原則 1 患者が精神保健施設において治療を必要とする場合には、非自発的入院を避けるためにあらゆる努力が払われるものとする。 2 精神保健施設へのアクセスは、他の疾患のための他の施設へのアクセスと同じ方法で行なわれる。 3 非自発的と認められないいかなる患者も、原則16で規定される非自発的患者として退院制限される基準が通用されない場合には、いつでも精神保健施設を退去する権利を有し、患者はこの権利について告知されるものとする。 原則16 非自発的入院 1 人が (a)患者として非自発的に精神保健施設に入院をさせられ、又は (b)既に患者として自発的に精神保健施設に入院した後に、非自発的入院患者として退院制限されるのは、原則4に従ってこの目的のために法律によって権限を与えられた有資格の精神保健従事者が、当該患者は精神病であると決定し、かつ、以下のとおりであると判断した場合に限られる。 (a) その精神病のために、自己又は他人への即時の又は差し迫った危害の大きな可能性(serious likelihood)があること。 又は、 (b) 精神病が重篤でありかつ判断力が阻害されている者にあっては、この者を入院させ又は入院させ続けることができない場合には、状態の重大な悪化に至るか、又は、最も規制の少ない代替方法(the least restrictive alternative)の原則に従って精神保健施設への入院によってのみ実施し得る治療について、これを与えることが妨げられること。 (b)の場合においては、可能な場合には、最初の診断者とは独立した第三者の精神保健従事者に診察されるべきである。そのような診察を受けた場合には、非自発的入院又は退院制限は、第三者の精神保健従事者の同意なくして行うことができない。 2 非自発的入院又は退院制限は、国内法の規定に従い、最初は、観察又は初期治療のために審査機関による患者の入院又は退院制限についての審査結果が出されるまでの、短い期間行なわれる。入院の理由は、遅滞なく患者に伝えられ、入院の事実及びその理由は審査機関に、もしいるなら患者の法定代理人及び患者の反対がない限り患者の家族に遅滞なく詳細に伝えられる。 3 精神保健施設は、国内法で規定されている所管官庁によって非自発的入院患者を受け入れるように指定されている場合にのみ受け入れることができる。 原則17 審査機関 1 審査機関は、国内法によって設置された司法又は他の独立公正な機関であり、国内法により定められた手続にしたがって機能する。審査機関は、決定をする際に、一人又はそれ以上の資格のある独立した精神保健従事者の助力を得、その助言を考慮に入れる。 2 原則16第2項で要求されているように、非自発的患者として入院又は退院制限の決定についての審査機関の最初の審査は、入院又は退院制限決定後可及的速やかに実施され、国内法で規定されている簡単迅速な手続きに従って行なわれる。 3 審査機関は、国内法で規定されている合理的な間隔をおいて非自発的患者の事例を定期的に審査する。 4 非自発的患者は、国内法で規定されている合理的な間隔をおいて審査機関に対し退院し、又は、自発的患者となるための申請を行うことができる。 5 各審査において審査機関は、原則16第1項で規定する非自発的入院に関する条件がなお満たされているか否かを検討するものとし、もしそれを満たしていなければ、患者は非自発的患者として扱われることから免れる。 6 当該事例に関して責任のある精神保健従事者は、いつでも、非自発的患者としてその者を退院制限する条件がもはや満たされていないと認めたならば、その者を退院制限を行う患者として扱うことをやめるよう命じるものとする。 7 患者若しくはその法定代理人又はその利害関係人は、患者が精神保健施設に入院させられたり、退院制限をされるという決定に対し上級の裁判所に異議申立する権利を有する。 原則18 手続保障 1 患者は、いかなる不服申立手続や異議申立手続における代理を含めて患者自身を代理する弁護人を選び指名する権利を有する。もし患者がこのようなサービスを確保できないのなら支払う十分な財産がない限り弁護人を無料で利用できるものとする。 2 患者は、必要な場合通訳サービスの援護を受ける権利を有する。そのようなサービスが必要な場合であって患者がそれを確保することができない場合には、患者が支払うに十分な財産がない場合は無料でそのサービスを利用できる。 3 患者及びその弁護人は、いかなる聴聞においても、関連し、許容される独立した精神保健報告及び他の報告並びに口頭、書面その他の証拠を要求し又は提出することができる。 4 提出された患者の記録、報告及び文書のコピーは、患者に見せることが患者の健康に重大な害を及ぼし又は他人の安全に危険を及ぼすと判断されるような特別な場合を除いて、患者及び患者の弁護人に提供される。国内法の規定に従い、患者に提供されない文書は、それが秘密のうちになされうる場合には、当該患者の法定代理人及び弁護人に提供される。文書の一部が患者に提供されない場合には、当該患者又はいるならばその弁護人は、差し止めの事実及びその理由を知らされ、司法審査を受けるものとする。 5 患者、患者の法定代理人及び弁護人はいかなる聴聞にも出席し、参加し、直接聴聞される権利を有する。 6 患者、患者の法定代理人及び弁護人が特定の人物が聴聞に出席することを要求するならば、その者の出席が患者の健康に重大な障害を引き起こし、又は他人の安全に危険を及ぼすと認められない場合には、当該要求は認められる。 7 聴聞又はその一部が公開であるか非公開であるか又は公に報告されるかどうかを決定する場合は、患者の要望、患者及び他人のプライバシーの尊重の必要性並びに患者の健康に重大な害を与えることを防ぎ、又は他人の安全に危険を及ぼすことを避ける必要性に対して十分な考慮を払うものとする。 8 聴聞による決定及びその理由は書面で表示される。そのコピーは患者、その法定代理人及び弁護人に与えられる。当該決定について全体又はその一部を公表するか否かの決定を行うに際しては、患者の希望、患者及び他人のプライバシーの尊重に対する必要性、裁判の公開運営における公衆の利益並びに患者の健康に対し重大な害を与えられることを防ぎ、又は他人の安全に危険を及ぼすことを避ける必要性に対して十分な考慮を払うものとする。 原則19 情報へのアクセス 1 患者(本原則においてはかつて患者だった者を含む)は、精神保健施設に保存されている当該患著及び個人的記録の中の自己の情報にアクセスする権利を有する。この権利は、患者の健康に重大な害を及ぼすことを防ぎ、又は他人の安全に危険を及ぼすことを避けるための制限に従うものとする。国内法の規定に従い、患者に提供されないような情報は、それが秘密になされうる場合には、患者の法定代理人及び弁護人に与えられる。どのような情報も患者に提供されない場合には、患者又はもしいるならばその弁護人は、差し止めの事実及びその理由を知らされ、それは司法審査される。 2 患者、患者の法定代理人又は弁護人によるいかなる文書による意見も、請求により患者のファイルに入れられる。 原則20 刑事犯 1 この原則は刑事犯罪のため拘禁の刑の言渡を受けた者、又は刑事手続あるいは刑事犯罪の捜査の過程で拘禁されている者で精神病であると決定され、もしくは精神病であると信じられている者に通用される。 2 原則一で規定するように、全てのそういった人は利用できる最善のメンタルヘルスケアを受けるべきである。これらの原則は、このような事情の下で必要とされる限定的な修正と例外のみを除き、可能な限り最大限の通用を受ける。そのような修正や例外は原則一第五項に述べられている文書における個人の権利を害するものではない。 3 国内法は、裁判所又は他の資格のある当局が独立した医学的助言に基づき、そのような者が精神保健施設に入所できるように命ずることを認めることができる。 4 精神病であると決定された人の治療は、いかなる事情の下でも原則11を充足するものでなければならない。 原則21 不服申立 患者及びかつて患者であったすべての者は、国内法によって定められている手続を通じて不服申立をする権利を有する。 原則22 監督と補償 各国は、本原則に従うことを促進するため、精神保健施設の監査、不服申立、調査及び解決並びに職業的違法行為又は患者の権利の侵害に対する適切な懲戒もしくは司法手続きに関する適切な制度の施行を確保しなければならない。 原則23 実施 1 各国は、定期的に見直しを受ける適切な立法的、司法的、行政的、教育的及び他の適切な手段を通じて本原則を履行すべきである。 2 各国は、本原則を適切かつ積極的な手段により広く知らしめる。 原則24 精神保健施設に関する原則の範囲 本原則は、精神保健施設に入所している全ての人に通用される。 原則25 既得権の救済 本原則が、権利を認めず、又は十分に認めていないとの理由により、通用可能な国際的、国内的法律において認められている権利を含む患者の既存の権利が制限され、又は損なわれてはならない。
附属文書U 〔精神病者の保護、及び精神保健の改善にむけた原則本文の概論〕 (1) 近年、精神病者の治療をめぐり、国際的関心が高まってきている。国際連合は永年にわたり、しばしば諸権利が制限され、不利な条件のもとにある人々の保護に関与してきた。精神病者は、とりわけ制約を受け易く、特別の保護を必要としている。彼等の諸権利が国際人権憲章に従って、明確に規定され、かつ確立されることは不可欠である。 (2) 科学、そして技術の進歩は、よりよき生活条件への機会を高めている。然しながら、かかる進歩は基本的自由、及び人権に脅威を与え得るだけではなく、さまざまな社会問題を引き起こすこともあり得る。同様に、医学的、精神療法的手法は個人の身体的、知的統合への脅威ともなり得る。 (3) 科学、そして技術がもたらした成果、手法が特に精神病を理由として拘束されている人々の治療にあたって、誤って用いられているとの懸念すべき報告がなされてきている。 (4) 独立した、公平な機関へのアクセスに通用される手続きを含め、精神保健法の下での諸手続きは、患者の自由権にとって極めて重要である。彼等の人権、そして法的諸権利はあらゆる手段をもって擁護されねばならない。 (5) この諸原則は施設への患者の入院、拘束、治療、退院、そして地域におけるリハビリテーションに関連するあらゆる法的、医学的、社会的、そして倫理的側面を包括しようとするものではない。国際的社会がもつ法的、医学的、社会的、経済的、そして地理的諸条件の多様性からみれば、すべての国家で、同時に、この諸原則のすべてが直ちに通用され得ないことは明らかである。 (6) この諸原則は精神病者の保護、そして精神保健の改善に関与するものである。諸原則は、特に精神保健施設に非自発的に入院を要する極く少数の患者に焦点をおいている。治療を受けている精神病者の大多数は病院に入院していない。入院を要する極く少数者のうち、その多くは自発的に入院している。わずかの者だけが非自発的入院を必要としているのである。精神病者の介護、援助、治療、そしてリハビリテーションにあたる諸施設は、できる限り、彼等が生活している地域内に設置されねばならない。従って、精神保健施設への入院は、こうした地域内施設が適切ではなく、そしてまた利用できない場合にのみ行なわれるべきである。病院に代わる、より制限の少ない、効果的精神保健サービスを行う上で、より多くの諸資源をもつ設備があれば、この諸原則はこれを支持するにより容易である、と保障するのに役立つのであろう。 (7) 精神病者を虐待から防ぐこと、精神病のラベルは患者の諸権利を不当に制限する口実にならないことを保障することは重要である。同様に、精神病者に対する粗略な処遇を防ぐこと、そしてまた、介護、治療への彼等の要望、殊に地域の中に溶け込んでいる人々のこうした要望が充たきれるよう保障することは重要である。 (8) この諸原則は、なかんずく、各国政府、専門機関、国立、地区、そして国際的諸機関、適格な非政府機構、及び個々人にとって、指針として役立つよう意図している。また諸原則の採択、通用過程で、経済的、その他の事務的難題を克服するために、持続した努力を鼓舞しようとするものである。というのは、諸原則は精神病者の基本的自由、及び法的諸権利を擁護する上で、国際連合の最低基準を示しているからである。 (9) 従って、各国政府は、必要ならば、諸原則に自国の法規を適合させるよう考慮すべきである。あるいはまた、新たな関連法規を導入するにあたっては、諸原則に従った規定を採用すべきである。諸原則は患者保護に対する国際連合の最低基準を設けたのである。 この国連原則の訳文は、これのほかに、「精神病者の保護および精神保健ケア改善に関する国連総会決議」という表題で、「精神保健福祉士養成セミナー 第四巻 『精神保健福祉論』」(ヘルス出版)に、広田伊蘇夫氏・永野貫太郎氏訳のものが、また、「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」という表題で、「我が国の精神保健(精神保健ハンドブック)平成5年度版」(厚生省保健医療局精神保健課監修 厚健出版)に載っています。 英文原典掲載サイト: The protection of persosn with mental illness and the improvement of mental health care <https://www.un.org/documents/ga/res/46/a46r119.htm> ( "United Nations" (国際連合)ウェブサイト) 【参考資料集】(資料閲覧に関してのお願い) |