感化法
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル感化法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御 名 御 璽
明治三十三年三月九日
内閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
内 務 大 臣 侯爵 西郷從道
司 法 大 臣 清浦奎吾
法律第三十七號(官報 三月十日)
感化法
第一條 北海道及府縣ニハ感化院ヲ設置スヘシ
第二條 感化院ハ地方長官之ヲ管理ス
第三條 感化院ニ關スル經費ハ北海道及沖繩縣ヲ除クノ外府縣ノ
負擔トス
第四條 北海道及府縣ニ於テハ區域内ニ團體又ハ私人ニ屬スル感
化事業ノ設備アルトキハ内務大臣ノ認可ヲ經テ之ヲ感化院ニ代
用スルコトヲ得
代用感化院ニ關シテハ本法ノ規定ヲ準用ス
第五條 感化院ニハ左ノ一ニ該當スル者ヲ入院セシム
一 地方長官ニ於テ滿八歳以上十六歳未滿ノ者コレニ對スル
適當ノ親權ヲ行フ者若ハ適當ノ後見人ナクシテ遊蕩又ハ
乞丐ヲ爲シ若ハ惡交アリト認メタル者
二 懲治場留置ノ言渡ヲ受ケタル幼者
三 裁判所ノ許可ヲ經テ懲戒場ニ入ルヘキ者
第六條 入院者ノ在院期間ハ滿二十歳ヲ超ユルコトヲ得ス但シ第
五條第三號ニ該當スル者ハ此ノ限ニアラス
第七條 地方長官ハ何時ニテモ條件ヲ指定シテ在院者ヲ假ニ退院
セシムルコトヲ得
假退院者ニシテ指定ノ條件ニ違背シタル時ハ地方長官ハ復院セ
シムルコトヲ得
第八條 感化院長ハ在院者ニ對シ親權ヲ行フ
在院者ノ父母又ハ後見人ハ在院者及假退院者ニ對シ親權又ハ後
見ヲ行フコトヲ得ス
第五條第二號及第三號ニ該當スル者ノ財産管理ニ關シテハ前二
項ノ規定ヲ適用セス
第九條 感化院長ハ命令ノ定ムル所ニヨリ在院者ニ對シ必要ナル
檢束ヲ加フルヲ得
第十條 行政廳ハ第五條第一號ニ該當スヘキ者アルト認メタルト
キハ之ヲ地方長官ニ具申スヘシ此ノ場合二於テハ假ニ之ヲ留置
スルコトヲ得
前項留置ノ期間ハ五日ヲ超ユルコトヲ得ス
第十一條 地方長官ハ在院者ノ扶養義務者ヨリ在院費ノ全部又ハ
一部ヲ徴收スルヲ得
前項ノ費用ヲ指定ノ期限内ニ納付セサル者アルトキハ國税徴收
法ノ例ニヨリ處分スルコトヲ得
第十二條 在院者ノ親族又ハ後見人ハ在院者ノ退院ヲ地方長官ニ
出願スルコトヲ得
前項出願ノ許可ヲ得サル在院者ニ關シテハ六箇月ヲ經過スルニ
非サレハ退院ヲ出願スルコトヲ得ス
第十三條 第五條第一號又ハ第十一條第二項ノ處分ニ不服アル者
又ハ第十二條第一項ノ出願ヲ許可セラレサル者ハ訴願ヲ提起ス
ルコトヲ得
附 則
第十四條 本法施行ノ期日ハ府縣會ノ決議ヲ經地方長官ノ具申ニ
依リ内務大臣之ヲ定ム
第十五條 北海道沖繩縣ニ關シテハ敕令ヲ以テ別段ノ規定ヲ設ク
ルコトヲ得
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル感化法中改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公
布セシム
御 名 御 璽
明治四十一年四月七日
内閣總理大臣 侯爵 西園寺公望
内 務 大 臣 原 敬
司 法 大 臣 男爵 千家 尊福
法律第四十三號(官報 四月八日)
感化法中左ノ通改正ス
第三條 感化院ニ關スル經費ハ北海道地方費及府縣ノ負擔トス
第五條 感化院ニハ左ノ一ニ該當スル者ヲ入院セシム
一 滿八歳以上十八歳未滿ノ者ニシテ不良行爲ヲ爲スノ虞ア
リ且ツ適當ニ親權ヲ行フモノナク地方長官ニ於テ入院ヲ
必要ト認メタル者
二 十八歳未滿ノ者ニシテ親權者又ハ後見人ヨリ入院ヲ出願
シ地方長官二於テ其必要ヲ認メタル者
三 裁判所ノ許可ヲ經テ懲戒所ニ入ルヘキ者
第十一條ノ二 國庫ハ道府縣ノ支出ニ對シ敕令ノ定ムル所ニ從ヒ
六分ノ一乃至二分ノ一ヲ補助ス
第十三條ノ二 府縣ハ共同シテ感化院ヲ設置スルコトヲ得
前項感化院ノ管理及費用分擔ノ方法ハ關係地方長官ノ協議ニヨ
リ之ヲ定ム若シ協議
調ハサルトキハ内務大臣之ヲ定ム
第十三條ノ三 第五條ニ該當スルモノニシテ別ニ命令ヲ以テ定メ
タル者ハ之ヲ國立感化院ニ入院セシムルコトヲ得
第六條乃至第九條、第十一條、第十二條、第十三條ノ規定ハ國
立感化院ニ之ヲ準用ス
第十四條中「府縣會ノ決議ヲ經」ヲ削ル
第十五條ヲ削ル
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル感化法中改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公
布セシム
御 名 御 璽
攝 政 名
大正十一年四月十七日
内閣總理大臣 子爵 高橋 是清
内 務 大 臣 床次竹次郎
司 法 大 臣 伯爵 大木 遠吉
法律第四十四號(官報 四月十八日)
感化法中左ノ通改正ス
第五條第一號中「十八歳」ヲ「十四歳」ニ改メ同條ニ左ノ一號ヲ
加フ
四 少年審判所ヨリ送致セラレタル者
第六條中「第三號」ノ下ニ「又ハ第四號」ヲ加フ
附 則
本法施行ノ期日ハ敕令ヲ以テ之ヲ定ム
第五條第一號ニ規定スル地方長官ノ權限ハ少年法ニ依ル保護處分
ノ實施セラレサル地區ニ限リ仍從前ノ例ニ依ル
・感化法制定以前は、刑務所(監獄)の中の懲治監(後に懲治場)に
幼少の犯罪者や親から願い出のあった非行少年を収容した。
・感化法制定審議の中で、感化院を内務省と文部省のどちらの管
轄に処すべきかの議論があったが、内務省所管となった。
・感化法公布後の感化院設置はなかなか徹底しなかったが、明治
四十年の刑法改正により、十四歳未満は罰せられなくなったこ
とから、年少者は感化院に収容するしかなく、これにより、全
国に感化院が置かれるようになった。
・大正十一年の少年法公布により、これに即応して感化法も改正
され、十四歳以上を少年法、十四歳未満を感化法が対応するこ
とになった。
・少年教護法施行により、感化法は廃止となった。
少年教護法
朕帝國議會ノ協賛ヲ經タル少年ヘ護法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシ
ム
御 名 御 璽
昭和八年五月四日
内閣總理大臣 子爵 斎藤 實
内 務 大 臣 男爵 山本達雄
文 部 大 臣 鳩山一郎
司 法 大 臣 小山松吉
法律第五十五號(官報 五月五日)
少年ヘ護法
第一條 本法ニ於テ少年ト稱スルハ十四歳ニ滿タザル者ニシテ不
良行爲ヲ爲シ又ハ不良行爲ヲ爲ス虞アル者ヲ謂フ
第二條 北海道及府縣ハ少年ヘ護院ヲ設置スベシ
前項少年ヘ護院ノ數及收容定員ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
國ハ必要ノ場所ニ少年ヘ護院ヲ設置ス
國立ヘ護院ニハヘ護事務ニ從事スル職員養成所ヲ附設スルコト
ヲ得
第三條 少年ヘ護院ニ於ケルヘ護ノ本旨、ヘ科、設備及職員ニ關
スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條 少年ヘ護院内ニ少年鑑別機關ヲ設クルコトヲ得
第五條 道府縣ノ設置スル少年ヘ護院及少年鑑別機關ハ地方長
官、國立少年ヘ護院ハ内務大臣之ヲ管理ス
第六條 道府縣ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ少年ヘ護ノ爲少年ヘ護委
員ヲ置クベシ
第七條 國道府縣ニ非ザル者本法ニ依ルヘ護ヲ目的トスル少年ヘ
護院ヲ設置セント
スルトキハ内務大臣ノ認可ヲ受クベシ
第八條 地方長官ハ左記各號ノ一ニ該當スル者アルトキハ之ヲ少
年ヘ護院ニ入院セ
シムベシ
一 少年ニシテ親權又ハ後見ヲ行フモノナキ者
二 少年ニシテ親權者又ハ後見人ヨリ入院ノ出願アリタル者
三 少年審判所ヨリ送致セラレタル者
四 裁判所ノ許可ヲ得テ懲戒場ニ入ルベキ者
地方長官ハ前項第一號及第二號ニ該當スル者ニ對シ前項ノ處分
ヲ爲スノ外之ヲ少年ヘ護委員ノ觀察ニ付スルコトヲ得
第九條 内務大臣ハ前條第一項第一號又ハ第二號ニ掲グル者左記
各號ノ一ニ該當スルトキハ之ヲ國立ヘ護院ニ入院セシムルコト
ヲ得
一 性状特ニ不良ニシテ地方長官ヨリ入院ノ申請アリタル者
二 前號ニ該當セズト雖特ニ入院ノ必要アリト認メタル者
第十條 地方長官ハ第八條第一項第一號又ハ第二號ニ該當スル在
院者ヲ何時ニテモ條件ヲ指定シテ假ニ退院セシムルコトヲ得
前項ノ假退院者ハ之ヲ家庭其ノ他適當ナル施設ニ委託シ又ハ少
年ヘ護委員ノ觀察ニ付スルコトヲ得
假退院者ハ之ヲ在院者ト看做ス
假退院者ニシテ指定ノ條件ニ違背シタルトキハ地方長官ハ之ヲ
復院セシムルコトヲ得
第十一條 少年ノ在院期間及觀察期間ハ少年ノ滿二十歳ニ至ル迄
トス但シ第八條第三號又ハ第四號ニ該當スル者ハ此ノ限ニ在ラ
ズ
第十二條 内務大臣又ハ地方長官ハ在院者ニ對シヘ護ノ目的ヲ達
シタリト認ムルトキハ之ヲ退院セシムルコトヲ得
第十三條 學校長、市町村長、少年ヘ護委員又ハ警察署長第八條
第一項第一號ニ該當スル者アリト認ムルトキハ之ヲ地方長官ニ
具申スベシ
第十四條 地方長官、警察署長又ハ市町村長必要アリト認ムルト
キハ第八條第一項第一號ニ該當スル者ノ處分決定ニ至ル迄一時
保護ノ爲適當ナル施設若ハ家庭ニ委託スルコトヲ得仍警察署長
ニ於テ特ニ必要アリト認ムルトキハ五日ヲ超エザル期間假ニ留
置ヲ爲スコトヲ得
前項ニ依リ警察署長ニ於テ行フ留置ハ他ノ收容者ト分離スベシ
第十五條 少年ヘ護院長ハ在院者ニ對シ親權ヲ行フ但シ親權者又
ハ後見人アル者ノ財産管理ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第十六條 内務大臣又ハ地方長官ハ本人又ハ扶養義務者ヨリ在院
委託及一時保護ニ要シタル費用ノ全部又ハ一部ヲ徴收スルコト
ヲ得
前項費用ノ徴收ハ必要ニ應ジ納付義務者ノ居住地又ハ財産所在
地ノ地方長官又ハ市町村長ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
第一項ノ費用ヲ指定ノ期限内ニ納付セザル者アルトキハ國税徴
收法ノ例ニ依リ處分スルコトヲ得
第十七條 第八條乃至第十條ノ處分ヲ受ケタル者ノ親族又ハ後見
人ハ入院後六箇月ヲ經過シタル場合其ノ處分ノ解除又ハ變更ヲ
内務大臣又ハ地方長官ニ出願スルコトヲ得
第十八條 第八條第九條第十條又ハ第十六條第一項及第三項ノ處
分ニ不服アル者及前條ノ出願ヲ許可セラレザル者ハ訴願ヲ提起
スルコトヲ得
第十九條 道府縣ノ設置スル少年ヘ護院及少年鑑別機關、少年ヘ
護委員、一時保護及地方長官ノ爲シタル委託ニ關スル費用ハ道
府縣ノ負擔トス
市町村長第十四條ノ一時保護ヲ爲シタルトキハ其ノ費用ハ市町
村費ヲ以テ一時之ヲ立替フベシ
第二十條 國庫ハ前條第一項ノ規定ニ依ル道府縣ノ支出ニ對シ勅
令ノ定ムル所ニ依リ六分ノ一乃至二分ノ一ヲ補助ス
第七條ノ規定ニ依リ認可セラレタル少年ヘ護院ノ支出ニ付亦前
項ヲ適用ス
第二十一條 第七條ノ規定ニ依リ認可ヲ受ケタル少年ヘ護院ノ用
ニ供スル土地建物ニ對シテハ地方税ヲ課セズ但シ有料ニテ之ヲ
使用セシメタル者ニ對シテハ此ノ限ニ在ラズ
第二十二條 内務大臣及地方長官ハ第七條ノ規定ニ依リ認可ヲ受
ケタル少年ヘ護院ヲ監督シ之ガ爲必要ナル命令ヲ發シ又ハ處分
ヲ爲スコトヲ得
第二十三條 第七條ノ規定ニ依リ認可セラレタル少年ヘ護院本法
若ハ本法ニ基キ發スル命令又ハ認可ノ條件ニ違反シタルトキハ
内務大臣ハ認可ヲ取消スコトヲ得
第二十四條 少年ヘ護院長ハ在院中所定ノヘ科ヲ履修シ性行改善
シタル者ニ對シテハ其ノ退院後ニ於テ尋常小學校ノヘ科ヲ修了
シタル者ト認定スルコトヲ得但シ少年ヘ護院ノヘ科ハ小學校令
ニ遵據シ文部大臣ノ承認ヲ經ルコトヲ要ス
前項ノ認定ヲ受ケタル者ハ他ノ法令ノ適用ニ關シテハ尋常小學
校ヲ卒業シタル者ト看做ス
第二十五條 本法中町村又ハ町村費トアルハ町村制ヲ施行セザル
地ニ在テハ之ニ準ズベキモノトス
第二十六條 少年ノヘ護處分ニ付セラレタル事項ハ之ヲ新聞紙其
ノ他ノ出版物ニ掲載スルコトヲ得ズ
前項ノ規定ニ違反シタルトキハ新聞紙ニ在リテハ編輯人及發行
人、其ノ他ノ出版物ニ在リテハ著作者及發行者ヲ三月以下ノ禁
錮又ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム(昭和九年十月十日施行)
感化法ハ之ヲ廢止ス
少年法ニ依ル保護處分ノ實施セラレザル地區ニ限リ第一條ノ年齢
ハ之ヲ十八歳未滿トス
本法施行ノ際現ニ存スル國立感化院及道府縣立感化院ハ之ヲ本法
ニ依リ設置シタル少年ヘ護院ト看做シ其ノ在院者ハ之ヲ本法ニ依
リ入院セシメラレタルモノト看做ス
本法施行ノ際現ニ存スル代用感化院ハ之ヲ第七條ノ規定ニ依リ認
可ヲ受ケタル少年ヘ護院ト看做シ其ノ在院者ニシテ感化法第五條
ノ規定ニ依リ入院セシメラレタルモノハ之ヲ本法ニ依リ入院セシ
メラレタルモノト看做ス
本法施行ノ際道府縣立感化院ノ設置ナキ道府縣ハ本法施行ノ日ヨ
リ五年以内ニ少年ヘ護院ヲ設置スルコトヲ要ス
【参考までに】
少年教護法施行令
(昭和九(一九三四)年九月二八日)
第一条 少年教護院ニ於ケル教護ハ在院者ニ対シ監護養育ヲ加ヘ
道徳教育及国民教育ノ基礎並ニ独立自営ニ必要ナル知識技
能ヲ授ケ其ノ資質ノ改善向上ヲ図ルヲ以テ本旨トシ特ニ在
院者ノ性能ニ応ジ其ノ日常生活ノ訓練指導ニ留意スベキモ
ノトス
第二条 少年教護院ノ教科目ハ修身、国語、算術、国史、地理、
理科、図画、作業料、唱歌、体操及実業(農業、工業、商
業ノ一科目又ハ数科目)トシ女子ノ為ニハ家事及裁縫ヲ加
フ前項ノ実業ノ科目ハ少年教護院長之ヲ定ム第一項ノ教科
目ノ外少年教護院長ハ国立少年教護院二在リテハ内務大
臣、其ノ他ノ少年教護院二在リテハ地方長官ノ認可ヲ受ケ
公民科其ノ他必要ナル教科目ヲ加フルコトヲ得
第三条 少年教護院長ハ在院者ノ性能ニ応ジ之ニ課スベキ教科目
ヲ斟酌スルコトヲ得
第四条 少年教護院ノ教科ニシテ尋常小学校ノ教科ニ相当スルモ
ノニ用フル図書ハ文部省ニ於テ著作権ヲ有シ又ハ文部大臣
ノ検定シタル尋常小学校ノ教科用図書クルベシ
在院者ノ性能其ノ他ノ事由ニ因リ前項ノ規定ニ依リ難キ場
合ニ於テハ少年教護院長ハ国立少年教護院ニ在リテハ内務
大臣、其ノ他ノ少年教護院ニ在リテハ地方長官ノ認可ヲ受
ケ特別ノ教科用図書ヲ用フルコトヲ得
第五条 少年教護院ノ毎週教授時数ハ三十時ヲ超エ又十八時ヲ下
ルコトヲ得ズ但シ少年教護院長ハ在院者ノ性能ニ応ジ又ハ
夏期若ハ冬期ニ於テ必要アリト認ムルトキハ毎週教授時数
ヲ十二時迄ニ減ズルコトヲ得実習ノ教授時数ハ在院者ノ性
能等ニ依リ少年教護院長ニ於テ適宜之ヲ定ム実習ハ第一項
ノ教授時数外ニ渉リテ尚之ヲ課スルコトヲ得
第六条 前四条ニ定ムルモノヲ除クノ外少年教護院ノ教則、編
制、休業日其ノ他教科ニ関シ必要ナル事項ハ少年教護院長
ニ於テ之ヲ定ムベシ
児童虐待防止法
朕帝國議會ノ協賛ヲ經タル兒童虐待防止法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布
セシム
御 名 御 璽
昭和八年三月三十一日
内閣總理大臣 子爵 斎藤 實
内 務 大 臣 男爵 山本 達雄
法律第四十號(官報 四月一日)
兒童虐待防止法
第一條 本法ニ於テ兒童ト稱スルハ十四歳未滿ノ者ヲ謂フ
第二條 兒童ヲ保護スベキ責任アル者兒童ヲ虐待シ又ハ著シク其
ノ監護ヲ怠リ因テ刑罰法令ニ觸レ又ハ觸ルル虞アル場合ニ於テ
ハ地方長官ハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一 兒童ヲ保護スベキ責任アル者ニ對シ訓戒ヲ加フルコト
二 兒童ヲ保護スベキ責任アル者ニ對シ條件ヲ附シテ兒童ノ監
護ヲ爲サシムルコト
三 兒童ヲ保護スベキ責任アル者ヨリ兒童ヲ引取リ之ヲ其ノ親
族其ノ他ノ私人ノ家庭又ハ適當ナル施設ニ委託スルコト
前項第三號ノ規定ニ依ル處分ヲ爲スベキ場合ニ於テ兒童ヲ保
護スベキ責任アル者親權者又ハ後見人ニ非ザルトキハ地方長
官ハ兒童ヲ親權者又ハ後見人ニ引渡スベシ但シ親權者又ハ後
見人ニ引渡スコト能ハザルトキ又ハ地方長官ニ於テ兒童保護
ノ爲適當ナラズト認ムルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第三條 地方長官ハ前條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタル場合ニ於テ
必要アリト認ムルトキハ兒童ガ十四歳ニ達シタル後ト雖モ一年
ヲ經過スル迄仍其ノ者ニ付前條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲スコトヲ
得
第四條 前二條ノ規定ニ依ル處分ノ爲必要ナル費用ハ勅令ノ定ム
ル所ニ依リ本人又ハ其ノ扶養義務者ノ負擔トス但シ費用ノ負擔
ヲ爲シタル扶養義務者ハ民法第九百五十五条及第九百五十六条
ノ規定ニ依リ扶養義務ヲ履行スベキ者ニ對シ求償ヲ爲スヲ妨ゲ
ズ
第五條 前條ノ費用ハ道府縣ニ於テ一時之ヲ繰替支辯スベシ
前條ノ規定ニ依リ繰替支辯シタル費用ノ辯償金徴收ニ付テハ府
縣税徴收ノ例ニ依ル
本人又ハ其ノ扶養義務者ヨリ辯償ヲ得ザル費用ハ道府縣ノ負擔
トス
第六條 國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ道府縣ノ負擔スル費用ニ對
シ其ノ二分ノ一以内ヲ補助ス
第七條 地方長官ハ輕業、曲馬又ハ戸戸ニ就キ若ハ道路ニ於テ行
フ諸藝ノ演出若ハ物品ノ販賣其ノ他ノ業務及行爲ニシテ兒童ノ
虐待ニ渉リ又ハ之ヲ誘發スル虞アルモノニ付必要アリト認ムル
トキハ兒童ヲ用フルコトヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得
前項ノ業務及行爲ノ種類ハ主務大臣之ヲ定ム
第八條 地方長官ハ第二條若ハ第三條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シ又
ハ前條第一項ノ規定ニ依ル禁止若ハ制限ヲ爲ス爲必要アリト認
ムルトキハ當該官吏又ハ吏員ヲシテ兒童ノ住所若ハ居所又ハ兒
童ノ從事スル場所ニ立入リ必要ナル調査ヲ爲サシムルコトヲ得
此ノ場合ニ於テハ證票ヲ携帯セシムベシ
第九條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リ地方長官
ノ爲ス處分ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得
第十條 第七條第一項ノ規定ニ依ル禁止若ハ制限ニ違反シタル者
ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
兒童ヲ使用スル者ハ兒童ノ年齢ヲ知ラザルノ故ヲ以テ前項ノ處
罰ヲ免ルルコトヲ
得ズ但シ過失ナカリシ場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第十一條 正當ノ理由ナクシテ第八條ノ規定ニ依ル當該官吏若ハ
吏員ノ職務執行ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ其ノ尋問ニ對シ答
辯ヲ爲サズ若ハ虚僞ノ陳述ヲ爲シ又ハ兒童ヲシテ答辯ヲ爲サシ
メズ若ハ虚僞ノ陳述ヲ爲サシメタル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處
ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
・児童虐待防止法と少年教護法は、児童福祉法(昭和二二・一二・
一二、法律第一六四号、昭和二三・一・一施行)第六十五条によ
り、廃止された。