社会福祉協議会基本要項
                                    昭和37年4月                                  全国社会福祉協議会
前     文
1.変動しつつある社会的経済的諸条件のもとにおいて、わが国国民生活の上には、各地域間および  各階層間における格差の拡大、その他幾多の新しい福祉に欠ける状態が発生しつつある。これらの  格差を是正し、福祉に欠ける状態を充足して、国民生活の安定と向上をはかるために、とくに社会  保障制度の充実と強化が国の重要な課題となりつつあるが、社会保障制度の整備を促進し、その効  果をあげるためには、国民の一人一人がこれに深い理解と関心を持ち、ひろく社会的協力によって  これを推進せんとする気運を高めることが必要である。そのような気運の高揚は、国民各自が自己  の生活とその地域における具体的課題に当面し、その課題を自主的積極的に解決しようとする意欲  を振起することを通じてはじめて具体化されよう。   また近隣地区や市区町村段階の地域における住民生活上の問題には、その地域の努力のみをもっ  てしては解決困難なものもあるので、それらの課題はさらに都道府県、または全国の段階にとりあ  げられて解決の努力がなされるとともに、他方大きな地域全体にわたる問題と対策も小さな地域に  おろされて、これを解決する具体的な諸活動が地域住民の生活に直結したものとして実践される等  の、両面の活動が円滑に行われることがのぞまれる。そしてそのためには有機的、組織的な体制を  確立することが必要であり、しかもこれらの活動と体制は、緊密な公私の協力と専門家および住民  の提携によって推進される。   最近各分野において、いわゆる地区組識活動に対する新しい認識と強い関心がとみに高まってき  たことは当然であろう。 2.わが社会福祉協議会の組織活動は、本来このような要請にこたえる目的をもって推進されてきた  のであり、したがってその期待される任務は今後いよいよ大を加えようとしている。   しかし社会福祉協議会の現状は、最近かなり改善され、実績をあげつつあるとはいえ、今日いま  だ必ずしもこれらの期待にこたえるに十分なものにまで成長しているとはいえない。   市区町村社会福祉協議会の多くは、社会福祉関係者中心の組織であって行政機関に対する依存度  が高く、その活動も狭義の社会事業が主となっている傾向がみられ、ひろく住民の福祉に欠ける状  態を解明し、その解決をはかるには、なお不十分な状態にあるといわざるを得ない。   また、全国および都道府県の社会福祉協議会もいまだ全国民的な組織とはいえず、むしろ関係者  のみの組織としての性格が強く、さらに市区町村段階から全国段階までを通じて各段階の組織活動  が系統的に整備されていないうらみがある。 3.これらの実情を前にしてこの数年来、社会福祉協議会の関係者たちのあいだに、これらの点を反  省し、その上にたって、社会福祉協議会がその機絶を遂行しうる組織体制を確立しようとする気運  が高まってきた。   社会福祉協議会の基本的な性格、機能・組織等について規定したものとしては、その発足当時昭  和25年に制定された「社会福祉協議会組織の基本要領」がある。この基本要領に示された根本理念  には今日といえども大きな変化はないが、その後の社会情勢の変化と社会福祉協議会の発展に伴な  い、社会福祉協議会の組織上の欠陥を是正し、将来の方向を明確にするため、その条項を改訂する  ことが緊急の要務であるとの声がたかまってきた。   全国社会福祉協議会は、これらの要望にこたえ、各段階の社会福祉協議会が過去10年にわたって  蓄積してきた経験を土台とし、その組織活動を分析して、ここに社会福祉協議会の組識活動に関す  る新しい基本要項を策定し、全国各段階における社会福祉協議会の有機的綜合的な運営の促進をは  かる根拠を提供することになったものである。 4.この基本要項は全国社会福祉協議会において、地域組織推進委員会および綜合企画委員会にはか  り、昭和35年、36年の両年度にわたり研究討議をつくして得た成果に基づくものである。基本要項  策定に際しての基本的態度は、「現実に即して、今後の方向を明らかにする」という点にあったが、  実際にこの態度を貫くためには、しばしば困難に遭遇した。   たとえば“住民主体の原則に基づき、組織系列をただす”という今後の方向については、ほとん  ど異論はなかったが、これを早急に実現するためには多くの地域にいくつかの困難な事情のあるこ  とが指摘され、問題を今後にのこさざるを得なかった。   また本要項では、社会福祉協議会の性格・機能は、市区町村・都道府県・全国の段階で、それぞ  れ表面的には異なった様相をもつ面があるとしても、その本質は全く同一の基盤にたつものであり、  各段階を通して、系統的に一貫したものであるとされたが、この点についても一部に研究を要する  ものが今後に残されている。これらは今後社会福祉協議会の組織および活動の進展の中で順次に解  明されるべき問題であろう。   さらに本要項に定めたところのものと、現行社会福祉事業法に規定されたものとの間には、若干  異なる点がある。これらの問題については、要項の策定に際し、あくまで、「現実に即して、今後  の方向を明らかにする」ことに重点をおいて検討をすすめることとし、社会福祉事業法もまた、こ  の基本的方向にそって、将来改正されるよう関係者が努力することを前提として、それぞれの結論  をうることとした。   以上のような問題をもつにもかかわらず本要項は、社会福祉協議会の現実にたって今後のあるべ  き方向を可能な限り明らかにしたものであり、この要項の趣旨に基づき、全国各段階の社会福祉協  議会が一致協力して組織を整備し、活動の展開をはかるならば、必ずや国民の期待にそって、わが  国社会保障制度の発展、福祉国家建設のための大きな推進力として成長することができるであろう。
本     文
(性  格) 1.社会福祉協議会は一定の地域社会において、住民が主体となり、社会福祉、保健衛生その他生活  の改善向上に関連のある公私関係者の参加、協力を得て、地域の実情に応じ、住民の福祉を増進す  ることを目的とする民間の自主的な組織である。  ◆説 明◆  (イ) ここでは社会福祉協議会の性格について、とくにその組織と活動における地域住民と公私関    係者、すなわち地域内外の専門家ならびにその他の指導者との関係を明らかにしようとしたも    のである。  (ロ)「住民主体」とは、地域住民のニードに即した活動をすすめることをねらいとし、それに必要    な組織構成を充実するということである。したがって公私の関係者は、住民の立場を理解して    社会福祉協議会に参加、協力するのが本旨である。しかしこのことは、これら関係者の立場を    弱めるものではなく、むしろその役割と態度を明確にしたものである。  (ハ)「民間の自主的な組織」とは運営上、住民の意思を十分に反映できる民主的手続きが保障され    ている組織という意味である。  (ニ)“社会福祉・保健衛生その他住民生活の改善向上に関連のある”としてとくに社会福祉、保健    衛生をぬきだして、他の関連分野と区別したのは、社会福祉協議会の活動はひろく住民の福祉    増進がねらいであるとはいえ、その特色は狭義の社会福祉や保健衛生の活動が発展して、ひろ    く住民生活の改善向上に及ぶことである点を強調し、関連分野における類似の組織運動との差    異を明確にしようとしたものである。     なお、広義の「社会福祉」には、保健衛生関係も当然包含しているものとも解されるが関係    法令に狭義の社会福祉と保健衛生とを分けて取扱っている例が多いので、この要項では、その    例にならった。この考えをひろく及ぼすならば、「社会福祉協議会」という名称が適当でない    との意見もあろうが、名称は伝統を尊重して現在のままとすることとした。 (機  能) 2.社会福祉協議会は、調査、集団討議、および広報等の方法により、地域の福祉に欠ける状態を明  らかにし、適切な福祉計画をたて、その必要に応じて、地域住民の協働促進、関係機関・団体・施  設の連絡・調整、および社会資源の育成などの組織活動を行なうことを主たる機能とする。なお、  必要ある場合は自らその計画を実施する。  ◆説 明◆  (イ) 社会福祉協議会はひろく住民の福祉増進を目的とする組織であるので、その機能は広範かつ    多岐にわたることはいうまでもない。しかし社会福祉協議会の基本的機能はコミュニテイ・    オーガニゼーションの方法を地域社会にたいして総合的に適用することである。  (ロ) 社会福祉協議会の基本的機能はまずそれぞれの地域における住民のニードの発見と明確化に    努めそのニードに即して、地域福祉計画の策定,住民の協働促進,関係機関・団体・施設などの    連絡調整、社会資源の造成・動員を含む一連の組織活動の過程であり、この組織活動は社会調    査、集団討議、広報・説得等の方法技術を常時的に活用することによってすすめられる。     社会福祉協議会の基本的機能とはこれらの諸活動の総体である。  (ハ) このような組織活動をすすめるに際し、問題によっては、それが当然国や県や市区町村当局    などの公的な機関、あるいはその問題の解決にとくに関係をもつ機関・団体等の責任で実施す    べきだと考えられるものが少なくない。     そのような場合、社会福祉協議会は関係者や住民の理解をたかめ、それらの機関・団体等が、    問題をとりあげ、その対策を実施するように組織的・計画的に働きかけ、いわゆるソーシア    ル・アクション(社会行動)が必要である。このソーシアル・アクションは社会福祉協議会の    行なう組織活動を真に住民主体のものとしていくうえに欠くことのできない重要な機能であり、    当然ここに含まれるものである。  (ニ) 社会福祉協議会の基本的機能は組織活動にあるので、問題解決に必要な計画の実施を促進す    るが、関係機関・団体の活動との競合摩擦をさけ、それら機関団体が社会福祉協議会との協力    に信頼をよせることができるよう、住民に対する直接サービスを行なうことを原則としてさけ    るべきであると解されている。     しかしそれを実施するに適当な施設・団体がその地域にない場合、または地域社会の実情か    らみてそれが適切であると考えられる場合、社会福祉協議会は、すすんでこれらの直接的サー    ビス活動をする必要がある。このことはとくに市区町村以下の地域において顕著である。 3.社会福祉協議会は、地域内の住民組織が行う社会福祉や保健衛生等に関する活動の促進につと  め、あわせて地域内の関係機関・団体並びに施設に対して、その機能を増進するように協力する。  ◆説 明◆  (イ) ここでは社会福祉協議会の組織活動をすすめる上に重要な意味をもつ基礎固めとなる機能に    ついてのべている。社会福祉協議会がその地域の福祉に欠ける状態を明らかにし、これが解決    のため適切な福祉計画をたてるに当っても、住民組織の協力や関係機関・団体・施設の活動に    まつところが大きい。地域住民の協働を促進するためには、その前提として地域内の住民組織    が社会福祉や保健衛生の問題を常にとりあげ、その解決に努める態度を確立することが必要で    ある。     他方、関係機関・団体・施設の活動の連絡調整や社会資源の育成が効果的に行なわれるため    には、これらの機関・団体・施設の機能が、一定の水準を保っているばかりでなく、常にその    機能の向上、水準の改善が行なわれ、住民の福祉増進に役立つ状態におかなければならない。  (ロ) さらに社会福祉協議会はその性格上、住民自らの福祉を増進するために行なう活動を促進す    ることを当然の任務とするが、同時に専門的指導力をもち、社会資源として活用されることを    本来の役割としている関係機関・団体・施設と一体となって、いわゆる地域ぐるみの組織活動    をすすめてこそ前述の任務も効果的に達成できるのであり、このような地域ぐるみの活動をす    すめることについても責任をもっているのである。 (組  織) 4.社会福祉協議会は、住民主体の原則に基づき市区町村の地域を基本的単位とし、都道府県および  全国の各段階に系統的に組織される。   なお必要に応じて町村社会福祉協議会と都道府県社会福祉協議会の中間組織として、1郡または  数郡にわたる地域に社会福祉協議会を設ける。  ◆説 明◆  (イ) 社会福祉協議会が地域社会の福祉に欠ける状態を解決するに当り、市区町村の段階で解決困    難な問題は都道府県段階にもちあげ、なお困難があればこれを全国的段階でとりあげるように    し、また全国的あるいは都道府県視野の問題を必要に応じて市区町村段階まで徹底させるなど、    全国各段階の社会福祉協議会の間にいわゆるパイプをとおし、相互に援助協力しあえる系統的    な組級が必要である。  (ロ) このような系統的な組線の基本単位を市区町村の地域とした。わが国の地域社会の実情から    みて、本要項にのべる性格および機能を具備しうるのは市区町村段階が最小の単位と考えられ、    とくにニードを具体的にし、その解決に要する社会資源を確保するという意味から考えても、    また行政単位との関係から考えても、一応市区町村の地域を基本単位とすることが、現在では    最も妥当であると考えられる。なおここにいう区とは大都市における区の地域のことである。  (ハ) 社会福祉協議会の組織は市区町村から都道府県・全国にいたるまで住民主体の原則に貫かれ    ていなければならない。基本的単位である市区町村社会福祉協議会は、後にのべるようにその    構成において、住民主体の原則に基づくよう考慮されているが、このような市区町村社会福祉    協議会が都道府県社会福祉協議会の構成員の主軸となり、さらにこれら都道府県社会福祉協議    会が全国社会福祉協議会の構成員の主軸となることによって、社会福祉協議会の組織全体に住    民主体の原則がつらぬかれることを基本的に保障し、あわせて各段階の社会福祉協議会の系統    的な関係を確立しようとしているのである。  (ニ) 郡社会福祉協議会のほか数郡にわたるものを規定したのは、町村合併後の現状における比較    的広域の社会福祉協議会の組織を位置づけたものである。    「中間組織」とは都道府県と町村各段階の社会福祉協議会との間にあって、それら相互の連絡    をはかり、あるいは都道府県社会福祉協議会が行なう事業に協力して、とくに町村社会福祉協    議会の組織活動の推進につき援助する等の活動に重点をおき、それをすすめるのに適切な組織    機構をもつという意味である。したがって、郡社会福祉協議会は社会福祉協議会の系統的組織    の系列に属するとはいえ、その性格・機能・機構において、他の段階のものとくらべて差異が    あるのは当然といえよう。それはむしろ都道府県社会福祉協議会の支部的な性格をあわせもつ    ものといってよいであろう。また厳格な意味の中間組織とはいえないが、県内をブロック別に    し、ブロック内の市区町村社会福祉協議会が連絡会を構成することによって相互連絡・協働の    機能を行なう場合もありうる。 (市区町村社会福祉協議会) 5.市区町村社会福祉協議会は、地域の事情に応じて、それぞれの機能を効果的に推進するため、お  おむねつぎのものをもって構成される。   (1) 住民の自治組織   (2) 機能別、階層別各種の住民組織   (3) 民生委員、児童委員協議会   (4) 医師、歯科医師、薬剤師、保健婦、助産婦等保健衛生関係者またはその団体   (5) 社会福祉、保健衛生、厚生保護関係の施設および団体   (6) 社会福祉、保健衛生、社会教育等の関係行政機関の代表またはその地域担当者  ◆説 明◆  (イ) ここでは市区町村社会福祉協議会の構成員は原則として組織体であることを主旨として規定    しているのである。ここでのべているのは、通念として考えられる構成員の範囲であって、こ    こにかかげたもの以外のもの、たとえばいわゆる学識経験者その他個人がなるべく広範囲に参    加することはのぞましい。それぞれの社会福祉協議会における構成員の範囲は、当然地域事情    に応じてそれぞれの地域ごとに考慮されるべきである。  (ロ) 構成員を原則として「組織体」としたのは、関係機関・団体・施設についてはもとより、住    民の場合においても、たとえば全戸加入等の形態をみても、実質的には住民組織が加入し、そ    の代表を社会福祉協議会の役員とするという事実に即したのである。     これらの組織を構成員とするに当っては、機械的・形式的に流れることなく、それぞれの組    織の自発的参加を促進し、かつその自主性を尊重しなければならない。  (ハ) 住民組織についても、関係機関・団体についても、組織体として参加することが本旨である    が、それぞれの組織体から選出される役員の数が1人の代表になるか、または2人以上の複数    になるかは、やはり地域事情によって考慮されるべきものである。     たとえば民生委員・児童委員協議会から選出される社会福祉協議会の役員は、民生委員総務    またはそれ以外の代表のこともあるし、2人以上の複数−場合によっては、地域内民生委員・    児童委員の多数−となることもありうる。  (ニ) 住民の自治組織については、現実に住民の参加方式が多様であり、しかもそれらは地域事情    に基づく必要性の上にたってすすめられてきた方式であるので、これを一つの型にはめること    は困雑であるという見地から、組織としての加入を原則としたのであるが、場合によっては、    個々の住民の直接加入も考えられてよいであろう。その場合、全住民が参加するものと学識経    験者あるいはボランティアとしてその一部が入るものとが考えられる。     なお、これらの問題と関連して住民の全戸加入方式については、自治組織がある場合はその    組織の加入を本旨とし、住民は間接加入の形をとるものと理解される。自治組織がない場合に    は、維持会員的な意味で直接加入ということになるわけである。  (ホ) 機能別住民組織とは、特定の機能を果たすために組織された住民団体をいい、たとえば農協    漁協 商店会、PTA、文化団体など、あるいは労働組合、農民組合等もそのなかに含まれる    と考えられる。     階層別住民組織とは、特定の機能をもつことはいうまでもないが、とくに住民の中の年齢別、    性別等の階層ごとに組織された住民団体のことで、たとえば青年団、婦人会あるいは未亡人会、    遺族会、身障者団体などがあげられる。  (ヘ) 関係機関・団体・施設を構成員とする場合、地域の事情により、実際の参加の仕方には差異    があるが、基本的には社会福祉協議会の運営面においても、住民主体の原則を保障するよう配    慮しなければならない。     とくに役員を一部の公私関係者で占めたり、あるいは行政機関の一方的指導に偏するなどの    傾向は厳に戒められるべきであろう。  (ト) 自治体の行政機関から参加している構成員の社会福祉協議会における役割は行政面における    専門家としての活動にあるので、その立場から参加、協力するようにし、いわゆる役所が主導    権をとることなどがないように配慮しなければならない。 6.市区町村社会福祉協議会は、その活動が地域住民の生活と直結するように学校通学区または旧町  村程度の地域ごとに、その地域の社会福祉協議会またはこれに準ずる協議ならびに実践の組織を設  け、もしくは既存の組織を活用し、社会福祉や保健衛生等に関する活動の推進をはかる。  ◆説 明◆  (イ) 市区町村以下の組織づくりについては地域の広狭、人口の多少、住民組識の発展段階、その    他の地域事情により、その必要性、組織の形態および機能も異なるので、ここでは概括的な表    現に止めてある。     ただ、町村合併の現状からみて、少くとも学校通学区または旧町村程度の地域に、各種住民    組織の連絡・協力をはかり、あわせて市区町村社会福祉協議会の活動を地域社会にひろく浸透    させる協議ならびに実践のための組織がしばしば必要となろう。     このような組織が社会福祉協議会としての性格・機能・機構を具備するか、あるいは住民の    協議組織に止まるか、また新たに組識をすすめる必要があるか、あるいは既存の組織を活用す    るか、さらにこれらの組織を市区町村社会福祉協議会の支部とするかどうか、等のことは、全    くそれぞれの地域事情によるといえよう。  (ロ) この問題と関連して、もっと小さな地域における組織についても考えておく必要がある。     この問題も地域事情によって異なるが、このような地域には一般に住民の自治組扱が普及し    ているので、原則としてはこれらの組織と協力し、またはこれを活用すべきである。このよう    な組織がないか、またはあっても形式的な組織の場合には、住民の協議と実践のための組織づ    くりをすすめることがあろう。  (ハ) なお、市区町村社会福祉協議会の名称については、法令の規定がないため、現在までのとこ    ろ、保健福祉協議会、住民福祉協議会などの名称を用いているものもあるが、その構成ならび    に機能については何等異なるところがないものは、当然この要項にいう社会福祉協議会とみな    すものとする。 7.市区町村社会福祉協議会は当面する社会福祉や保健衛生等の問題の対策をたてるに当り、ひろく  関連あるものの参加協力を得るため、必要に応じ問題別の委員会等を設ける。  ◆説 明◆  (イ) 市区町村社会福祉協議会がその機能を果たすために、最も重要な手段として考えられること    は、住民の福祉増進について、その問題を研究し、対策をたてるため、住民と公私関係者との    話しあいの場所を設け、それを効果的に運営することである。     このような話しあいの場は、とくに市区町村段階の場合、単に問題の対策をたてるだけでな    く、当然その対策の推進についても、相当程度の責任をもつものでなければならない。  (ロ) この話しあいの場は、必要に応じて設け、目的を達したならば解散といったように弾力性の    ある運営が必要である。     ここでいう問題別の委員会とはこのような話しあいの場であり、このような委員会が社会福    祉協議会活動の中心にならなければならない。 8.市区町村社会福祉協議会は、共同募金会支会・分会と協力して地域福祉計画に基づく共同募金運  動を推進する。  ◆説 明◆     共同募金運動はたんなる金あつめでないことはいうまでもない。地域住民が自らの生活上の    問題を自覚し、これを解決するために協力して、社会資源の造成をはかることを促進するため    の運動と解すべきであろう。     このことは当然、地域福祉計画と表裏の関係をもつものであって、そのいずれが欠けても、    真に住民福祉の増進は達成できない。     地域福祉計画の策定が社会福祉協議会の基本的機能の一つである以上、共同募金運動の推進    についても、社会福祉協議会は責任をになっているのである。 9.市区町村社会福祉協議会は、その運営に要する経費として構成員の醵出金、共同募金、公の負担  金または助成金等をもって当てる。  ◆説 明◆     社会福祉協議会の運営において最も大きな課題の一つは、自主財源の確保をいかにして達成    するかということである。     民間の自主的な組織としての性格を保持するためには、すくなくともその運営に要する経費    の主たる部分を民間の自主的な財源によることが原則である。     市区町村社会福祉協議会の財源の現状をみると構成員の醵出金、共同募金、公の負担金また    は助成金がその基本的なものとしてあげられる。     このうち、共同募金と構成員の醵出金とは純然たる民間財源であり、社会福祉協議会の自主    性を高めるためには、常にその増強がのぞまれる。     社会福祉協議会の活動の内容は、その多くが国および地方自治体の責任に関連するものであ    るから、その面で公の負担金または助成金の増強がのぞまれる。 (1郡または数郡の地域にわたる社会福祉協議会) 10.1郡または数郡の地域にわたる社会福祉協議会は、都道府県社会福祉協議会の行う事業に協力し、  あわせて地域内の社会福祉協議会の連絡・助言に当る。  ◆説 明◆  (イ) 郡の段階の社会福祉協議会は、中間組織であるので、その機能は他の段階の社会福祉協議会    と異なる。すなわち都道府県社会福祉協議会の行なう事業に対しては、その支部的な組織とい    う立場で協力し町村社会福祉協議会の事業に対しては、その連絡と相互援助体制の促進をはか    り、また必要な助言に当ることが主たる機能となる。  (ロ) 都道府県社会福祉協議会の行う事業に対する協力とは、都道府県社会福祉協議会が全県的に    あるいは県内一部の地域に対して行う各種の行事や事業を町村地域へ浸透・徹底するようつと    め、また町村社会福祉協議会の協力関係を強化して、その行事・事業の効果をあげるよう努力    する等の活動をいうのである。     このような活動は、一方において常に都道府県社会福祉協議会の行なう町村社会福祉協議会    の組織強化、活動充実に関する努力に協力し町村社会福祉協議会にたいする援助、協力を怠ら    ないことによって達成される。 (都道府県社会福祉協議会) 11.都道府県社会福祉協議会はおおむねつぎのものをもって構成される。   (1) 市区町村社会福祉協議会(郡段階の社会福祉協議会のある場合はこれを含む)   (2) 機能別、階層別各種の住民組織の県段階の連合体   (3) 民生委員・児童委員協議会   (4) 社会福祉、保健衛生、更生保護関係の施設および団体   (5) 関係行政機関の代表  ◆説 明◆  (イ) 住民主体の原則は都道府県社会福祉協議会の組織においてもつらぬかれなければならないこ    とは(第4)においてのべたとおりであり、その意味から市区町村社会福祉協議会が都道府県    社会福祉協議会構成員の主軸となることは当然のことといえよう。この場合、郡段階の社会福    祉協議会と町村社会福祉協議会とが都道府県社会福祉協議会の構成員として並列する。  (ロ) 住民主体の原則をなお一層保障するためには,社会福祉協議会以外の住民組織が構成員として    参加することも、きわめて必要なことである。都道府県の段階には、市区町村あるいは郡段階    の住民組織の連合体が結成されている場合が多い。これら住民組織の連合体の参加を促進する    とともに、これらがすすんで社会福祉協議会の運営に参加しうる体制をととのえなければなら    ない。  (ハ) 民生委員・児童委員協議会は市町村社会福祉協議会と都道府県社会福祉協議会との両方に    二重加入することになる。この点については相当異論もあるが、わが国の社会福祉事業におけ    る民生委員・児童委員の占める位置から考えて、現状としてやむを得ないものと思われる。     しかし民生委員・児童委員の組織として市・郡単位の民生・児童委員協議会連合会や県段階    の連合会または民生委員連盟などが結成されている場合には、これが都道府県社会福祉協議会    の構成員となっても差支えなく、必ずしも地域の民生委員・児童委員協議会の直接二重加入を    考える必要はない。  (ニ) 社会福祉・保健衛生関係の施設についても、民生委員・児童委員協議会と同様なことがいえ    るのであって、現状では二重加入の形が一般的と思われるが、都道府県段階において各種別の    組織をつくっている場合は、その組織が団体加入をしても差支えない。     いずれにしろ都道府県の実情によるのであるが、要は民生委員・児童委員協議会にしろ、施    設にしろ、それぞれの要求に応じた自主的活動が十分保障されることはもちろん必要であるが、    同時に社会福祉協議会はその機能を果たすために、これらの組織や施設が、適切な所を得て活    動をすすめうる体制を確立していかなければならない。  (ホ) 関係行政機関の代表については、原則として市区町村社会福祉協議会の場合と変りがないが、    都道府県の段階では行政の専門分化が相当の程度に達しているので、社会福祉、保健衛生、社    会教育、労働等各分野にまたがるだけでなく、各分野の中でも、それぞれの活動の専門行政官    が社会福祉協議会の運営に参加できるよう配慮することがのぞましい。 12.都道府県社会福祉協議会は、市区町村社会福祉協議会にたいし、その自主活動を促進するため、  必要な連絡・助言を行うとともに、都道府県全域の視野にたって、当面する社会福祉、保健衛生等  の問題の対策をたて、その実現につとめる。  ◆説 明◆  (イ) 都道府県社会福祉協議会の構成員の主軸は市区町村社会福祉協議会であり、したがって前者    は後者の連合体的性格が濃くなる。このような観点から都道府県社会福祉協議会の当面の機能    として、連合体としての機能と全県的視野にたって活動する機能との二つがある。ただし、全    県的視野にたつ活動を推進するためには、市区町村社会福祉協議会にたいして問題の徹底をは    かり、これと連携・協力しなければならないし、また市区町村社会福祉協議会の連絡・助言に    当っては、当然全県的視野による大局的な見地に立ってこれを行うことが必要である。     すなわち都道府県社会福祉協議会の機能に二面性があるといっても、実は楯の両面であり、    一つののものを観点を変えてみているにすぎないのであって、決して異質のものではない。     この両面がどのように統一されるかは、各都道府県において社会福祉協議会が、住民主体    の原則に基づき、系統的な組織が確立されている程度によるものと考えられる。  (ロ) 都道府県全域の視野にたって、当面する問題の対策をたて、その実施につとめるに当っては、    それぞれの問題解決に関連あるものの協議と協力によらなければならない。このような協議と    協力を行う場として、一般に問題別の委員会の運用が期待される。都道府県段階の問題別委員    会は常設的な委員会と臨時的な委員会とがあるが、運営上、弾力性をもち、社会福祉協議会活    動の能率をたかめるためにも、臨時的な委員会の活用がとくにのぞまれる。 13.都道府県社会福祉協議会は、都道府県共同募金会に協力して、地域福祉計画に基づく共同募金運  動を推進する。  ◆説 明◆  (イ) 共同募金運動は、現在都道府県を単位として実施されているので、その推進については、と    くに都道府県社会福祉協議会の協力が必要であることはいうまでもない。     しかも地域福祉計画に基づく、社会資源の造成、維持、改善は、少なくとも現状では都道府    県全域の視野にたってはからなければならないものが多いので、その意味でも都道府県社会福    祉協議会の共同募金運動推進についての配慮がのぞまれる。  (ロ) 都道府県社会福祉協議会は常に住民のニードを明らかにし、その上にたって地域福祉計画を    たて、その中で民間社会福祉活動として開拓すべき部面を明らかにし、また共同募金で賄うこ    とを必要とする事業について調査研究を行い、またその必要経費について検討し、募金・配分    について共同募金会に意見を提出しなければならない。  (ハ) さらに都道府県社会福祉協議会は市区町村社会福祉協議会と共同募金会支会・分会との協力    を促進するために努力するとともに、募金計画、募金結果、寄付金の効果につき広報活動を展    開する必要がある。 14.都道府県社会福祉協議会は、その運営に要する経費として、構成員の醵出金、共同募金、公の負  担金または助成金等をもって当てる。  ◆説 明◆  (イ) 都道府県社会福祉協議会の場合も、財源の柱は市区町村社会福祉協議会と同じであり、自主    財源の確立についても同様のことがいえる。  (ロ) とくに都道府県社会福祉協議会の場合、構成員の醵出金について、三つの問題がある。    ◇ まず構成員の主軸である市区町村社会福祉協議会の会費は、社会福祉協議会の系統的組     織を確立する上からも、きわめて重要な意味をもち、公平で適切な金額が考慮されなけれ     ばならない。    ◇ つぎに都道府県社会福祉協議会の構成員であって、市区町村社会福祉協議会にも二重加     入するものの都道府県社会福祉協議会に納付する会費については、原則としてこれを納入     すべきであり、その金額・醵出方法等については、各都道府県の事情に応じて処理すべき     である。    ◇ 最後にその他の構成員、たとえば住民組織の連合体あるいは保健衛生団体等においても、     その自発的参加の気運を促進するため、適当な会費を納入する体制を確立することがのぞ     ましい。 (全国社会福祉協議会) 15.全国社会福祉協議会は、都道府県社会福祉協議会をもって構成される。  ◆説 明◆  (イ) 全国社会福祉協議会の構成については、都道府県社会福祉協議会の連合体である現在の姿を    そのままのべている。     この点については系統的な組織の頂点として一応肯けることとされたが、同時に都道府県社    会福祉協議会並びに市区町村社会福祉協議会の組織・構成と同様のものにすべきであるとの異    論もある。しかし社会福祉協議会が現在の状態から、真に住民主体の原則にたった組織系列を    完成するためには、ある程度の時間的経過が必要であり、その進行は当然、市区町村、都道府    県の段階が確立された上で、全国段階においてもすすめられることが考慮され、こうした表現    となった。  (ロ) ただし、上のような理由に基づくものであるから、全国社会福祉協議会の構成に関するこの    条項は、暫定的なものと考えられ、将来市区町村社会福祉協議会、都道府県社会福祉協議会の    構成と同様趣旨のものに改訂せらるべきものと考えられる。 16.全国社会福祉協議会は、都道府県社会福祉協議会の連絡・助言に当るとともに各社住民組織の全  国的連合体ならびに社会福祉、保健衛生関係の職能別および業種別中央田体と常に連絡提携をはか  り、全国的視野にたって、当面する社会福祉や保健衛生等の問題の対策をたて、これを推進する。  ◆説 明◆  (イ) 全国社会福祉協議会の機能としては二つの面が考えられるが、その意義ならびに内容は都道    府県社会福祉協議会の場合と全く同様である。  (ロ) 全国社会福祉協議会の場合は住民組織の連合体並びに社会福祉・保健衛生の関係団体は、現    状では直接の構成員とならないので、問題別の委員会などに参加を求める等とくにこれらの組    織との連絡提携をはかることが重要であり、漸次これらの組織が積極的に社会福祉協議会の構    成員となるよう体制の整備をはかることが必要となろう。 17.全国社会福祉協議会は、中央共同募金会も、そして、地域福祉計画に基づく共同募金運動を推進  する。  ◆説 明◆  (イ) 全国社会福祉協議会も中央共同募金会も、それぞれ都道府県のそれらの連合体であるので、    共同募金運動の推進はあくまで都道府県および市区町村段階での社会福祉協議会と共同募金会    の活動を促進、援助することが主たるねらいとなろう。  (ロ) この場合、全国社会福祉協議会は中央共同募金会に協力して、全国的視野にたって、共同募    金運動を推進すべきであるとともに、各都道府県における共同募金運動が地域福祉計画に基づ    く運動として確立されるよう促進しなければならない。 18.全国社会福祉協議会は、その運営に要する経費として構成員の醵出金、公の負担金または助成   金等をもって当てる。  ◆説 明◆  (イ) 都道府県および市区町村段階の社会福祉協議会と同様、全国社会福祉協議会も自主財源を確    保することが必要であるが、その基本的なものは構成員の醵出金によるべきで、その他各種の    事業収入・寄付金等を併せて、主たる経費に当てるべきである。  (ロ) 公の負担金または助成金については、都道府県および市区町村段階の社会福祉協議会におけ    るそれと同一の考え方にたってその増強をはかるべきである。 (事務局、専門職員) 19.社会福祉協議会は、市区町村、郡、都道府県、全国それぞれの段階ごとに事務局を設け、社会調  査ならびに組織活動の専門職員をおく。  ◆説 明◆  (イ) 社会福祉協議会の現状において事務局の果す役割は大きい。     事務局は社会福祉協議会が、住民主体の原則に基づき、その活動をすすめるために必要な能    力をもつよう、常にその充実をはかるとともに、会務の民主的な運営につとめ、いわゆる事務    局独裁というような現象を防がねばならない。  (ロ) 上記の体制が確立されるために当面、きわめて重要なことは、それぞれの事務局に、各段階    毎の社会福祉協議会の規模に応じて、専任の専門職員がおかれることである。  (ハ) ここにいう社会調査ならびに組級活動の専門職員とは、コミュニテイ・オーガニゼーション    の基礎的な知識と技術を体得し、実践的な指導力をもつものである。

《「社会福祉関係施策資料集1」(1986.7.27 社会福祉法人全国社会福祉協議会発行)から全文を引用》

 1999.6.14 登載
 1992年4月に策定された「新・社会福祉協議会基本要項」は、全国社会福祉協議会のホームページ※に掲載されています。
 ※<https://www.zcwvc.net/全社協の主な指針-規定等一覧-1/基本要項-経営指針/>
 【参考資料集】(資料閲覧に関してのお願い)
 CSH 
 このホームページは個人が開設しております。 開設者自己紹介