'91 WHOアルコール関連問題に関する各国政府への「勧告」
                     1991年4月8日                      世界保健機関(WHO)                      アルコール関連問題国際専門家会議にて採択                               厚生省 日本語訳 全文  WHOの事務総長はその基調講演のなかで「いわゆる依存性の物質のなかでも、アルコール は乱用される傾度の最も高いもののひとつであり、健康上そして社会上非常に多くの問題の原 因になっている」と述べている。いくつかの工業化された国々においては、アルコール消費は 最近頭打ちかあるいは減少している。それにもかかわらず、世界的にみるとアルコール消費量 はこの10年間増加を続け、それにともない建康上、社会上及び経済上の不利益も増加してい る。  当会議は、事務総長が新たにWHOに依存性物質対策のための特別プログラム(PSA)を 設立したことを歓迎する。  以下の勧告は加盟国及びその他のアルコール関連問題の減少に関心を持つものに対して行う ものである。以下の戦略は各国によって異なるであろうし、またその国のアルコール関連問題 の大きさ、並びにその経済的、社会的、政治的及び宗教的な伝統によって規定されるであろう。 WHOは加盟国がこれらの勧告を検討するようあらゆる努力を払って促すべきである。
 加盟国は自国のアルコール政策及びプログラムを関連するすべての社会部門と協力しつつ発 展させ、定期的に更新していくべきである。このような政策及びプログラムは健康と人類の福 祉を促進すべきであり、特定の期日を設定して評価可能な目標を達成していくべきである。ア ルコール政策及びプログラムに対する公共の意識と国民の支持を向上きせるような普及啓蒙活 動は、国際的、国家的、地域的そして地区的レベルで実施されるべきである。
 アルコール政策及びプログラムは、アルコール関連問題が健康面、社会経済面で国家に与え た損害及び、これらの損害と達成された経済発展との関係についての注意深い評価のもとに発 展させられるべきである。WHOは、先進国及び発展途上国においてこれらの損失を評価する ための方法論を発展させることについて、指導的役割を演ずるべきである。
 国民一人当たりのアルコール消費量が増加すれば、健康や社会に与える不利益も大幅に増大 する。また、一人当たり消費量は、先進国及び発展途上国において、アルコール関連問題の大 きさを示す重要な指標となる。WHOは、加盟国と協力して、特にハイリスク集団におけるア ルコール消費量とアルコール関連問題に関する具体的な評価をする際に必要となる情報収集機 能を拡大すべきである。
 経済、社会および健康に対してアルコール関連問題が与える損害は、大量飲酒者及び一般飲 酒者の双方が受けたものを包含している。大量飲酒者は深刻なアルコール関連問題を経験しや すいが、一般飲酒者集団がより大きな規模であるために、一般飲酒者が経験する問題はより多 数にのぼる。したがって、アルコール関連問題の減少を達成するためには、大量飲酒者及び一 般飲酒者の双方に働きかけるべきである。アルコール関連問題に関する国家的な政策及びプロ グラムは、すべての階層の国民を考慮に入れるものであるべきことを勧告する。
 アルコール関連問題の減少は、単一の方法だけでは成功を収めないであろう。調和のとれた 多くの戦略がより効果的であろう。政府、産業界、専門家及び地域社会の間の協力体制が、こ のような対策を計画し、実施する際に重要となる。各国がそれぞれの必要に応じて、最も適当 な組合せによる対策を選択することを勧告する。教育的、法的及び技術的な対策によって互い に補完し、強化されるべきである。
 いくつかの法的規制が、アルコール関連問題を減少させる上で有効であることが明らかにな っている。以下に掲げる規制対策は、特に役立つことが示されている。  ・飲酒が許される最低の年齢の設定  ・酒類の価格および酒税の引き上げ  ・酒類の入手に関する規制  WHO加盟国は、ガソリンスタンド、自動車道路上、及び自動販売機などにおけるアルコー ルの販売禁止を検討することを勧告する。特に自動販売機の場合は、若年者のようなハイリス ク集団による酒類の購買を防止することは困難である。さらに、既存の法律の施行に強い注意 が払われるようにすること、並びに教育及び情報を通じて的確な目標を持った規制政策の必要 性を社会が受け入れるよう助長することを勧告する。
 教育は国家的アルコール政策及びプログラムを実施する上で重要な役割を持つ。教育のみで は飲酒行動に対して直接的な影響を与えないが、教育によってアルコール関連問題の予防措置 に対して有効な知識を向上させ、社会規範を育成し、さらに、社会資源及び政治的意向を機能 させることができる。仲間同士の啓発、学校における総合的な健康教育及び責任ある酒類の提 供といった有効性の明らかなプログラムを、地域に根ざした教育プログラムとともに推進する よう勧告する。
 加盟国は、アルコールの広告と販売促進に対する適切な規制措置の採択を検討するよう促す。 すべての敗売戦略、わけても女性、若年者のような特定の人口集団に対してまとを絞った戦略 は、公衆衛生上の問題として、特に適切な配慮がなされるように勧告する。発展途上国におけ る市場の拡大を目標とした広告や販売促進の持つ影響に対し特別の注意が向けられるべきであ る。
 酒類関連産業にとって、アルコール関連問題を減少させるための対策に協力することは、自 らの利益につながることとなる。加盟国はアルコール関連産業との対話に努めるべきで、特に 適正飲酒の普及について彼らが提供することのできる能力について対話すべきであることを勧 告する。
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 我々は以下のような課題について緊急に研究が必要とされていることを認める。  ・ECで近く実施される酒税均一化の効果  ・問題飲酒者、すなわち一般国民の中でアルコールによって障害を受けている人のような特 に注意を払われるべき集団の規模、特徴及び時間的推移  ・予防及び治療的介入プログラムさらにはこのプログラムによって影響を受ける人々の特徴  ・予防及び回復プログラムの有効性並びにそれらの結果の判定方法  ・呼気検知器及び血中、尿中、唾液中におけるアルコール濃度を検定する近年開発されたド ライケミカル技術の開発。さらに、アルコールの交通事故やその他の事故及び各種の犯罪に対 する影響を明確にするためにこれらの機器を利用すること。
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 WHO協力センターは、それらのセンターが関係している国におけるアルコール関連問題を 減少させるための技術移転において重要な役割を果たしている。しかしながら、これらの技術 を移転する方法は未だに十分には確立されていない。したがって、WHO協力センターは、ア ルコール関連問題の予防や治療に関する研究や研修活動並びにこれらの協力センター相互の協 力を強化するよう勧告する。アルコール関連問題の減少を目的として活動している協力センタ ー相互の技術交換を促進させるため、国並びに国際機関から技術的及び財政的支援が求められ るべきである。
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 多くの国において、飲酒運転は特に若年者の傷害や死亡の原因となっている。これらの有害 な結果を減少させるためには、多くの方法が存在する。すでに有効性が確認されている戦略の 中には、国民一人当たりのアルコール消費量を減少させること、飲酒が許される最低年齢の引 き上げ、許容される呼気中ないし血中アルコール濃度の上限を設定すること、さらには、抜打 ちの呼気テスト及び運転免許の停止措置等がある。酩酊した客の行動や青少年の飲酒に対して、 アルコール提供者に責任を持たせることも重要である。
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 過剰飲酒と暴力及び犯罪行為との関連は、発展途上国及び先進国において憂慮されるべきこ とのひとつである。その問題を軽減するためには、保健、法律、教育及び社会福祉の諸機関と アルコールの製造や提供にかかわる産業との間の協力が重要となる。上に掲げた関係諸機関が 実際に協力していくための機会を設定するよう勧告する。
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 問題飲酒者の早期発見及び初期介入は有効な戦略であることを示す多くの事実がある。プラ イマリーヘルスケアにおいて、簡便な質問紙がハイリスクの飲酒者を発見する上で有効である ことが示されている。WHOはこのような目的のためにスクリーニングテストを開発してきた。 早期発見及び初期介入に対する必要な技術は、先進国においても発展途上国においても容易に 使用されうる。加盟国は、保健並びに関連の専門家が早期発見及び介入を行う上で必要な技術 の習得を可能とするために努力するよう勧告する。これらの方策は、若年者、女性及び高齢者 を含む特定の人口集団さらに職場、交通、及び犯罪行為に関係した特定の状況において特に勧 告される。

《「アルコール・シンドローム」第24号(1991.9.1 アルコール問題全国市民協会発行)から全文を引用》 

 2000.1.10 登載
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