このページは縦書きで構成しました。しかし Internet Explorer と Google Chrome 以外のブラウザでは横書きで表示されてしまうようです。
 昭和二四年度 社会保障制度審議会勧告




健康保険等の給付費に対する国庫負担の件
             昭和二十四年八月一日              社会保障制度審議会会長発              内閣総理大臣宛  最近の健康保険、船員保険、共済組合及び国民健康保険 の財政事情は極めて逼迫しているが、この情勢の推移によ っては、更に社会不安を増大することも予想せられるので、 政府は速に緊急立法を行いこれら各種疾病保険の給付費に 対する国庫の負担をなすことによって、保険経済の破綻を 防止するように、来る臨時国会において必要な措置を講ぜ られたい。  右社会保障制度審議会設置法第二条第一項の規定に基き 勧告する。            理  由  社会保障制度審議会に提出せられた厚生省当局の資料及 び関係官の説明によれば、健康保険、船員保険、共済組合 及び国民健康保険の財政は、最近における国民経済事情を 反映して、顕著なる利用増加により収支の均衡を失し、極 めて窮迫の状態におかれているようである。これを政府の 管掌する健康保険の財政についてみるに、現在の趨勢をも ってすれば、本年度において三十一億円余の赤字が予想せ られ、又仮りに保険料率を現行法律によって認められてい る最高限度まで引上げ、九月分より実施するとしても二十 五億円余の赤字が予想せられ、その他の疾病保険について も概ね同様若しくは一層深刻なる状態であり、これらの疾 病保険は正に崩壊の危機に頻しているものといわねばなら ない。この状況に対し勿論何等かの対策が講ぜられなけれ ばならないが当面の措置としては、各種疾病保険の保険料 率の引上、保険給付の制限、国庫負担等の方法がある。も とより巷間伝えられる濫診濫療の防止等に対する適当な措 置も構ぜられなければならないことは勿論であるが、これ をもってこの危機を切り抜け得られないことは明らかであ る。而して保険料率の引上は最近における社会情勢及び国 民の経済事情から極めて困難の状況にあり、現在において 既に負担の限界に達しているものと考えなければならない。 又療養給付に制限を加えることは、過般の健康保険法改正 の際における一部負担制度採用の経緯によっても、労働団 体その他各方面の与論に鑑み、労働不安の増大せる現在到 底実施することはできない。かくして残された唯一の方途 は国庫負担によりこの危機を切り抜ける外はないという結 論に達した。もとより、本審議会としても各種疾病保険の 給付費に対する国庫負担については、更に現行各種疾病保 険を根本的に検討し社会保障制度の全般的観点において研 究する必要ありと思料するものであるが、これが解決には 更に相当の日時を必要とし当面する疾病保険の危機に対処 することはできない。よって、当面する保険経済の危機に 対処するための緊急処置として、各種疾病保険に対し給付 費の一割の国庫負担を行うために緊急立法並びに予算措置 を講ずることを必要と考える。
生活保護制度の改善強化に関する件
             昭和二十四年九月十三日              社会保障制度審議会会長発              内閣総理大臣宛  現下の社会経済情勢に鑑み、政府は社会不安を除去する ため、緊急に現行の生活保護制度を改善強化し、もって当 面の緊迫せる情勢に対応するよう社会保障制度審議会設置 法第二条第一項により別紙の如く勧告する。    生活保護制度の改善強化に関する勧告  現行の生活保護制度の採っている無差別平等の原則を根 幹とし、これに次に述べる原則並びに実施要領により改善 を加え、もって社会保障制度の一環としての生活保護制度 を確立すべきことを勧告する。     (原  則)  一 国は凡ての国民に対しこの制度の定めるところによ   り、その最低生活を保障する。国の保障する最低生活   は健康で文化的な生活を営ませ得る程度のものでなけ   ればならない。  二 他の手段により最低生活を営むことのできぬものは   当然に公の扶助を請求し得るものであるという建前が   確立されねばならぬ。    従って公の扶助を申請して却下された者及び現に受   けている扶助につき不服のある者は、その是正を法的   に請求し得るようにしなければならない。  三 保護の欠格条項を明確にしなければならない。     (実施要領) 第一 保護機関に関するもの  一 市町村において生活保護に当る職員は、別に定める   資格を有する職員でなければならない。これがため国   はこの職員の設置に要する費用の少くとも二分の一を   負担することとすべきである。  二 保護事務の取扱いに際し守らるべき準則を定め市町   村長及び事務取扱者の責任を明らかにしなければなら   ない。  三 市町村長及びその指定するものは保護施設及び保護   費の支払を受ける医療機関を監査し得ることとすべき   である。  四 民生委員は次に掲げる事項につき市町村長の行う保   護に協力するものとすべきである。   (1) 保護を要する状態にある者を発見すること。   (2) 保護の実施に関し必要に応じ意見を市町村長に    述べること。   (3) 保護を受ける者の生活指導を行うこと。 第二 保護施設に関するもの  一 保護施設の種類及び定義を法律において明らかにし   なければならない。  二 保護施設の設置及び廃止は凡て都道府県知事の認可   を要することとしなければならない。  三 都道府県知事が必要と認めるときは、一定の手続を   経た後施設の設備の改善及び施設の廃止を命じ得るこ   ととすべきである。  四 私設の保護施設に対する監督を一段と強化し、公の   支配に属するものたらしめなければならない。  五 国は都道府県に対し、都道府県知事は市町村に対し、   一定の手続を経た後保護施設の設置を命じ得ることと   すべきである。 第三 保護の内容に関するもの  一 保護の程度及び方法に関する原則的事項は法律にお   いて規定すべきである。  二 保護の実施は現状ではいささか消極的にすぎるから、   更に積極的に運用し、経済更生的施策を拡充し防貧自   立の機能を発揮するようにしなければならない。これ   がため第二種カードの考え方を一部復活することも考   慮すべきである。  三 現行の五種の保護の外に新たに教育扶助及び住宅扶   助の制度を創設すべきである。 第四 保護費に関するもの  一 現行の八、一、一、の負担区分は地方負担過重に失   し、この制度の円滑なる実施に対する障害をなしてい   るから、地方負担の軽減を図るようにしなければなら   ない。  二 市町村の保護事務施行に要する費用の二分の一を国   において負担することとすべきである。  三 国及び地方公共団体はこの制度の実施に要する必要   にして十分な金額を予算に計上し且つ支出しなければ   ならないことを法律に明記すべきである。
社会保障制度確立のための覚え書

                 昭和二十四年十一月十四日  社会保障制度は、憲法が国民に保障する基本的人権を尊 重し、国民の生活権を確保するために、全国民にひとしく 老令、廃疾、失業、疾病、傷害、死亡、出産等に伴う困窮 に対し経済的保障の途を講じ、国民生活の不安を除去して 社会秩序を維持し、もって民主主義社会の理想を実現せん とするものである。  本審議会は、これらの理想の下に社会保障制度を速に確 立せんとするものであるが、窮乏化した日本経済の現実に おいては、にわかに理想的な社会保障制度の確立は期し難 い実情にあり、一方国民生活は極めて深刻なる状況にある ので、国の経済力の許す範囲内において、必要の部面より 逐次次の方針に従って社会保障制度を実現せんとするもの である。 一、社会保障制度は、国民全部を対象とする。 二、保障の範囲は、できる限り広汎とし、その給付の内容  は、最低限度の生活を保障するに足るものとすると共に、  国民に、ひとしく、あらゆる医療及び保健の機会を与え  るものとする。 三、この制度の費用は、公費の外に、国民がその一部分を  公平に負担する必要がある。 四、この制度の事務を簡素にし、その能率を増進せしめる  ためには行政機構の一元的改善と経営の民主化を計るべ  きである。 五、現行の社会保険制度は、その運営を最も簡明にして、  能率的、経済的のものとするために、国家公務員共済組  合及び恩給制度をも含めて綜合調整すると共に、これを  拡充する必要がある。 六、医療組織については、綜合的企画の下に公的医療施設  の整備拡充を計ると共に、開業医の協力し得る体制を整  えまた公衆衛生活動の強化拡充を計る必要がある。 七、失業保険について、失業対策との関連を勘案し、その  内容をこの際特に整備拡充する必要がある。 八、老人、寡婦、孤児、身体障害者その他の生活困窮者に  対する公的扶助の制度は、社会連帯の観念により一層拡  充強化する必要がある。 九、家族の扶養費び教育の責任並びに最低賃金制との関連  を勘案し、家族手当をこの制度に包括すべきである。

《「社会保障制度に関する勧告および答申集」(昭和三五年三月 社会保障制度審議会)から引用》
 一九九九、二、一一 登載
〔横書版〕 【社会保障制度審議会勧告集(昭和二十四年度〜昭和三十七年度)】
【参考資料集】(資料閲覧に関してのお願い)

 K24 
このホームページは個人が開設しております。 開設者自己紹介