昭和28年度


年金制度の整備改革に関する件
                               昭和二十八年十二月十日                                社会保障制度審議会会長発内閣総理大臣宛  本審議会は、わが国年金制度の整備改革に関し慎重審議を行ってきたが、年金制度の現状及びその改正企画の推移 に顧み、総合的見地において年金制度の整備を行うことが極めて緊要であると認めたので、社会保障制度審議会設置 法第二条第一項の規定により、別紙の通り勧告する。     年金制度の整備改革に関する勧告  本審議会は、昭和二十五年十月社会保障制度に関する勧告において、統一的な社会保障制度の確立を要望し、その 際年金制度についても具体的見解を明らかにしている。しかしながら、その後、総合的見地からする社会保障制度の 整備は推進されていないし、年金制度に関する問題も依然未解決である。  由来、わが国の社会保険制度は、極めて不均衡な発展を示し、かつ、複雑化しており、その総合整備は、しばしば 要望されているところである。中でも、年金部門は最も不均衡であり、また、その発達におくれている面があるが、 それだけに問題も少くない。従って、社会保険制度全般の調整はもちろん、総合的見地からする年金制度の整備は、 緊急に行う必要がある。  しかるに、その後における社会保険制度の経緯をみるに、諸制度の統一化とは逆行し、年金制度についても、各省 庁の独自的観点からする個別的改正が行われんとするきらいがないではない。かくては、現行制度の矛盾と不均衡は ますます拡大されるのみか、将来に禍根を残す危険が多分にある。  本審議会は、当面の懸案たる厚生年金保険制度及び公務員の年金制度等現行年金制度改革の帰すういかんが、現在 及び将来の国民生活や財政経済に重大な影響を持つ問題なる点にかんがみ、昨年以来慎重な検討を行ってきた。しか して、今後の年金制度に関する一応の所見については昨年十二月政府に具申しているところであるが、さらに、今般 年金制度の基本的構想とその具体化について検討を行った結果、別記構想によるを適当と認めるものである。     年金制度の整備改革の構想 第一 趣   旨   現在、わが国には諸種の年金制度があるが、これら各制度には、それぞれ特殊事情や沿革があって、極めて複雑  化している。それは、主として、現行制度が、わが国の特殊事情からして、退職金的な性格を多分に持って発展し  てきたためで、それ自体としての意味はあるが、社会保障としては種々の欠陥をもっているのである。  すなわち、第一に、現行年金制度に通ずる致命的な欠陥は、各制度間に資格年数の通算が行われないため、すべ  ての職場を通じての老令年金制度が確立されていないことである。老後に備えるための年金制度としては、一定の  資格条件を満し、一定の年令に達した者には、年金を支給するようにする必要があり、それがためには、各職域を  通じ、かつ、被用者たると自営業者たるとを問わず、一切の労働を通じた年金制度の確立が最も望ましい。とくに  わが国のごとく就業の移動のはげしい事情の下においては、その必要があるといえる。しかし、全国民対象の国民  年金制度の確立をいま直ちに実現することは国の財政、国民経済その他諸種の事情からみて、時期尚早とも考えら  れるので、まず、第一の段階としては、一応現在の被用者に関する各年金制度を一元的なものにし、つづいて、現  在洩れている五人未満の事業所の被用者もこれに加え、また、自営業者でもとくに年金的保護の必要と思われるよ  うな人々を加えた範囲で年金制度を考えることが、最も適当と思われる。年金制度の必要性は、いかなる人々にも  考えられるし、また、わが国人口の年令分布の変化すう勢からみて、老令人口の比重増大は必至なのだから、一面  において将来国民年金制度への発展をも考慮しておく必要がある。   第二には、現行各制度が極めて不均衡で、給付内容や費用負担に著しい差があり、とくに国庫の負担に合理性を  欠いていることである。たとえば、報酬比例制の年金に国庫が負担するがごときは適当ではない。これらの不均衡  な点や国庫負担の不公平は、社会保障の立場からは、公平な合理的なものに改めなければならない。しかし、現行  制度に種々な相違があるのは、現行制度が純粋な社会保障として考えられ発展してきたものではなく、それらの制  度が、社会保障的な要因と退職金的な性格を同一制度の中に内包しつつ発展してきたからであって、それが年金制  度の一元化をも妨げているわけである。ただここに考えねばならないことは、現在の制度にみられる退職金的な部  分は、社会保障としては問題があるとしてもわが国の特殊事情からして無視するわけにはいかないことである。す  なわち、わが国では年金制度のいかんにかかわらず、退職金制度を捨て去るわけにはいかない。民間一般の退職金  制度についてはいうまでもないが、公務員のために設けられている恩給制度、共済組合による年金制度等もその特  殊な環境に応じた退職金的意味を多分にもっている。総じて、これら退職金的な性格を持つ年金制度は、人事管理  としての意義が強く、その特殊の職域と環境に適応してはじめて十分な意味を持つものであって、その関係から、  統一的な年金制度としてこれを普遍化するに従い、その特殊な意義が減退する性質をもっている。従って、退職金  的な意味の年金制度は、その職域や環境に従って設けることが有意義なわけである。しかし、これは前述の社会保  障としての統一年金制度への要請とは全く背反的な性質である。このことは、公務員の年金制度だけでなく、厚生  年金保険等についても考えられる被用者に通ずる一般的な問題であって、社会保障制度としては現行年金制度の報  酬比例制その他退職金的性格は、切りはなして考えることの方が合理性がある。   以上のような観点からいって、社会保障としての年金制度は、一方には統一した年金制度を設けて現行制度の欠  陥を補うとともに、退職金的な要素をもつ部面については附加的な制度を考え、前者を基礎として両者の調整を行  うことが適当と思われる。すなわち、わが国の特殊事情に基く現行制度の退職金的な特質は、職域的に別個の観点  から附加的に考慮することが実情に適するのであり、わが国の場合そうする外はない。かくしてはじめて年金制度  の一元化を行うことができ、現行年金制度の最大の欠陥を是正することができる。また、このような被用者だけに  みられる退職金的附加部分を別途に考えることにより、年金制度を自営業著その他の国民に拡大する際にも好都合  なわけである。この場合、国として、前者の制度については、社会保障制度として最低限度の生活の保障に責任を  もつべきは当然であるが、後者についても、前制度との関連の下に、それぞれその使用者又は使用者と被用者との  交渉関係等自主的な立場を尊重しつつ、その附加的な給付が勤労者の生活保障に資し得るように配慮する必要があ  る。   今日、わが国の年金制度は、いずれの面をみても根本的な改善を加えなければならない時機に当面している。ま  た、前述のように、わが国の年金制度は、総合的な観点と社会保障の見地から、根本的な改善を加える必要がある  る。しかるに、現在各年金制度の改善は、それぞれ一方的な独自の立場からのみ企画されようとするきらいがあり  かくては、現行制度の矛盾と跛行性はますます拡大され、一層複雑性を加える危険が多分にある。のみならず、か  かる個別的な制度の競合的発展は、国家財政及び国民経済の見地からみても、無駄が多く好ましいものではない。  かかる傾向は、主として各年金制度の所管とその改正の企画が一元化されていない事情に基くもので、緊急に調整  を加える必要がある。年金制度は、統一的な観点から、将来あるべき年金制度の体系を想定し、現行制度は、その  目標に従って整備改革しなければならない。   本改革案は、おおむね以上のごとき前提の下に考えられた一つの構想である。 第二 年金制度改革の基本方針  一 現行の厚生年金保険、船員保険、恩給、国家公務員共済組合(年金関係)、町村職員恩給組合、地方公共団体の   恩給制度及び私立学校教職員共済組合の対象者を包括し、これに現行制度から洩れている五人未満の事業所の被   用者、一定の自営業者等をも加えた範囲で単一の総合年金制度を設け、すべての雇ようと労働の期間を通じた年   金給付を行うものとする。なお、将来本制度をして国民年金制度の基盤たらしめ得るように考慮しておくものと   する。  二 年金額は、最低限度の生活を保障するという趣旨から定額制とし、将来における国民年金制度への拡大と事務   的な便宜を考慮する。  三 公務員のために設けられている現行の年金制度(恩給や共済組合等の制度)は、本総合年金制度に附加的に考   慮する。    この附加制度は、原則として、共済組合制度によって行うことが適当と認められる。  四 一般被用者又は自営業者についても、総合年金制度に附加して、退職年金制度又は相互共済的な附加制度を持   つことが考えられるので、それらを育成するための措置を講ずる。  五 業務災害に起因する事故についても、本制度の給付を行うものとする。但し、業務災害との関係については他   の社会保険部門との関係もあるので、その一元化の問題ともあわせて検討し調整を行う。  六 総合年金制度の積立金は巨額となるが、これは関係者の共同の拠出金であるので、資金の国家集中の弊を避   け、一方拠出者への還元運用によって年金加入者の共同福祉の増進をはかる等民主的な管理運用をはかる。この   ためには、特殊法人による総合年金基金の如き制度を設けることが適当と思われる。  七 本制度に要する保険料の徴収等については、他の社会保険部門の組織を通じて一元的に行い、能率的運営と事   務費の節減をはかる。しかし、この点については、社会保険制度の一元化問題とあわせて考究する。  八 現行制度により得ている既得権は尊重する。 第三 実 施 段 階   年金制度の改革は、既存各種年金制度が極めて複雑な現状にある事情、社会保険制度の統一問題との関連、総合  年金制度確立のための種々基礎調査の必要性、経済及び財政上の関係等をも考慮し、段階的に行うものとするが、  おおむね次の順序によって行うものとする。  第一段階 厚生年金保険、船員保険、恩給、国家公務員共済組合(年金関係)、町村職員恩給組合、地方公共団体の   恩給制度及び私立学校教職員共済組合の適用者を対象として総合年金制度を確立する。これとともに、公務員の   恩給及び共済組合制度を整備し、あわせて、公務員以外の一般被用者の退職金制度につき保護育成の措置を講ず   る。    なお、右に移行する建前の下に、厚生年金保険に暫定措置を講じ、既にその受給資格の発生している者には、   一定額の年金を支給し得るように措置する。  第二段階 五人未満の事業に使用せられる被用者及び一定の自営業者に適用対象の拡大を行う。    なお、国民所得水準の向上及び社会経済事情の変遷等に対応し、将来本制度を基盤とし、国民年金制度への発   展を考慮するものとする。 第四 総合年金制度案の構想   総合統一せらるべき年金制度案の具体的立法については、さらに検討せらるべき問題はあるが、第二段階として考  えられる総合年金制度案の構想は次のとおりである。  一、被 保 険 者   一 強制被保険者     おおむね左に掲げる者をもって本制度の強制被保険者とする。    (1) 事業の種類又は規模のいかんにかかわらず、すべての事業所又は事務所に使用される者、ただし左に掲げ     る者を除く。     (イ) 農業、林業、漁業等に使用される者。ただし、法人又は常時五人以上の使用人を使用する事業所に使用      される者を除く。     (ロ) 季節的事業若しくは臨時的事業の事業所に使用される者又は臨時に使用される者等。    (2) 国費び地方公共団体に使用される者。ただし、臨時に使用される者は除く。    (3) 船員として船舶所有者に使用される者。    (4) (1)の被保険者を使用している事業主及び(3)の船員を使用する船舶所有者。ただし、十八才未満の者及び六     十五才(女は六十才)以上の者は除く。    (5) 法律で指定する自営業者で現にその業務に従事している者(たとえば、開業の医師、歯科医師、弁護士等)     ただし、六十五才(女は六十才)以上の者は除く。   二 任意被保険者     左に掲げる者は、本人の希望等により被保険者となることができる。    (1) 強制被保険者から除かれた被用者。    (2) 一定期間以上被保険者であった者。    (3) 強制被保険者たる自営業者以外の自営業者及び強制被保険者たる被用者を使用していない事業主。   三 被保険者期間     被保険者期間は、すべての場合を通算する。  二、給  付   一 養 老 年 金    (1) 二十年(船員、坑内夫等の実働については、その特殊性にかんがみ、資格期間につき特段の考慮を払うこ     と。以下同じ)以上被保険者であった者が、男子六十才(船員、坑夫等は五十五才)以上、女子は五十五才     以上に達した場合(現に被保険者たる者を除く)には、その者に、終身間養老年金を支給する。ただし、自     営業者(事業主を含む。以下同じ。)として被保険者であった者については、男子は六十五才以上、女子は     六十才以上に達した場合に支給する。     (被用者と自営業者と双方の資格を有する者は、その年数比率で年金支給開始年令を調整する。)    (2) 養老年金の額は、定額とし、配偶者及び十六才未満の子(不具廃疾の場合は年令制限をしない。以上同     じ。)については、定額の扶養加算をする。    (3) 二十年以上被保険者であった者については一年について年金額の二十分の一程度の割合で年金額を増額す     る。ただし、一定の最高限度を考慮する。    (4) 年金額(年数加算分は除く。)は、最低限度の生活の保障を行うことを趣旨とした定額とする。ただし、     賃金及び生計費等に著しい変動があった場合には、それに照応するようにその改定を考慮する。   二 遺 族 年 金   (A) 寡婦(かん夫)遺児年金    (1) 被保険者が死亡した場合又は障害年金を受ける資格を有する者が死亡した場合において、左に該当する寡     婦(かん夫)又は遺児がある場合には、その者に条件に該当する期間一定条件の下に寡婦(かん夫)年金又     は遺児年金を支給する。ただし、特に定むる災害(業務災害を含む。以下同じ。)の場合を除き、死亡の原     因となった疾病又は負傷の発生前一年以上被保険者であった者に限る。     (イ) 十六孝未満の子を有する寡婦………寡婦年金     (ロ) 不具廃疾で労働能力のない寡婦(かん夫)………寡婦(かん夫)年金     (ハ) 十六才未満の子………遺児年金    (2) 寡婦(かん夫)遺児年金の額及び扶養加算は養老年金の場合と同様とする。ただし、年数加算はしない。   (B) その他の遺族年金    (1) 養老年金を受ける資格を有する者が死亡した場合には、その遺族に対し、一定の条件の下に遺族年金を支     給する。    (2) 遺族年金の額及び扶養加算は、養老年金の場合と同様とする。但し、年数加算分は本人分の半額とする。   三 寡 婦 一 時 金     二十年未満被保険者であった者又は障害年金を受ける資格を有する者が死亡した場合において、寡婦、遺児    年金の受給資格がない寡婦に対しては、寡婦一時金(寡婦年金の一年分程度に相当する額)を支給する。   四 障害年金及び障害一時金    (1) 被保険者が廃疾となり、労働能力を喪失した場合には、廃疾の程度に応じ、障害年金又は障害一時金を支     給する。ただし、特に定める災害の場合を除き、廃疾の原因となった疾病又は負傷の発生前一年以上被保険     者であった者に限る。    (2) 障害年金の額及び扶養加算は養老年金の場合と同様とし、二十年以上被保険者であった者については、養     老年金同様に年金額を増加する。なお、常時看護を要するような重廃疾の者については、廃疾の程度に応じ     年金額の増加を考慮する。    (3) 障害一時金の額は、廃疾の程度に応じて定めた定額とする。   五 業務災害に基く給付との関係    業務災害に原因する事故についても、本制度の給付を行うものとする。ただし、業務災害に基く給付との関    係については、他の社会保険部門との関係もあるので、これらの問題ともあわせて給付の調整を行う。  三、財  政   一 保 険 料    (1) 被用者の保険料については、使用者が二分の一を負担する。    (2) 被用者の保険料負担については、最低最高負担額を定め、報酬比例制とする。ただし、他の社会保険料負     担と同時徴収し得るよう調整を行う。    (3) 自営業者の保険料は定額とする。ただし、退職金組合を設けた場合においては、組合の規約の定めるとこ     ろにより、組合員平均一人当り定額を下らない範囲内において、組合内被保険者の保険料負担額に差を設け     ることができる。    (4) 保険料は、平準保険料式によって算定した額とし、男、女及び船員坑内夫等に区分して定める。ただし、     当初の保険料負担額は軽減し、漸増してゆくようにする。   二 保険料の徴収    (1) 本年金制度の被保険者であると同時に健康保険又は共済組合の組合員であるものについては、各保険者に     おいて、本制度に要する保険料を当該制度の分と同時に徴収するものとし、本年金制度の費用に相当する部     分は総合年金保険の会計に払込むものとする。    (2) 退職金組合を設立したものについては、その組合に本年金制度の保険料を委託徴収させることができるも     のとする。    (3) 本年金制度の被保険者で健康保険の被保険者又は共済組合の組合員でない者の保険料は、都道府県の社会     保険機関において個別徴収するものとする。ただし、原則として本人の納入制によるものとし、保険料の払     込のなかった期間は被保険者期間に算入しない等の方法を考慮する。    (4) 被保険者期間及び保険料の納付を記録証明するため、本人には年金カードを保持させることを考慮する。    (3)の被保険者については、本年金カードをもって、麻則として、自ら保険料の払込を行うものとする。   三 国 庫 負 担     国庫は、本事業に要する事務費、給付に要する費用の十分の二に相当する額及び経過措置に伴い必要な財源    の必要額等について負担する。   四 総合年金基金    (1) 本制度による積立金その他資金の管理、運用を民主的に行い、その資金の還元をはかり、かつ、被保険者     及び年金受給者の福祉増進をはかるための機関として特殊法人による総合年金基金のごとき制度を設けるこ     とが適当と思われる。    (2) 基金は、意思決定機関として、関係官吏、労使各代表、専門家等によりなる運営委員会を設け、基金の重     要な事項について議決を行うものとする。    (3) 基金に置かれる役員の選任には、関係当事者の意向が反映するような方法を考慮する。    (4) 基金には必要な地区に支部を設け、貸付等の地方業務を行うものとする。    (5) 基金は、自ら又は保険者の委託を受けて、養老施設その他福祉増進に関する施設を経営管理することがで     きる。    (6) 基金は、退職金基金その他社会保険の資金の予託運用等の業務を行うことができるものとする。    (7) 基金の事務に要する費用については、予算の範囲内で国がその一部を負担する。  四、権利の保護    本制度による給付又は保険料の負担に関し不服ある者の権利の保護は、審査官制度及び審査会制度により、他   の社会保険と一元的に行うものとする。  五、退職金基金   一 趣  旨     総合年金制度は、国の責任の下に老後等における最低限度の生活保障を行うことを目的とするものであるが    本制度の給付に附加して考えられる各職域の退職金制度又は自営業者の共済的な附加制度は、本制度の給付と    あわせて生活保障に重大な関係があるので、その自主的な発展を保護、育成することは、極めて有益と考えら    れる。これが方法として退職金基金のごとき制度を考慮することが適当と思われる。   二 設置及び保護    (1) 事業主は、その被用者の退職金に充てるため、退職金基金を設置することができる。この場合には行政官     庁に届け出なければならない。    (2) 退職金基金は、被用者の退職の場合の外、処分できないものとし、被用者のために確保するものとする。    (3) 退職金基金は、譲渡、差押を禁止するとともに、税法上の特典を与える。    (4) 退職金基金の資金の運用については、一定の制限を設ける。    (5) 退職金基金の給付内容は、自主的に決定させるものとする。   三 退職金組合(仮称)    (1) 設  置     (イ) 退職金組合は、一又は二以上の事業に使用される被保険者又は同種の業務に従事する被保険者について      設立することができるものとし、その設置は、給付の内容に従い、一定人員以上の組合員を必要とするも      とする。     (ロ) 組合は法人とし、その設立、解散等については、行政官庁の認可を要する。    (2) 組合員の範囲      組合員の範囲及びその加入、脱退は、規約で定めるものとする。    (3) 給  付      退職金(一時金又は年金)を支給することを主眼とするが、規約によって、その他の給付を行い得るもの     とする。    (4) 保  護     (イ) 退職金基金同様の保護を行う外、組合の資産、事業等についても税法上の保護を与える。     (ロ) 組合が組合員のために行う福祉施設の資金については、総合年金基金の資金を融通することができるも      のとする。    (5) 費  用      料金の負担方法、負担率又は負担額、使用者の負担割合等は組合の規約で定める。    (6) その他     (イ) 組合は、組合員の福祉増進に関する施設を行うことができる。     (ロ) 組合は、連合会を設立し、共同の事業を行うことができる。     (ハ) 組合には、本年金制度の保険料の徴収その他の事務を委託することができる。 第五 総合年金制度と公務員の年金制度の整備   総合年金制度は、公私を通じて設けられるが、公務員の特殊事情に対応する恩給、共済組合制度等の年金制度  は、附加的制度として、左の要領により整備することが適当と考えられる。  一 方  針   (1) 恩給制度は、共済組合の年金制度に一元化して整備する。   (2) 国家公務員及び都道府県の公務員については、おおむね現行の区分に従い、共済組合制度を設けるものとす    る。   (3) 市町村の公務員については、一又は二以上の市若しくは町村につき退職金組合を設けて、それぞれ年金給付    を行い得るものとする。   (4) 共済組合及退職金組合において行う年金給付は、総合年金制度の給付に附加して併給する。   (5) 共済組合における年金給付内容は、なるべく同一とし、資格期間は通算し得るよう措置する。ただし、警察、    監獄職員、保安隊員、教職員、現業官庁の職員、公社・公庫等政府関係機関の職員に設けられるものについて    は、その特殊性に従い給付を定め得るようにする。   (6) 町村職員恩給組合法に基く年金は、本制度の退職金組合に改組する。  二 共済組合の設置運営   (1) 共済組合の設置は、おおむね現行の基準による。   (2) 共済組合の組合員の範囲及びその運営等は、おおむね現行の基準による。  三 給  付   (1) 共済組合の給付種目は、おおむね現行のとおりとする。   (2) 給付条件、給付内容等は、総合年金制度の給付と調整を行って定める。  四 福祉施設   (1) 共済組合は、組合員の福祉増進に関する施設を行うことができる。   (2) 共済組合は、総合年金基金より資金の融通をうけることができる。  五 費用の負担   (1) 事務に要する費用は、使用者の負担とする。   (2) 給付に要する費用は、現行恩給制度及び共済組合制度に関する使用者としての国庫負担と組合員の負担を勘    案して定める。ただし、国の負担は、総合年金制度に対する負担とあわせて、原則として、現行の負担の範囲    内に止める。   (3) 総合年金制度に対する保険料は、各共済組合において共済組合の費用と一元的に徴収し、これを総合年金保    険の会計に払込むものとする。  六 経過措置   (1) 現行恩給法又は共済組合法により、既に恩給又は年金の受給資格を満たしている者については、本人の希望    により現行制度による権利を留保し、有利と認める給付を選択し得るよう考慮する。   (2) 従前の恩給法による資格期間は、一定の比率をもって共済組合の期間に通算する。   (3) 年金の受給資格を満たすことなく退職した者に関する退職一時金は、本制度施行の際受け得られるべき退職    一時金より不利とならないよう加入期間に応じて定める。   (4) 現に受くることのできる恩給又は共済組合の年金は、従前のままとする。 第六 経 過 措 置  一 高令加入者に対する措置   (1) 本制度施行の際、新たに被保険者となる者で、四十一才以上の者の養老年金は、別表のごとき方法によるも    のとし、六十才以上の者は任意に脱退し得るようにする。ただし、厚生年金保険その他現行年金制度の被保険    者の期間を通算する者については、別に定める。なお、女子については、特別に考慮する。   (2) 別表による保険料の払込を満了した養老年金受給者が死亡した場合には、一定条件の下に、その配偶者又は    十六才未満の子に対し遺族年金を支給する。ただし、その遺族年金の額は、養老年金額と同額又はそれ以下の    額とする。  別  表            四〇才以上加入者の養老年金支給表   加  入 払込所要  支給開始年令    年    金     額   年  令 年  数 被用者 自営業者  被  用  者    自営業者    四一   一九   六一  六五    四二   一八   六二   〃    四三   一七   六三   〃    四四   一六   六四   〃    四五   一五   六五   〃    四六   一四    〃   〃    四七   一三    〃   〃  二十年以上加入者の年金    四八   一二    〃   〃  に対し、払込不足年数一    四九   一一    〃   〃  年ごとに二十分の一程度    五〇   一〇    〃   〃  を減じた額とする。   同  上    五一    九    〃   〃  但し、最低額を定める。    五二    八    〃   〃          五三    七    〃   〃    五四    六    〃   〃    五五    五    〃   〃          五六    〃    〃   〃    五七    〃    〃   〃    五八    〃    〃   〃    五九    〃    〃   〃    六〇    〃    〃   〃  備  考   (1) 六十才以上も同様とする。ただし、支給開始年令は五年の払込期間満了後とする。   (2) 扶養加算は、本人の年金額をこえない範囲において加算する。   (3) 本表の払込年数以上保険料を払込んだ者については、払込年数に応じ年金額を増額する。  二 厚生年金保険との関係   (1) 厚生年金保険制度は、本制度に吸収し、従来の厚生年金保険の被保険者期間は、本制度に通算する。この場    合には脱退手当金は、支給しないものとする。ただし、本人が脱退手当金を希望するときは、本制度実施の際    における従前の被保険者期間に対応する脱退手当金を、被保険者の資格喪失の際に受けることができる。この    場合には、厚生年金保険の被保険者期間は本制度に通算しない。   (2) 前号の措置により生ずる年金給付財源の不足額は、国庫負担とする。   (3) 現に厚生年金保険の被保険者たる者で、その被保険者期間を本制度に通算する者の年金支給開始年令の引上    げについては、年次的に一定の段階を設けて行う。   (4) 現に厚生年金保険によって受けつつある年金給付又は受くることの確定した給付は、そのまま本制度に引き    つぎ支給する。   (5) 厚生年金保険の積立金及び施設は、本制度に移管する。  三 船員保険との関係   (1) 船員保険法は廃止するが、船員の特殊事情にかんがみ、現行船員保険の対象を一丸とする船員保険組合を本    制度の特別規定によって設ける。   (2) 厚生年金保険の(1)乃至(5)は船員保険に関しても同様とする。ただし、船員保険から移管する積立金及び施設    の範囲は必要の限度において行う。   (3) 総合年金制度に対する保険料は、船員保険組合において一元的に徴収し、総合年金保険の会計に払込むもの    とする。   (4) 業務災害に基く給付は、他の社会保険部門と同一方針の下に調整する。  四 恩給及び共済組合制度との関係   (1) 従来の恩給及び共済組合制度の資格期間は、本人の希望により、本制度に通算することができる。ただし、    この場合には、通算した期間に応じ、共済組合の給付額を減額する。   (2) 前号の措置のために要する費用として、国庫及び共済組合から必要額を総合年金保険の会計に繰り入れるも    のとする。  五 町村職員恩給組合との関係   (1) 町村職員恩給組合は、本制度の退職金組合に改組し、その権利義務は承継する。   (2) 町村職員恩給組合の組合員の期間は、本人の希望により、本制度の被保険者期間に通算することができる。    ただし、この場合には、通算した期間に応じ、本恩給組合の給付額を減額する。   (3) 四の(2)は前号の場合においてもこれに準ずる。  六 私立学校教職員共済組合との関係    私立学校教職員共済組合の措置は、「五」町村職員恩給組合に準ずる。

建   議   書
                               昭和二十九年一月十一日                                社会保障制度審議会会長発内閣総理大臣宛  伝えられる政府の昭和二十九年度予算編成に当っては、社会保障に対する国の負担は、全面的に圧縮されようとし ているが、本審議会は、わが国社会保障制度の現状並びに現下の諸情勢にかんがみ、社会保障費に対する国庫負担の 縮減には賛同しがたいものである。  すなわち、戦後わが国の社会保障制度は、漸次発達しつつありとはいえ、なお極めて不満足な状況におかれている のであって、本審議会は、かねてからその拡充を要請しているところである。しかも現下諸般の社会経済情勢は、今 後ますます社会保障制度の強化を必要とする趨勢におかれているのであって、かかるとき、その国庫の負担金を低減 し、社会保障費の減額を来すことは、徒らに社会不安を招来するおそれがある。  右にかんがみ、本審議会は昭和二十九年度予算編成に関しては、社会保障費に対する国庫負担は、少くとも現行の 基準を確保するとともに、今後の情勢に対処して社会保障制度を整備するため、社会保障制度審議会を拡充すべきも のと考える。  右社会保障制度審議会設置法第二条第一項の規定により、建議する。

建   議   書
                               昭和二十九年三月一月                                社会保障制度審議会会長発内閣総理大臣宛  本審議会は、すでに各種社会保障制度の調整整備の緊要であることについて数回にわたり、政府に勧告を行ってい るが、政府の企画する社会保険関係立法については、つねにこれら勧告の趣旨を殆んど等閑に附している嫌がある。  今般厚生大臣より厚生年金保険法および船員保険法の改正法案につき、本審議会に諮問があったので、別添のとお り答申しておいたが、両改正法案についても、わが国年金制度全般の立場より見れば、綜合的観点からする顧慮が全 く払われていない。すなわち、わが国年金制度の問題は、単に右諮問案のごとく民間被用者に対して中間的措置を講 ずるをもって足るものでない。  すでに、国家公務員の退職年金に関し人事院の勧告がなされており、また政府部内においても市町村職員共済組合 法の制定が準備されつつある事情等を勘案すれば、わが国の年金制度は今こそ綜合的に企画せらるべきことは別紙答 申書に述べられている通りである。もしこのままに放置するときは、わが国の年金制度をますます混乱に陥らしめる 結果となり、誠に憂慮に堪えないところである。  よって、政府は、公私の被用者を通ずる各種年金制度につき綜合的な観点から検討を加え、年金制度の綜合調整に 関し恒久的な具体策を樹立して、その向うところを明らかにすべきである。  右社会保障制度審議会設置法第二条第一項の規定に基き建議する。

《「社会保障制度に関する勧告および答申集」(昭和35年3月 社会保障制度審議会)から引用:原文縦書き》

 1999.2.14 登載
 【社会保障制度審議会勧告集(昭和24年度〜昭和37年度)】 【参考資料集】
 KA28 
このホームページは個人が開設しております。 開設者自己紹介