災害時における福祉救援活動の指針 


                           1997年3月策定                            社会福祉法人鳥取県社会福祉協議会
目次 はじめに 1 災害発生時における救援活動  1. 災害発生時の特徴と留意点   (1) 高齢者や障害者などの災害弱者に大きな被害が発生する   (2) ライフライン等が途絶する   (3) ニーズは地域や対象者によって異なり、また、時間の経過によって変化する     参考:「時間の推移とともに変化する生活ニーズ」   (4) 福祉に関する膨大な新しい業務が発生する     参考:「被害状況判断、救援活動の方針を検討する場合の判断基準」  2. 災害発生時に求められる活動   (1) 発災直後     『ケア付き避難所』の生活支援体制   (2) 生活支援期 2 救援ボランティア活動の展開  1. 救援ボランティア活動の特徴と留意点   (1) 救援ボランティア活動の目標   (2) 被災者の心の傷、後遺症、ストレスなどに配慮した活動     (例)『ボランティア活動の心得−7か条』   (3) 行政サービスの原理とは異なるボランティア活動の特質   (4) ボランティアは被災地に負担をかけない「自給自足」を原則に  2. 救援ボランティア活動の窓口の運営   (1) ボランティア活動窓口の開設と災害対策本部との連絡   (2) ボランティア母体のネットワーク会議   (3) コーディネーターの配置     ★『コーディネーターの留意点』  3. 市町村社協ボランティアセンターの役割   (1) ボランティア活動希望者の登録・受付の窓口の役割   (2) 生活ニーズに対応したボランティア活動プログラムづくり   (3) ボランティアが活動しやすい条件の整備   (4) 情報の発信、広報活動  4. 被災地近隣地域等からの支援活動   (1) 近隣市町村社協ボランティアセンターの支援活動   (2) コーディネーターの派遣と支援  5. 復興期における支援活動   (1) 復興期における支援活動の留意点   (2) 地元への引き継ぎ     参考:「福祉救援対策本部の組織・業務体制」     参考:「福祉救援対策本部の一日のタイムスケジュール(例示)」     参考:「福祉救援対策本部のボランティアセンター」設備の構想 3 平常時の取り組み  1. 災害弱者支援ネットワークづくり   (1) 要援護者・災害弱者のニーズ把握、「福祉台帳」等の整備   (2) 小地域での見守り支援体制づくり   (3) 関係機関・施設・母体の連携体制の構築  2. 市町神社協ボランティアセンター機能の充実強化   (1) コーデイネーターの配置と活動拠点の整備   (2) ボランティア活動の啓発、普及   (3) 情報提供、広報機能の強化 4 防災への心横えと備え  1. 災害弱者の防災への備え   (1) 安全な空間の確保   (2) 非常時用持ち出し品の備蓄   (3) 避難場所の確認   (4) 情報の確保   (5) 近隣・地域社会とのつながリ  2. 防災活動のポイント   (1) 防災知識の普及・啓発   (2) 防災訓練の実施と備蓄     【備蓄品リスト例】  3. 発災直後の初動時の「マニュアル」整備   (1) 市町村社協における初動時の「マニュアル」整備   (2) 福祉施設等における初動時の「マニュアル」整備



災害時における福祉救援活動の指針

は じ め に

 平成7年1月17日早朝に発生した阪神・淡路大震災は、甚大な被害をもたらした。特に犠牲者の約 半数が60歳以上の高齢者であり、障害者・児童とともに社会福祉施設も大きな被害を受けた。ライフ ラインが崩壊したもとで、社会福祉施設では行き場のない高齢者・障害者などの被災者を多数受け入 れ、また、避難所ではボランティアが大きな役割を果たし、社会的にもその重要性が広く認識される こととなった。  この指針では、『避難』が必要となる規模の災害時において、1)社会福祉協議会(以下は「社協」 という)や福祉施設が、地域住民、ボランティア、民生・児童委員や福祉母体等との連携のもとに福 祉救援活動を展開するうえで、相互に共通確認しておくべき事項、2)地域や福祉施設などにおいて平 常時に取り組むべき事項、3)高齢者や障害者などの災害弱者が日常生活のなかで留意すべき防災への 備え、災害弱者を中心においた防災活動のポイント等を整理し、まとめた。  また、4)市町村社協や福祉施設・学校・自治会等が、自主防災組織を整備し、具体的な活動マニュ アルを策定される際にも指針として活用できるよう課題を整理した。
1 災害時における救援活動

1. 災害発生時の特徴と留意点  (1) 高齢者や障害者などの災害弱者に大きな被害が発生する   a 高齢者や障害者・在宅の傷病者など、移動、情報収集、状況判断が困難な方たちに被害が集    中する。   b 被災により新たに援護が必要となる方が数多く生じる。
 * 被災者、特に災害弱者の被災状況を敏速に把握し、避難所への誘導や移動援助などを行うと
  ともに、そのニーズの把握・緊急対応など、近隣の住民・自治会、民生・児童委員、ボランティ
  ア等が協力して幅広い自主的な救援活動を行う必要がある。

  (註)災害弱者とは=高齢者(歩行能力・聴覚・視覚等の身体機能が低下している方、会話や判断能力に障害をも
    つ痴呆性の方、同居者のいない一人暮らしの方、高齢者のみの世帯)や障害者(視覚・聴覚障害、肢体不自由、
    知的障害、精神障害をもつ方)、乳幼児を抱える世帯や母子・父子世帯、透析患者や内部障害等の方、外国人
    などのコミュニケーションにハンディをもつ方々など。

 (2) ライフライン等が途絶する
  a 通信網が途絶し、情報収集や発信ができない。
  b 電気・ガス・水道の供給が止まる。
  c 交通網が遮断され、生活物資の供給が止まる。
 * 発災から数日間は、近隣住民やボランティア、関係機関・団体との相互協力により被災者の
  安全確保や救援活動を行う必要がある。

 (3) ニーズは地域や対象者によって異なり、また、時間の経過によって変化する
 * 発災直後は、被災者の安否確認・安全確保・避難誘導と建物等の安全確認が必要であり、続
  いて在宅・避難所の被災者のニーズの確認と対応、特に災害弱者への福祉的援護サービスの確
  保など、時間の経過に沿って、被災者・災害弱者のニーズと対応の内容が変化するため、福祉
  関係者・ボランティアは状況の変化に的確にあわせた救援活動を行う必要がある。このために
  は、活動が円滑に行われるための受給調整やボランティア等へのオリエンテーション・情報提
  供を行うコーディネーターの配置が必要である。

 
参 考:「時間の推移とともに変化する生活ニーズ」
〔被災の時期が冬季の場合〕
避難生活
初  日
○食糧・飲み水の絶対量が足りない。家族で分け合う。
○着る物、日用生活品が足りない。子どものオムツが必要。
※3日目くらいで解決。外からの援助物資が届くようになる。
避難生活
2日目
○食糧が足りない。おにぎり程度の食糧の提供。
○温かい汁物が欲しい。
○メガネが必要。子どものオムツが足りない
○トイレが満杯。生活用水が足りない。
○情報が入らない。知り合いの安否・動静を知りたい。
○飲料用の給水車が走り出す。
避難生活
3日目
 ・
4日目
○温かい汁物が欲しい。野菜・果物が欲しい。
○洗濯物が増えてくるが、水がないため、たまる一方。
○お風呂に入りたい。
○半壊の自宅から必要な物を引き出して欲しいとの要望が出る。
○在宅の高齢者家庭などへの救済物資の配拾が見落とされがち。
○児童・高齢者などが遠方の親戚などに「疎開」する手伝いを。
避難生活
1週間
○電気が使えるようになる。テレビからの情報が入ってくる。
○給水車両が町中を走るようになった。
○一部だが、商店が開いてくる。しかし品物が少ない。
○自炊も可能となってくる。
○避難所においても、自治会などができ、生活のなかでの助け合い活動が始まってくる。
○高齢者などは通院が困難。個別援助のニーズが高まってくる。
避難生活
10日目
○交通も回復し、遠方への買い出しなども可能となってくる。
 しかし、高齢者などは、買い物にいくのも苦しい。
○銭湯もオープン。人々が列をなしており時間がかかる。
○市町村役場で、り災証明の発行などが始まるが、手続きに長い列ができ、高齢者などは長
 時間待たされることが苦しい。手続き代行なども必要。

 (4) 福祉に関する膨大な新しい業務が発生する
 * 被災地の混乱などにより情報の的確な収集が困難であったり、大量に発生する緊急ニーズへ
  の対応、被災地内外からの被災状況の確認や緊急物資・ボランティアの要・不要の問い合わせ
  等への対応など、通常の態勢では処理困難な状況が発生することも想定される。したがって、
  発災時において関係機関・団体は、自らの判断で実施する業務内容と範囲、そのための必要物
  資・人員等について検討しておくとともに、行政機関とも事前に協議しておくよう努める。

 
参 考:「被害状況判断、救援活動の方針を検討する場合の判断基準〔例示〕」
レベル
被  災  状  況
救援活動の方針
〔A級〕
○激甚災害であり、ライフラインが広範囲
 にわたって断絶している。
○中心部に通ずる幹線道路や鉄道が大幅に
 マヒしてる。
○多数の死傷者が発生、避難所が開設され
 た。
○全壊、半壊の家屋が多数。
○要援護者家庭も多数被災。
○被害が最も大きく、被災地の市区町村社
 協だけでは救援活動が十分展開できない
 ため、都道府県社協・市区町村社協が合
 同で福祉救援対策本部を設置。
○さらに全国の社協ネットワークによる支
 援体制を確立して取り組む。
       【全国の支援体制による】
 
〔B級〕
○激甚災害であり、ライフラインが一部で
 断絶され、半壊家屋も多数みられ、一部
 で避難所が開設される。
○一部の地区で大きな人的被害がみられる。
 一部で避難所が開設された。
○交通のマヒは、部分的である。
 
 
 
○被害は中規模であり、市区町付社協の機
 能、地域住民組織などの機能も回復しや
 すい状況にあり、市区町村社協が主体的
 に救援に取り組む。
○ボランティアセンター、在宅者の生活支
 援など、都道府県・市区町村社協が合同
 で福祉救援対策本部を設置し、救援活動
 を展開。
    【都道府県内の支援体制による】
〔C級〕
○災害は激甚ではない。半壊家屋などは少
 なく、ライフラインも断絶していない。
○一部の地区で人的被害がみられ、一部で
 避難所が開設された。
○被害は軽微であり、基本的には市区町村
 社協が自力で救援活動を展開する。
         【自力での救援活動】
 


2. 災害発生時に求められる活動

 (1) 発災直後
  a 倒壊建物の下敷きになったり、土砂崩れで生き埋めになったりした被災者の人命救助や負傷
   者の手当て等が最優先となる。これらの活動は、専門的技術が要求され、危険度も高いため、
   災害救助法に基づく活動が基本となる。
  b 福祉施設・福祉サービス従事職員は、入所者・サービス利用者の安全の確保・避難誘導、緊
   急入所・サービス提供に対応する。また、利用登録者等の安否確認・ニーズ把握を行い、施設
   への受け入れ・避難所等でのサービス提供を行う。
  c 市町村社協は、民生・児童委員やボランティア等の協力により要援護者の状況確認を迅速に
   行うとともに、新たに援護が必要となった者を把握し、必要なサービス提供に結びつける。特
   に、移動介助サービス、手話・点訳等による情報提供サービス、介護サービスの提供、施設へ
   の緊急入所などの応急対応が行われるよう働きかける。
    また、障害者・乳児の生活に必需となる車いす・杖・補聴器・メガネ・簡易便器・紙おむつ・
   粉ミルク・哺乳ビン等の確保、提供に努める。
  d 行政機関との連携により避難所設置への協力とともに、福祉センター・デイサービスセンター
   等を『ケア付き避難所』として、介護専門職員の配置や介護ボランティアなどの協力を得て設
   置し、重度障害者や虚弱・病弱な高齢者など一般避難所では生活困難な被災者を受け入れ、身
   辺介護・生活支援を行うとともに、そのセンター周辺の福祉・保健・医療の総合的なサービス
   提供拠点として機能できる体制を整備する。


* 『ケア付き避難所』の生活支援体制
体     制
課          題
a 避難所総括・総括班
○コーディネーターの配置、行政の災害対策本部との連携体制の確立
b 生活相談・生活支援班
○デイサービスセンター職員、ホームヘルパーなど介護職員の勤務体
 制の確立
 (合同本部による他県からの職員派遣による体制づくり)
c ボランティア活動支援班
○ボランティアコーディネーターの配置
d 保健・医療・衛生班
○保健所などとの連携
e 食料品・炊き出しなど
  担当班
○福祉救援対策本部のボランティアセンター部門との連携
f 福祉用具など物資調達・
  配付班
○福祉救援対策本部のボランティアセンター部門との連携
g 在宅障害者・高齢者など
  生活支援班
○デイサービスセンター職員、ホームヘルパーなど介護職員の勤務体
 制の確立
 (合同本部による他県からの職員派遣による体制づくり)

 (2) 生活支援期
  a 避難所の生活環境の整備、炊き止し、救援物資の仕分け・分配への協力、被災者の生活支援、
   ニーズ把握などを避難所の管理者と十分調整のうえ行う。特に、視覚・聴覚に障害のある方へ
   の生活情報の提供には、個別に対応する工夫が必要である。
  b 在宅やテント等で生活する被災者には、生活情報が届かない状況となりやすい。
   給水場所等での広報活動、在宅の障害者などには個別に周知のための活動を行う必要がある。
   また、生活物資の提供、移動介助、住居ビニールシート掛け、貴重品探しの手伝い(ただし、
   保管できる条件がある場合)、家財等の移送への協力など、多様な活動が求められる。



2 救援ボランティア活動の展開

1. 救援ボランティア活動の特徴と留意点  (1) 救援ボランティア活動の目標
* 救援ボランティア活動の目標・意義は、被災者とボランティアが災害被害への共通理解・共
 感・励まし合いを土台に、被災者の生活ニーズに応えた個々の生活支援への取り組みを通じて、
 被災者の自立を援助し、自立生活の屈復を支援することにある。
* 被災地外からの支援は、長期にわたる場合もあるが、被災地の生活手段の回復、被災地の住
 民自治の回復によって終結し、地元のボランティアグループなどによる日常活動へ移行する。

 (2) 被災者の心の傷、後遺症、ストレスなどに配慮した活動プログラム
  a 被災者の多くは一瞬にして家を失い、あるいは家族・親族・友人を失うなどのため心の奥深
   くに大きな傷を負っていたり、後遺症に悩んでいたりする。また、長引く避難生活のなかで多
   くの被災者が心身の疲労・ストレスを蓄積し、生活回復への見通しをもちにくい状況におかれ
   ている。
  b 被災地の外から救援活動にあたるボランティアは、初めてボランティア活動に参加した人も
   多く、「何でもお手伝いしたい」と意気込んだ心理状態にある場合が多く、その結果、被災者
   との間に心理的なギャップや誤解を生ずることもある。
* ボランティアセンターは、被災者の心理や生活状況と、外部から救援にかけつけたボランティ
 アの心情・希望などを考慮し、活動プログラムの内容を工夫する。また、避難生活上のストレ
 ス解消につながる行事などを企画、実施することも重要である。
* ボランティア活動希望者の登録を受け付けるときには、被災者の心理面の特徴も含め、現地
 で活動するうえでの『心得』を伝達・オリエンテーションし、理解してもらうとともに、グルー
 プで集団行動することを周知徹底する。

  (註)災害時には、地元で従来から活動していたグループ以外に、地域の各種団体・企業や労働組合、学生・個人
    など多様なボランティアが、時期的・地域的に偏在して活動参加してくる状況が生まれる。ボランティアセン
    ターでは、バラバラに参加してくるボランティアを活動分野・時間別に「活動班」に組分けする必要がある。

        (例) 『ボランティア活動の心得 − 7か条』

 1.あわてる必要はありません。
  (まず、けがや事故に注意して。活動中にけがをしたのでは話になりません)
 2.手持ちぶさたや、暇を気にしない。
  (空いた時間があれば周りの人の活動を観察し、次の活動に活かしましょう)
 3.気がついたら、まず行動。
  (気がついたことや意見は、どんどん活動班責任者に申告し行動に移しましょう)
 4.活動班責任者の指揮下に入る。
  (各自がバラバラな行動をしていれば統制がとれません。必ず活動班責任者のもとで行動
   しましょう)
 5.活動班責任者の指示を必ず守る。
  (班を把握し、調整をとるのが活動班責任者です。活動班責任者は安全面も考えています)
 6.勝手な行動は謹んでください。
  (二次災害等に対応できません。また、活動の妨げにもなります)
 7.みんなで協力して。
  (一人ひとりのパワーは限られていますが、みんなで力を合わせれば不可能が可能になる
   はずです)

 (3) 行政サービスの原理とは異なるボランティア活動の特質
  a 避難所や自宅で不自由な生活を送っている被災者、特に災害弱者の生活問題は個別性が高く、
   行政サービスや災害対策本部による基本的なサービス提供だけでは解決が困難な場合がある。
  b ボランティア活動は、行政サービスの公平性の原理とは異なり、「必要なサービスを、最も
   必要としている人に、必要なときに提供する」点に特徴がある。
* 行政とボランティアの役割の違いを認めあい、共通理解を深めて、被災者の生活問題が解決
 するよう連携した取り組みが必要である。
* ボランティアセンターは、行政の災害対策本部が提供しているサービスの内容をよく理解し、
 被災者の生活ニーズを分析し、「この人が必要としているサービスの全体像は何か」を考え、
 ボランティア活動によって担うことが必要な事柄を区分し、ボランティアの特質を活かした活
 動プログラムを組み、提案する必要がある。

 (4) ボランティアは被災地に負担をかけない「自給自足」を原則に
* 被災地の外から救援活動に参加したボランティアは、食料・水・活動機材などは持参し、ゴ
 ミは持ち帰るなど、被災地に負担をかけない努力をし、原則として活動は「日帰り」によるこ
 ととする。
* ボランティアセンターは、ボランティアが活動しやすいよう条件整備に努め、ボランティア
 リーダーなどが早朝から夜間まで長時間活動する場合には、寝泊まりできる場所を斡旋、確保
 することも考慮する必要がある。

2. 救援ボランティア活動の窓口の運営

 (1) ボランティア活動窓口の開設と災害対策本部との連絡
* 鳥取県が定めた「鳥取県地域防災計画」では、医療救護関係ボランティアについては県・医
 師会・日赤県支部が連携のもと対応し、生活支提ボランティアについては社会福祉協議会が窓
 □となって対応するように定めている。

  (註)「鳥取県地域防災計画」(震災対策編)は、「災害対策基本法第40条の規定に基づき、県民生活の各分野にわ
    たり重大な影響を及ぼすおそれのある地震災害に対処するため、鳥取県の地域における地震災害に係る災害予
    防、災害応急対策及び災害復旧に関し、県、市町村、指定地方行政機関及び指定地方公共機関等の防災関係機
    関が処理すべき事務又は業務の大綱等を含め、これにより防災活動を総合的かつ計画的に推進し、県土及び県
    民の生命・財産を地震災害から保護するとともに、災害による被害を軽減し、もって社会秩序の維持と公共の
    福祉の確保に資するのに必要な防災に関する基本的事項を総合的に定めることを目的」に制定されている。


 (2) ボランティア団体のネットワーク会議
* 被災地市町村内で救援活動に取り組むボランティア・団体の連携体制を確立するため、毎日
 定時に各団体の代表者が集まる連絡会議を開催する。連絡会議のテーマは、
 ア.避難所、在宅等の被災者のニーズと活動プログラムに関する情報交換
 イ.行政の災害対策本部のサービスや手続きなどの最新情報
 ウ.活動上や活動エリアなどでお互いに調整が必要となる事項
 エ.お互いの活動から優れた点を学びあうこと

 (3) コーディネーターの配置
* ボランティアセンターには、常時、複数のコーディネーターを配置し、活動支援、コーディ
 ネートできる体制を構築する。そのためには、日常から配置されている専門職に加えて、外部
 からの臨時的登用も含め、県社協や他市町村社協からの派遣などによりコーディネーターの常
 勤体制を確立する。コーディネーターが交替する場合には前任者と後任者とが引き継ぎができ
 るよう、一定期間は重複してコーディネートにあたるようにローテーションを組むことが必要
 である。

 ★『コーディネーターの留意点』
  a 被災住民の生活問題の特質(特に災害弱者が抱える生活問題の状況、被災者の心理的な傷害、
   ストレスなど)に関する専門知識。
  b 初めてボランティア活動に参加した人へのさまざまな指導ができる指導力(ボランティア活動
   の基本的捉え方、救援活動の特色と活動上の心得、被災者と接するうえでの最低限の約束ごと、
   ボランティア自身の安全を確保する方法など)。
  c 被災者やボランティアの要望を機械的に「調整」せず、被災者やボランティアに危険性を伴う
   ことなどはそのまま引き受けたり、依頼しないなどの判断も重要。専門職や関係機関と協議のう
   え、その連携のもとでないと取り扱えない事柄もある。


3. 市町村社協ボランティアセンターの役割

 (1) ボランティア活動希望者の登録・受付の窓口の役割
  a 専門技術をもつ活動希望者(医師、看護婦、介護福祉士、臨床心理士、手話通訳、保母、通
   訳、特殊車両運転、建築士など)の登録を行う。
  b 被災市町村内で継続的に活動可能なボランティア・団体などの登録を受け付ける。
  c 被災地外からの個人ボランティアの受け入れは、直接被災地で受け付けるのではなく、いっ
   たんは県社協などが設置する『合同対策本部』が受け付けることを情報提供する。なお、現地
   に直接参加してきた個人ボランティアは、臨時のグループに加わって活動するよう支援する。

 (2) 生活ニーズに対応したボランティア活動プログラムづくり
  a 被災者の生活ニーズを充足するための活動プログラムを市町村社協などが設置する『福祉救
   援対策本部』等との連携のもとで編成する。
  b 避難所など多数の被災者が生活する場所では、日常生活支援の内容によって一定の活動部門
   (班)を編成し、リーダーやサブリーダーを決めて、組織的に対応する活動プログラムを編成
   する。

 (3) ボランティアが活動しやすい条件の整備
  a 活動上で必要となる機器・器材などは、災害対策本部・救援対策本部において確保されるよ
   う働きかける。
  b 地元のボランティアの「ボランティア活動保険」の加入に対応する。また、他の市町村から
   参加したボランティアには保険加入の有無を確認し、加入してもらう。
  c 初めて参加するボランティアが、基礎的知識や態度・マナーを学習するためのパンフレット、
   救援活動に必要な情報資料などを作成・提供するとともに、活動上の悩みなどの相談に対応す
   る。
  d 行政・災害対策本部等との連絡を密にとり、ボランティアが活動しやすいよう環境整備すべ
   き事項などについての要望の窓□となる。

 (4) 情報の発信、広報活動
  a 避難所・在宅等の被災者、特に災害弱者が必要とするボランティア活動の内容、必要人員・
   量、受け入れ体制などを、市町村内のボランティアや各種団体等へ知らせるための広報活動
   (チラシ、ポスター、ステッカー、防災無線、ケーブルテレビ、パソコン通信、アマチュア無
   線などを利用)を行う。
  b 被災地の市町村社協と県社協は連携をとり、被災状況の変化に対応して、近隣自治体や市町
   村社協・都道府県(指定都市)社協・全国社協のネットワークを通じ、また報道機関にも協力
   を求め、優先して必要とされるボランティア活動の内容、必要人員・量、活動先の状況・受け
   入れ体制などについで情報提供する。


4. 被災地近隣地域等からの支援活動

 (1) 近隣市町村社協ボランティアセンターの支援活動
  a 被災地でのボランティア活動希望者が、現地の救援対策本部・ボランティアセンターに直接
   集中することを避けるため、近隣市町村社協ボランティアセンターでは、当該市町村内のボラ
   ンティア活動希望者の登録とオリエンテーションを行う。
    また、ボランティア活動保険の加入に対応する。
  b 登録されたボランティア活動希望者について、求められる活動内容ごとに活動可能な者を取
   りまとめ、県社協等が設置した合同対策本部に連絡(登録)する。
  c 被災地の状況を把握し、関係団体への情報提供、地域住民への広報活動を行うなど救援活動
   が円滑に展開できるよう努力する。

 (2) コーディネーターの派遣と支援
* 被災地近隣の市町村社協ボランティアセンター及び県社協は、現地の救援対策本部(市町村
 社協)に対し、コーディネーターとして適切な人材を派遣する。

5. 復興期における支援活動

 (1) 復興期における支援活動の留意点
  a 高齢者や障害者等は、生活支援を要する期間が他の被災者よりも長期化する場合が多い。そ
   のため、支援活動が一過性の活動に終わることのないよう、継続的かつ個別的にも対応できる
   体制づくりを心がける。
  b 避難所生活の長期化、あるいは仮設住宅に生活拠点を移したことによる被災者の多様なニー
   ズにきめ細かく対応する工夫が必要である。特に、避難所等を自治的に支えてきた人たちが普
   段の生活に復帰した後では、主に災害弱者ばかりが集中して生活する状況が生じるため、特別
   な配慮や専門的支援の構築も含め検討が必要となる。
  c 一方、地元の経済活動等の回復とともに、ボランティア活動として継続することがふさわし
   いか否か、慎重な判断を要する活動分野もでてくることに留意する。

 (2) 地元への引き継ぎ
  a ライフラインの復旧や仮設住宅への入居による避難所生活者の減少等を踏まえ、被災地外か
   らの支援の形態を組み替え、地元の自治活動やボランティア活動を中心とする活動へ移行して
   行くことが必要である。
  b この円滑な移行・引き継ぎを行うためには、記録の整備、地元ボランティア等との協働活動
   の積み重ねが大切である。

      参 考:「福祉救援対策本部の組織・業務体制」
┌─┐ ┌───────────────────────┐
│地│ │       被災地市町村社協        │
│区│ │   【組織構成】       【役 職】  │
│社├┐│┏━━━━━━━━━━━┓    本部長   │ ┌─┐
│協│││┃  本 部 会 議  ┃ (市町村社協会長)│ │市│
└─┘││┗┯┯━━━━━━━━━┛     │    │ │町│
┌─┐││ ・│               │    │ │村│
│施│││ ・├地区社会福祉協議会     副本部長  │ │災│
│ │││ ・├民生委員児童委員協議会    │    │ │害│
│ ├┤│ ・├ボランティア連絡会     事務局長  │ │対│
│設│││ ・├施設連緒会          │    │連│策│
└─┘││ ・├障害者団体など      業務部門長  ┝ ┥本│
┌─┐││ ・└その他関係団体など           │携│部│
│福│├┤ ・                     │ │/│
│祉├┤│ ・ 【業務部門】              │ │民│
│団│││ ・  ├総務部門              │ │生│
│体│││ ・  ├情報収集・提供部門         │ │部│
└─┘││ ・  ├総合相談・ニーズ把握部門      │ │局│
┌─┐││ ・  ├在宅被災者生活支援部門       │ └─┘
│ボ│││ 連  ├ケア付き避難所生活支援部門     │ ┌─┐
│ラ│││ 携  ├一般避難所生活支援部門       │ │都│
│ン│││ ・  ├ボランティアセンター部門      │ │道│
│テ├┘│ ・  ├小地域・コミュニティー活動支援部門 │ │府│
│ィ│ │ ・  └救援物資調達・調整部門       │ │県│
│ア│ │┌┴───────────────┐     │ │災│
│団│ ││   合同本部・現地事務所   │     │ │害│
│体│ │└────────┰───────┘     │ │対│
└─┘ └─────────╂─────────────┘ │策│
          ┌───┸────┐          │本│
          │都道府県合同本部┝━━━連 携━━━━┥部│
          └───┰────┘          └─┘
          ┌───┸───┐       ┌─────┐
          │全 国 本 部┝━━連 携━━┥厚 生 省│
          └───────┘       └─────┘


    参 考:「福祉救援対策本部の一日のタイムスケジュール(例示)」
┌────┬───────────────────┬────────────────┐
│時 刻 │ 被災者の動き、救援対策本部の動き  │   ボランティアの動き    │
├────┼───────────────────┼────────────────┤
│〜 6:00┼○前泊した本部スタッフ起床      ┼○前泊のボランティアが参加   │
│    │                   │                │
│〜 7:00┼○ケア付き避難所・朝食配付      ┼                │
│    │                   │                │
│〜 8:00┼                   ┼                │
│    │○本部スタッフ会議(通勤者も含む)  │○ボランティア、本部に出勤   │
│〜 9:00┼                   ┼                │
│    │┓                  │                │
│〜10:00┼┃被災者からの電話相談等の受理と、生活┼○ボランティアに対する活動提起 │
│    │┃支援のためのコーディネート     │                │
│〜11:00┼┃                  ┼                │
│    │┛                  │                │
│〜12:00┼                   ┼○ケア付き避難所・昼食配布   │
│    │                   │                │
│〜13:00┼┓                  ┼┓               │
│    │┃                  │┃在宅被災者に対する個別の生活 │
│〜14:00┼┃ケア付き避難所のニーズ把握     ┼┃支援活動           │
│    │┃┓                 │┃               │
│〜15:00┼┛┃                 ┼┃┓              │
│    │ ┃在宅被災者(要援護者)のニーズ把握│┃┃ケア付き避難所への炊き出し │
│〜16:00┼ ┃                 ┼┛┃など受け入れ        │
│    │ ┛                 │ ┃              │
│〜17:00┼○行政対策本部との定期協議      ┼ ┛              │
│    │                   │○ケア付き避難所・夕食配布   │
│〜18:00┼                   ┼                │
│    │                   │                │
│〜19:00┼○夕食                ┼○ボランティアミーティング   │
│    │                   │ (翌日の活動方針を検討)   │
│〜20:00┼○市内ボランティア団体、NGO組織連絡┼                │
│    │ 会議の開催             │○ボランティア、本部を退出   │
│〜21:00┼                   ┼                │
│    │                   │                │
│〜22:00┼○本部スタッフ会議          ┼○ボランティアリーダーはスタッ │
│    │ (翌日の活動方針を検討)      │ フ会議に出席         │
│〜23:00┼                   ┼                │
│    │                   │                │
│〜24:00┼○消灯                ┼○消灯             │
└────┴───────────────────┴────────────────┘


     参 考:「福祉救援対策本部のボランティアセンター」設備の構想
 
  〔1階〕
  ┌──────────────────────────────────┐
  │┌──────┐┌───────────┐┌────┐┌─────┐│
  ││臨時ミニデイ││緊急一時保護用ベッド ││食事サー││物資倉庫な││
  ││サービス  ││           ││ビス  ││ど    ││
  ││      ││   ┌ ─ ─ ─ ││調理設備││ ─── ││
  ││      ││    介護職員などス││    ││入浴車両や││
  ││      ││   │タッフの詰所 ││    ││機材置き場││
  │├──────┤└───────────┘└────┘│ ─── ││
  ││仮設の保育所│┌───────────┐┌────┐│移送用のハ││
  ││      ││簡易浴室       ││スタッフ││ンデイキャ││
  ││      ││           ││事務室 ││ブの車庫 ││
  │└──────┘└───────────┘└────┘└─────┘│
  └──────────────────────────────────┘

  〔2階〕
  ┌──────────────────────────────────┐
  │┌─┬────────┬─┐┌────┐┌─┬────────┬─┐│
  ││  ボランティアコー  ││福祉救援││  在宅サービスコー  ││
  ││ │ディネーター  │ ││対策本部││ │ディネーター  │ ││
  ││  事務局スペース   ││事務局 ││  事務局スペース   ││
  ││ └ ─ ─ ─  ┘ ├┤    ├┤ └ ─ ─ ─  ┘ ││
  ││ボランティア詰所    ││    ││在宅要援護者スタッフ詰所││
  ││・避難所生活支援担当  ││    ││・入浴サービス担当   ││
  ││・在宅サービス担当   ││    ││・食事サービス担当   ││
  ││・仮設住宅サービス担当 ││    ││・洗濯サービス担当   ││
  ││・物資担当       ││    ││・移送サービス担当   ││
  ││ ………        ││    ││・個別ニーズ対応担当  ││
  ││  ┌ ─ ─ ─ ─ ┤│    ││            ││
  ││   アマチュア無線機器││    ││            ││
  │└──┴─────────┘└────┘└────────────┘│
  │┌────┬────┬────┬────┬────┬───┬───┐│
  ││ 社協職員、ボランティアコーディネーター            ││
  ││ 長期滞在のボランティアリーダー、介護スタッフなどの宿泊設備  ││
  │└────┴────┴────┴────┴────┴───┴───┘│
  └──────────────────────────────────┘



3 平常時の取り組み

1. 災害弱者支援ネットワークづくり  (1) 要援護者・災害弱者のニーズ把握、「福祉台帳」等の整備
* 緊急時において、適切な避難誘導や安全確認、応急的な生活ニーズ支提を行うためには、日
 常的に要援護者や災害弱者となる可能性の高い世帯等の状況を把握し、福祉台帳として整備す
 る。また、居住環境についても住宅地図等を活用して福祉マップを作成し、避難路等について
 も周辺住民が相互に確認できる情報整備が必要である。
 ア.漏れなく把握するよう努める。
 イ.プライバシー保護に細心の注意を払う。
 ウ.民生・児童委員、自治会長、福祉委員、協力員などが連携し、情報を共有できること。当
  事者・家族にも、災害等の緊急時には近隣の協力体制が不可欠なことや、「共に生きるまち
  づくり」は相互の理解・協力によって実現することを確認する。
 エ.常時、「福祉台帳」は最新の情報に更新されていること。(居住情報は、住民票の異動と
  は一致しない場合がある。高齢者は、長期入院・退院や別居家族の家庭への長期滞在などで、
  所在確認が必要な場合が再々ある。)


 (2) 小地域での見守り支援体制づくり
  a 民生・児童委員、自治会長、福祉委員、協力員などの連携により、自治会の班単位・組単位
   での状況変化を、組織的に情報伝達できる仕組みを構築する。
  b 災害時の救援ボランティアの担い手には、近隣住民、特に青・壮年層の参加協力が必要であ
   り、日頃の地域活動のなかで要援護者や災害弱者の生活問題についての関心・理解を広げ、防
   災訓練等への積極的参加を求め、緊急時に備える必要がある。
  c 日頃から地域の危険個所(立地条件・環境=地盤、住宅密集や危険物の貯蔵状況、水害、急
   傾斜地・崖の崩壊・落石、地滑り・津波等の影響)、段差、各家庭の住居等の安全点検、避難
   所の設備の安全性等を点検し、その対策が個々の家庭、福祉施設、関係機関・団体等でも適切
   に対応されるよう働きかける。

 (3) 関係機関・施設・団体の連携体制の構築
  a 市町村社協は、行政の「地域防災計画」においてア.被災者特に要援護者の救援・生活支援、
   イ.救援ボランティア活動への支援、ウ.地域のコミュニティー再生に向けた支援を行うこと、
   が位置づけられるよう働きかける。
  b 市町村社協は、災害時に民生・児童委員、施設、障害者団体、ボランティア団体、民間企業、
   マスコミなど、関係者の協力により『福祉救援対策本部』を組織し、救援活動を展開すること
   を関係団体等と「協定」または協力体制の確認をしておく。
    また、福祉センター・デイサービスセンターが『ケア付き避難所』として位置づけられ、運
   営できるよう条件整備する必要がある。
  c 県社協は、当該市町村社協及び周辺市町村社協・福祉施設・関係団体等との連携をはかり
   『合同対策本部』を組織し、現地事務所を設置する。ここでは県内外からの救援活動の調整、
   広域活動拠点の設置、情報提供活動等を行う。また、市町村社協等との連携により、コーディ
   ネーター等の派遣を行うための条件整備、「災害時における救援活動のあり方」等についての
   関係者の研修、連絡網づくりを行う。


2. 市町村社協ボランティアセンター機能の充実強化

 (1) コーディネーターの配置と活動拠点の整備
  a コーディネート業務は、高度な専門的知識と技術を要するため、専任職員の配置とその養成・
   研修の充実をはかる。
  b いつでも・どこでも・誰でも・気軽に活動に参加できるよう活動紹介・相談業務、登録・斡
   旋業務を見直し、活動プログラムの開発、充実をはかる。
  c 活動拠点(専用の相談・作業スペース、ロッカー、掲示板、等)や活動機器・機材などを整
   備する。

 (2) ボランティア活動の啓発、普及
  a 日常において近隣住民が相互に見守り支えあう地域活動(友愛訪問・声かけ活動、ふれあい・
   いきいきサロン、交流活動)を普及する。
  b 福祉教育の充実と体験学習機会を拡充する。
  c 参加型イベント、チャリティバザー等を実施する。
  d ボランティアスクール等の学習機会の充実をはかる。

 (3) 情報提供、広報機能の強化
  a ボランティア活動に関する情報提供機能を充実するため、広報活動(広報紙・パンフレット・
   ポスター等の発行、マスコミとの連携)を強化するとともに、パソコン通信等のネットワーク
   活用を検討する。
  b 福祉台帳・福祉マップを小地区別に整備し、災害時には関係者が迅速に状況確認できるため
   の態勢を構築する。
  c 携帯電話・ファクシミリ等の通信機器を整備し、緊急時に備える。



4 防災への心構えと備え

1. 災害弱者の防災への備え   災害時には、災害弱者のみならず誰もが身体的・精神的な障害を負う可能性がある。障害者等の  日常生活を理解することは、すべての人々の災害への備えともなる。また、障害者等の暮らしやす  い環境を整備し、その防災対策を考えることは、誰もが暮らしやすい地域やまちづくりともなる。  (1) 安全な空間の確保
* 防災は、平常時から「自分の身は自分で守る」という心構えをもち、災害に際しては自ら状
 況を判断し、安全に避難しなければならない。また、そのためには日頃から身のまわりの環境
 を整えておく必要がある。
 ア.家屋の倒壊防止(壁に筋交いを入れる等の補強)
 イ.火災防止のために常にガスの元栓を閉める習慣をつける
 ウ.電気器具・ストーブ等の安全点検
 エ.家具等の転倒防止、置き物等の落下防止、ガラスにシールを貼り飛散防止
 オ.ガラスの飛散などに備え、けがをしないためスリッパ等を居室に置く
 カ.災害情報をすぐに入手できるよう携帯ラジオ(聴覚障害の方は、文字放送つき、または携
  帯テレビ)を身辺に置く
 キ.補聴器・メガネ等を破損・紛失しない工夫
 ク.脱出ルートに物を置かない、車いすが通れる幅を常に確保しておく
 ケ.福祉機器などが使用不能な場合の予備、代替え手段の用意
 コ.外部への連絡手段(笛、携帯電話、等)を手が届くところに用意しておく

 (2) 非常時用持ち出し品の備蓄
  a 発災後、組織的な救援活動が行われるまでには数日を要する。このため、各自で3日分程度
   の食料、水、生活必需品、常備薬等を備蓄する。また、避難のときにすぐに持ち出せるよう保
   管の方法を工夫する必要がある。
  b 非常時用持ち出し品は、保存のできる食料・飲料水、懐中電灯、携帯ラジオ・テレビ・乾電
   池、身のまわり品(衣類、タオル、ティッシュペーパー、おむつ、生理用品など)、常備薬・
   救急セット、現金、雨具、「緊急連絡カード」(住所、氏名、緊急時の連絡先、かかりつけ医療
   機関、常備薬の種類などを記載したもの)、緊急通報機器・用具(非常ベル、笛、携帯電話)
   等を用意する。
    特に、障害別に配慮が必要なものは、視覚障害(白杖、点字板、糖尿病・緑内障の方は常備
   薬)、聴覚障害(補聴器・専用電池、文字つき携帯ラジオ、笛)、脊髄損傷(携帯用トイレ)、
   脳性マヒ(携帯用トイレ、食事セット)、内部障害(ストマ装具10日分以上、洗腸セット=水・
   ウェットティッシュ・輪ゴム・ビニール袋・ハサミ)、知的障害(常備薬・処方箋、身のまわ
   り品や食べ物にこだわりのある場合はその点を考慮する)、精神障害(緊急連絡カードにかか
   りつけ医療機関名、薬の種類の記載)など、常時持ち出しができるよう準備しておく。

 (3) 避難場所の確認
* 平常時に自分の住んでいる地域の避難場所を確認し、実際に行ってみる。重度障害者や虚弱・
 病弱な高齢者の場合は、その地域で適切な身辺介護・生活支援が提供される『ケア付き避難所』
 等の指定施設を確認しておくことも必要である。

※「福祉避難所」について(「大規模災害における応急救助のあり方」抜粋)

                    災害救助研究会 厚生省社会・援護局保護課

(福祉避難所(仮称)の設置)
○多数の被災者が避難する避難所では、要援護者は、生活スペースの確保や救援物資の受け取り等におい
 ても困難な状況におかれやすい。また、避難所に避難した要援護者や家族の中には、他の避難者との共
 同生活に馴染むことができず、危険な自宅へ戻った事例や、他の避難者の中にあって孤立するといった
 事例がみられた。
○災害発生直後、要援護者が通常の避難所に緊急的に避難することはやむを得ないとしても、すみやかに
 福祉サービスが受けられる施設へ移ってもらい、一時的にせよ安心して生活できる場を提供することが
 必要である。また、社会福祉施設に緊急入所してもらう上からも、要援護者はできる限り社会福祉施設
 へ避難してもらうことが必要である。このため、地方公共団体は、地域の社会福祉施設のうちから「福
 祉避難所」(仮称)としてあらかじめ指定し、その旨を要援護者をはじめ地域住民に周知しておくこと
 が必要である。
○また、その前提として、地域防災計画においても対応可能な社会福祉施設を要援護者の避難拠点として
 位置づけ、平常時から利用可能なスペース、備蓄物資の把握等に努めておくことが必要である。この場
 合、地方公共団体においては社会福祉施設を災害救助基金による備蓄物資の備蓄場所とするなどの対応
 を図ることも必要である。
○なお、災害の規模によっては、あらかじめ指定された「福祉避難所」(仮称)のみでは量的に不足する
 場合も想定されることから、1)福祉センター、2)コミュニティーセンター、3)公的宿泊施設等も同様に
 「福祉避難所」(仮称)として位置付け、これらの施設に対し、介護者を配置するとともに在宅福祉サ
 ービスを提供していくことも必要である。

 (4) 情報の確保
  a 日頃から「どこに連絡すれば、どのような情報が得られるか」確認しておき、必要な連絡先
   は紛失しないよう璧に貼ったり・ノートに整理しておく。また、障害者団体などに加入して、
   障害者どうしのコミュニケーション・ネットワークをつくる。
  b 緊急時に、知らせてくれる人(安否を確認してくれる人)を確保しておく。外部に助けを求
   める方法(非常ベル、笛、緊急通報装置、等)を用意しておく。
  c 障害別には、視覚障害(まわりの状況を知らせ、介助してくれる人)、聴覚障害(緊急時に連
   絡の必要な相手のファックス番号のメモ、笛、手話通訳のできる人)、肢体不自由(緊急時の
   介護者)、内部障害(人工透析など、治療・投薬がうけられるかかりつけ以外の医療機関の連
   絡方法。ストマ装置の販売店・メーカーの連絡先)、知的障害(迷子になった場合に連絡して
   もらえるよう名札)、精神障害(常用の薬品名・処方箋、保健所・作業所等の連絡先)など、
   確認しておく必要がある。

 (5) 近隣・地域社会とのつながり
* 障害者など災害弱者は、日頃から近隣・地域社会とのコミュニケーションを保ち、近隣の人
 々に「障害のあること」を理解してもらい、地域の一員として様々な活動に参加して行く必要
 がある。
  バリアフリー社会の実現には、障害者などの自立的生活への志向努力と社会的・制度的支援、
 サービス供給体制の整備、その自立努力への共感に基づくボランティアによる支援活動が不可
 欠である。
  災害発生時において、迅速に障害者など災害弱者への安否確認、安全な避難誘導・介助が行
 われるためには、日常におけるコミュニケーションと相互理解を育む活動、自主防災活動への
 障害者などの参加、救援活動ボランティアの組織化・連絡網づくりなどに取り組むことが必要
 である。

2. 防災活動のポイント

 (1) 防災知識の普及・啓発
  a 障害者などの災害弱者となりやすい世帯に対して、防災知識の普及・啓発の徹底をはかる。
   特に、字幕・手話によるビデオ、点訳資料等の広報手投に留意する。
  b 障害者などの災害弱者に、避難方法、初期の避難後において『ケア付き避難所』や福祉施設
   への緊急一時入所などの対応方法があることを周知しておく。
  c 補装具・日常生活用具等を必要とする障害者には、災害時における給付等の方法、相談の窓
   口(連絡先)等を周知する。
  d 地域の自主防災組織・自治会などを通じ、障害者などの災害弱者・福祉施設等に対する災害
   時の支援方法を周知しておく。

 (2) 防災訓練の実施と備蓄
  a 発災直後・初期投階では、「自分たちのまちは自分たちで守る」という自主的な活動が重要
   であり、障害者などの災害弱者の参加も得て、救護方法の訓練や聴覚障害者とのコミュニケー
   ション、視覚障害者のガイドヘルプ、車いす介助などを体験することも含めた防災訓練を実施
   する。
  b 行政・福祉関係機関・施設・社協は、災害時に必要とされる一定の生活物資、活動機材・救
   急用品、障害者などの災害弱者が必要とする補装具・日常生活用具等を備蓄しておく。(別表
   参照)
  c また、迅速な入手のために必要品目のリストを整備し、地域の業者・販売店・メーカー等と
   の連絡体制を確立しておく。
【備蓄品リスト例】

1)・水(飲料水1人1日3リットルを目安に、他に生活用水も必要なため水源の確認を)
 ・食料(粉ミルク、保存食(過熱しないで食べられる物)、調味料、副食品、他)
 * ただし、嚥下困難・アレルギーなどのため缶詰等をそのまま食べられない人がいることに
  留意する。

2)・使い捨て食器(皿、コップ、椀)、スプーン、割箸、哺乳ビン、ビニール袋
 ・缶切り・栓抜き、ナイフ、ハサミ
 ・トイレットペーパー、ティッシュペーパー、ウェットティッシュ、ゴミ袋
 ・石鹸、ドライシャンプー、ボディ洗浄剤、洗面用具、たらい
 ・調理器具(携帯用コンロ・ボンベ、なべ・やかん、ポット)
 ・クーラーボックス、バケツ、ポリタンク・ポリ容器
 ・衣類(下着、おむつ、他)、タオル類、雨具
 ・寝具(毛布、寝袋、防水防寒用宇宙毛布)
 ・照明用具、暖房器具・然料
 ・ガムテープ、ビニール紐、裁縫道具、メモ用品、マッチなど

3)・作業用手袋、長靴、ヘルメット、防塵マスク、作業服
 ・工具(スコップ、つるはし、斧、バール、鋸、ハンマー、カッター、ジャッキ、スパナ、他)
 ・ロープ、釘、針金、ベニヤ板など
 ・発電機、バッテリー、延長コード、灯光機・作業用照明、ポンプ
 ・テント、ブルーシート、土のう袋
 ・担架、リアカー、一輪車
 ・ハンドマイク、トランシーバー・無線、携帯ラジオ等・電池

4)・衛生材料(ガーゼ、綿バン、包帯、三角巾、脱脂綿、止血綿、パット付緊急バンソウコウ、
  眼帯、油紙、綿棒、石鹸類)
 ・医薬品(オキシフル、傷薬、目薬、胃腸薬、鎮痛剤、風邪薬、下剤・かん腸)
 ・応急用品(殺菌・消毒剤、火傷用処置剤、湿布剤)
 ・人口呼吸器、緊急用簡易ベッド、簡易トイレ、簡易浴槽
 ・その他(オブラート、タオル類、添え木、ハサミ、ピンセット、とげ抜き、体温計、爪切り、
  紙テープ、衛生手袋、マスク、生理用品、殺虫剤、防虫剤、環境消毒用品、消臭剤など)

5) 自転車、バイク、キャリーカート、ストレッチャー、携帯電話・FAX、他

6) 車いす、白杖、収尿器、ストマ装具(パウチ、皮膚保護剤)、携帯洗浄器、紙おむつ、老眼
  鏡、他

3. 発災直後の初動時の「マニュアル」整備

 (1) 市町村社協における初動時の「マニュアル」整備

* 市町村社協は、福祉救援対策本部を設置するまでの初動時の「マニュアル」を整備し、役・
 職員や関係者に周知・徹底する必要がある。

  a 職員相互の連絡網、緊急連絡体制
               ┌──────────────────────────┐
        ┌─────→│○事務局長と会長・副会長、常勤役員などとの電話連絡網│
        ↓      └──────────────────────────┘
  ┌──────────┐ ┌──────────────────────────┐
  │○事務局員・部課長間│→│○各事業部門・職員などとの電話連絡網        │
  │ の電話連絡網   │ └──────────────────────────┘
  └──────────┘  a在宅福祉サービスなど従事職員間の連絡網
        ↑       bデイサービスなど利用者・家族との連絡網
        │       cセンター嘱託医、登録ヘルパーなどとの連絡網
        │      ┌──────────────────────────┐
        └─────→│○高齢者団体・障害者団体などの代表者との電話連絡網 │
               └──────────────────────────┘
  b 職員の緊急出勤、出動
    緊急連絡網による指示、または、あらかじめ定められた緊急時出勤態勢に基づき、事務所へ
   緊急出勤、要援護者家庭等へ出動する。
  c 在宅福祉サービス部門での緊急対応
   サービス部門の職員は、サービス利用者の安全確保に努め、利用者の家庭の被災状況を確認
   し、避難誘導・介助を行うとともに、事務局へ状況報告する。
  d 発災直後の情報収集
   緊急出勤した職員は、民生・児童委員や地域の福祉委員・協力員、福祉施設等との連絡をと
   り被災状況を集約するとともに、市町村内の被災状況確認のため「情報収集・先遣隊」として
   出動する。
  e 緊急役員会の召集、協議及び救援方針の決定
   市町村内の被災状況の報告、行政との連絡・指示事項とともに、県社協の状況判断も参考に
   基本方針を決定する。
  f 市町村社協ボランティアセンターでは、救援ボランティアの登録・受付の窓口を開設し、市
   町村内への広報、近隣市町村社協・県社協へ連絡し、活動態勢を整える。
○発災から24時間以内
●被災状況点検
●地区社協、近隣における人命救助活動や、要援護者の安否確認
●社協職員の緊急出勤、情報収集
●県社協との連絡、緊急対策会議の開催
●緊急を要する支援活動
○発災から48時間以内
●緊急役員会などの開催
●福祉救援対策本部の設置の決定と設置の準備
●ケア付き避難所に対する支援開始
○発災から72時間以内
●福祉救援対策本部の設置
●被災地外からの支援の受け入れ、応急救援活動への着手

 (2) 福祉施設等における初動時の「マニュアル」整備

* 福祉施設等では、施設利用者の安全確保と施設の安全確認、避難誘導・介助方法、職員の緊
 急出勤・連絡綱、サービス利用者の安否確認、地域住民等への協力要請のルート・ルールづく
 り、緊急入所の体制整備、近隣からの避難者の受け入れ基準・受け入れ体制などについて、あ
 らかじめ「マニュアル」を整備する必要がある。

 【災害時対応の基本的な流れ】

                 ┏━━━━━┓
                 ┃ 発 災 ┃
                 ┗━━┯━━┛
            ┌───────┴────────┐
     ┌──────┴──────┐ ┌───────┴──────┐
     │利用者 安否確認・安全確保│ │施設設備など、被害状況の確認│
     └──────┬────┬─┘ └───────┬──────┘
     ┌──────┴─┐ ┌┴───────────┴──────┐
     │負傷者の応急処置│ │     責任者の情報収集      │
     └────────┘ └───┬───────────────┘
    ┌───────────────┴─────────────────┐
    │       避難の必要性の状況判断・決定(第1段階)      │
    └───────────────┬─────────────────┘
    ┌───────────────┴─────────────────┐
    │避難口(もしくは避難集結地:避難口の近くの安全な場所)へ誘導・待機│
    └───────────────┬─────────────────┘
    ┌───────────────┴─────────────────┐
    │       避難の必要性の状況判断・決定(第2段階)      │
    └────────┬─────────────┬──────────┘
      ┏━━━━━━┷━┓         ┏━┷━━━━━━━━━┓
      ┃ 避難する場合 ┃         ┃  避難しない場合  ┃
      ┗━━━┯━━━━┛         ┗━┯━━━━━━━━┯┛
      ┌───┴──┐             │        │
   ┌──┴─┐┌───┴────┐        │        │
   │避難開始││地域への応援要請│        │        │
   └──┬─┘└───┬────┘        │     ┌──┴──┐
   ┌──┴────┐ │      ┌──────┴────┐│利用者の安│
   │避難終結の確認│ │      │居室などの安全確認  ││全確認施設│
   └──┬────┘ │      └─┬───┬─────┘│の安全確認│
      └───┬──┘        │   │      └──┬──┘
   ┌──────┴────────┐┌─┴─┬─┴─┬───┐   │
   │避難後、利用者の数・安否確認 ││炊き出│施設内│被災住│┌──┴──┐
   └───────────────┘│しの実│の巡回│民の受││在宅福祉 │
   ┌───────────────┐│行  │の励行│入れ ││サービス利│
   │利用者に対する励ましの励行  │└───┴───┴───┘│用者の安否│
   └───────────────┘             │確認   │
   ┌───────────────┐             └─────┘
   │避難先の明示、地域関係者に伝達│
   └───────────────┘

 * 保育園・作業所等の通所施設の場合、保護者の引き取りが困難となる状況も想定される。施設に
  とどまった園児・利用者の保護についての対策も必要である。
 * 園外保育などの際に遭遇するケースや、施設内が危険なため避難誘導する場合も想定し、周辺の
  住民に協力を求める方法、平常時より地域からの協力が得られる関係づくりも必要である。
 * 発災直後の混乱期にあっては、保護者との連絡、園児などの引き渡しが困難となることも考えら
  れる。あらかじめ家族の勤務先、近親者で保護者に代わって保護できる人への連絡方法を確認して
  おくことも必要である。


《「災害時における福祉救援活動の指針」パンフレット(社会福祉法人鳥取県社会福祉協議会)から許諾を得て転載》

 2000.1.25 登載
【参考資料集】  【災害ボランティアコーディネーターとは】
 SQ31  * **
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