(国防委員会決議 第九八九八сс号) 一九四五年八月二三日(付け) モスクワ、クレムリン 日本軍捕虜五〇〇、〇〇〇名の受入、収容、労働利用に関する決議 国家防衛委員会は次の決議を行なう: 1. ソビエト社会主義共和国連邦内務人民委員部、ベリヤ同志、クリベンコ同志に対して、日本人捕虜を五 〇〇、〇〇〇人迄、受け入れて、捕虜収容所に送るように命令する。 2. 方面軍軍事会議〔第一極東方面軍(メレツコフ同志、シュティコフ同志)、第二極東方面軍(プルカエ フ同志、レオノフ同志)、ザバイカル方面軍(マリノフスキー同志、チェフチェンコフ同志)〕に対して、 ソ連内務人民委員部・軍事抑留者総局・第一極東方面軍代表であるパブロフ同志、同局第二極東方面軍代 表であるラトゥシュヌイ同志、ザバイカル方面軍代表であるクリベンコ同志、並びにヴォロノフ同志と共 同して、以下の措置を講じるように命令する: a) 極東とシベリアという環境での労働に身体的に適した日本軍捕虜の中から、五〇〇、〇〇〇名迄、選び 出すこと。 b) ソ連に移送する前に、捕虜から成る一、〇〇〇名単位の建設大隊を編成し、捕虜である下級将校、下士 官(第一に工兵隊の者が望ましい)から成る軍幹部を大隊及び中隊のトップに置き、各大隊に二名の医 療従事者である捕虜を含める。また、仕事を行なうのに必要な自動車や馬車の輸送手段を大隊に供与す る。戦利資産を利用して、夏用・冬用の軍装品、寝具、下着、行軍用調理器具、個人の日用品(飯金、 コップ、スプーン等)が、大隊の全員に確保されるようにする。 c) 捕虜全員の二ケ月分にあたる備蓄食料を各梯団に分け与える。そのために、輸送列車の編成を必要車両 数分、増やす。 d) 夏用・冬用の軍装品、靴、寝具、下着、日本軍の作業や生活に必要な各種目用品等、捕虜収容所に備え るために今後、必要となる戦利資産は全て記録し、保管する。上記資産は全て、内務人民委員部に引き 渡されるべきものであり、方面軍で使ってはならない。 e) ソ連内務人民委員部が指定する地点まで、輸送部隊が鉄道や水路を利用して、捕虜で編成された建設大 隊を送り届けるようにする。その際、目的地までの行程に護衛部隊をつける。 ソ連に移送される日本人捕虜に物品供与品、食料、生活用具が与えられ、鉄道や水路による護送が行な われているかどうかの監視業務を、赤軍後方勤務部隊司令官、フルリョフ同志に委ねる。 3. ソ連内務人民委員部・捕虜・抑留者対策総局は、以下に示す拠点の労働に従事させる目的で、五〇〇、 〇〇〇名の日本人捕虜を派遣する: a) バイカル・アムール鉄道幹線(イズベストコワヤ―ウルガル、ヴァン―ティン ダ、ウルガル―コムソモルスク―ソフガワニ、タイシェット―ウスチ・クート の区間)の建設 一五〇、〇〇〇名 b) プリモルスク地方 七五、〇〇〇名 配分: ・石炭部門人民委員部―スチャヌグル、アルチョムウゴリ(石炭)の労働 二五、〇〇〇名 ・輸送路部門人民委員部―プリモルスク鉄道の労働 五、〇〇〇名 ・非鉄金属部門人民委員部―シホテ・アリニ錫コンビナートとシパンチャオロボ の労働 五、〇〇〇名 ・国防人民委員都住宅使用局―兵舎建設 一〇、〇〇〇名 ・木材部門人民委員部―森林伐採 一八、〇〇〇名 ・建設部門人民委員部―ナホトカ港、ウラジオストック港の建設 一二、〇〇〇名 c) ハバロフスク地方 六五、〇〇〇名 配分: ・石炭部門人民委員部―ライチハ・キュヴジンスク石炭の労働 二〇、〇〇〇名 ・非鉄金属部門人民委員部―ヒンガンスク錫鉱山管理所 三、〇〇〇名 ・国防人民委員都住宅使用局―兵舎設 五、〇〇〇名 ・石油部門人民委員部―サハリン石油及び石油精製所 五、〇〇〇名 ・木材部門人民委員部―森林伐採 一三、〇〇〇名 ・海軍・河川船隊 二、〇〇〇名 ・輸送路人民委員部―アムール鉄道 二、〇〇〇名 ・建設部門人民委員部―ニコラエフスク港、アムルスタリ、コムソモリスク 第一九九工場の建設 一五、〇〇〇名 d) チタ州 四〇、〇〇〇名 配分: ・石炭部門人民委員部―ブカチャチャ炭鉱、チェルノフスキー炭鉱 一〇、〇〇〇名 ・非鉄金属部門人民委員部―モリブデン・タングステン及び錫企業 一三、〇〇〇名 ・木材部門人民委員部―森林伐採 四、〇〇〇名 ・国防人民委員都住宅利用局―兵舎建設 一〇、〇〇〇名 ・輸送路部門人民委員部―ザバイカル鉄道 三、〇〇〇名 e) イルクーツク州 五〇、〇〇〇名 配分: ・石炭部門人民委員部―チェレムホーボ炭鉱 一五、〇〇〇名 ・国防人民委員部住宅利用局―兵舎建設 一一、〇〇〇名 ・木材部門人民委員部―森林伐採 七、〇〇〇名 ・輸送路部門人民委員部―バイカル・シベリア鉄道 五、〇〇〇名 ・電気機械部門人民委員部―第三八九工場 二、〇〇〇名 ・建設部門人民委員部及び重機械政策人民委員部―クイブイシュフ記念工場、 第三九工場、水素処理工場 一〇、〇〇〇名 f) ブリヤート・モンゴル社会主義自治共和国 一六、〇〇〇名 配分: ・非鉄金属部門人民委員部―ジディンスキー・モリブデン・タングステンコンビ ナー卜 四、〇〇〇名 ・輸送路部門人民委員部―ウランウデの蒸気機関車修理工場 二、〇〇〇名 ・木材部門人民委員部―森林伐採 一〇、〇〇〇名 g) クラスノヤルスク地方 二〇、〇〇〇名 配分: ・石炭部門人民委員部―ハカシア石炭 三、〇〇〇名 ・非鉄金属部門人民委員部―エニセイ金鉱 三、〇〇〇名 ・建設部門人民委員部及び重機械製作部門人民委員部―重機械製作部門人民委員 部・ボリシェビキ「クラスヌイ・プロフインテルン」(赤色労働組合インター 五、〇〇〇名 ナショナル)工場の建設・操業 ・軍備人民委員部―第四工場 二、〇〇〇名 ・木材部門人民委員部―森林伐採 七、〇〇〇名 h) アルタイ地方 一四、〇〇〇名 配分: ・建設部門人民委員部―ルプツォフスクのトラクタ一工場とバルナウルの第一七、 七七工場の建設 六、〇〇〇名 ・重機械製作部門人民委員部―バルナウリスキーボイラー工場、ビイスキーボイラ ー工場 四、〇〇〇名 ・輸送路部門人民委員部―バルナウリスキー車両修理工場 一、〇〇〇名 ・非鉄金属部門人民委員部―ゾロトシンスキー鉱山管理所 三、〇〇〇名 i) カザフ社会主義共和国 五〇、〇〇〇名 配分: カラガンダ州 ・建設部門人民委員部―カザフ冶金工場、石炭部門人民委員部機械製作工場、 アクチャタウスキー・タングステンコンビナートの建設 一〇、〇〇〇名 ・石炭部門人民委員部―カラガンダ石炭 一〇、〇〇〇名 ・非鉄金属部門人民委員部―ジュスカズガン 三、〇〇〇名 東カザフスタン州 ・建設部門人民委員部と非鉄金属部門人民委員部―リデル、ウスチ・カメノゴ ルスキー、ズィリヤノフスキーにある錫鉱山管理所 一五、〇〇〇名 南カザフスタン州 ・非鉄金属部門人民委員部―「アチサイポリメタル(多金属鉱精錬)」 三、〇〇〇名 ジャンブール州 ・輸送路部門人民委員部―カラガンダ鉄道 九、〇〇〇名 j) ウズベク社会主義共和国 二〇、〇〇〇名 配分: ・建設部門人民委員部1べゴワト冶金工場、その他のコーカンドとタシケント にある工場の建設、鉄鋼部門人民委員部、非鉄金属部門人民委員部 一五、〇〇〇名 ・石炭部門人民委員部―アングレン石炭 三、五〇〇名 ・石油部門人民委員部―カリーニン石油 一、五〇〇名 4. 第三項に基づいて労働のためにやって来る捕虜の受入、収容、労働利用の実施を行なうよう、次の人民 委員に命ずる:建設部門(ギンズブルグ同志)、石炭産業部門(ワフルシェフ同志)、石油産業部門(バイ バコフ同志)、木材供給総局(ロプホフ同志)、木材部門人民委員部(サルティコフ同志)、海軍(シルシ ョフ同志)、河川船隊(シャシコフ同志)、非鉄金属部門(ロマコ同志)、カザフ(ボリシェビキ)共産党 中央委員会書記(ボルコフ同志)、ウズベク(ボリシェビキ)共産党中央委員会書記(ユスポフ同志)、全 ソ連(ボリシェビキ)共産党地方・州委員会書記:プリモルスク地方(ペゴフ同志)、ハバロフスク地方 (ナザロフ同志)、クラスノヤルスク地方(アリストフ同志)、アルタイ地方(ベリャエフ同志)、ブリヤー ト・モンゴル社会主義自治共和国(クドゥリャフツェフ同志)、イルクーツク州(エフィーモフ同志)、チ タ州(クズネツォフ同志)。 到着した捕虜の受入場所となる部屋は、本年九月一五日までに五〇%、本年一〇月一目までに残りの五 〇%を準備しておかなければならない。 捕虜収容所に部屋、暖房、照明を備える任務を人民委員部に委任する。 5. 日本人捕虜の警備を行なうために、内務人民委員部部隊より動員して、三五、〇〇〇名分の護送隊員を 増員することを、ソ連内務人民委員部に許可する。 6. 国防人民委員部(ブルガーニン同志)に次の命令を下す: a) 捕虜収容所の準備を行なうために、一九四五年九月一五日迄に甲五〇〇名の部隊勤務将校、一、〇〇〇 名の医療従事者、一、〇〇〇名の主計将校、六、〇〇〇名の赤軍兵士を割り当て、引き渡す。 b) 捕虜収容所に毎月一、〇〇〇トンの自動車用ガソリンを補足分配する。 7. 極東担当ソ連内務人民委員部に、捕虜収容所用に貨物用自動車を一、二〇〇台、護送隊用に九〇〇台 (その内、一〇%は「ドージ(Dodj) ― 三/四」であること)を分配するよう、対外貿易人民委員部(ミ コヤン同志)に命令する。 8. 本年八月から一〇月の期間に、内務人民委員部と方面軍の申請に従い、梯団が鉄道輸送と河川輸送によ り、五〇〇、〇〇〇名の日本人捕虜を護送できるよう、赤軍・軍事交通中央局(ドミートリュフ同志)、輸 送手段人民委員部(コワレフ同志)、海運人民委員部(シルショフ同志)、河川輸送人民委員部(シャシコ フ同志)に命令する。 9. 日本軍の食料供給基準に従った、日本人捕虜に適用する食料基準量を算定して、導入するよう、フルリ ョフ同志(国防人民委員部)、チェルヌィシオフ同志(内務人民委員部)に委任する。 10. 国防人民委員部(フルリョフ同志)に次の命令を下す: a) バイカル・アムール鉄道建設に従事する日本人捕虜を一時的に収容するために、大型テントを三、〇〇 〇基、毛皮半外套とフェルト製防寒長靴を含む修理済み冬用軍装品を一五〇、〇〇〇組、ソ連内務人民 委員部捕虜・抑留者総局に引き渡す。 b) 日本人捕虜用として、戦利品である日本の軍装品、日用品を必要数、ソ連内務人民委員部に引き渡す。 11. ソ連内務人民委員部の日本人捕虜収容所に、戦利品と極東部隊の資産から四、〇〇〇頭の馬を引き渡す よう、国防人民委員部(ブジョンヌイ同志)に命令する。 12. 日本人捕虜の治療用として、最小限必要な数の病院用寝床を準備して、分配するよう、ソ連保健人民委 員部(ミテレフ同志)、国防人民委員部軍事衛生総局(スミルノフ同志)に命令する。 13. 極東の日本人捕虜収容所用として、ソ連内務人民委員部に八〇〇トンの有刺鉄線を引き渡すよう、国防 人民委員部(ヴォロビヨフ同志)に命令する。 14. 本決議の遂行を監視する任務を、ベリヤ同志に委任する。 国家防衛委員会議長 T・スターリン 自署 注:「プリモルスク地方」は「沿海地方」のことである。 《『戦後強制抑留史 第七巻 資料編』(戦後強制抑留史編纂委員会編集 平成17年3月 独立行政法人平和祈念 事業特別基金発行)206頁-213頁から転載(全文引用)、原典縦書き》 <http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8174689/www.heiwa.go.jp/yokuryu/> |