帝国議会に対する終戦経緯報告書

                                         (外務省)        目  次   第一 「ポツダム」宣言の条項受諾に至る経緯   第二 其の後に於ける連合国側との交渉の経緯        付属書類 別紙第一 米、英、支三国宣言(一九四五年七月二十六日「ポツダム」に於て) 別紙第二 米、英、支三国宣言の条項受諾に関する八月十日付帝国政府申入 別紙第三 合衆国、連合王国、「ソヴィエト」社会主義共和国連邦及中華民国の各政府の名に於ける合衆国      政府の日本国政府に対する回答 別紙第四 米、英、ソ、支四国に対する八月十四日付帝国政府通告 別紙第五 米、英、支三国宣言の条項受諾に当り四国政府に対し帝国政府の希望開陳の件 別紙第六 停戦実施方に関する米国政府通告文 別紙第七 日本天皇、日本政府、日本大本営宛連合国最高司令官発電信要旨(八月十六日) 別紙第八 詔書 別紙第九 降伏文書 別紙第十 一般命令第一号(陸、海軍)      第一 「ポツダム」宣言の条項受諾に至る経緯 一、帝国政府は東亜の静謐を保持し戦争の拡大を阻止し延て世界平和の確立に貢献せんことを祈念し本年四  月以来不安定となり来れるソ連邦との中立関係を改善し一層鞏固なる善隣関係を樹立する目的を以て六月  以来同国政府に対し友好親善条約締結等に関する交渉を開始し更に七月に至り速かに戦争を終結せしめて  人類を戦争の惨禍より救はんとの大御心に従ひ帝国と交戦国との間に公正なる平和を樹立する為ソ連邦政  府に斡旋を依頼すると共に日ソ間に恒久的親善関係を確立する目的を以て同政府に対し近衛公爵を特使と  して派遣する意向を通達せり  然るに同国政府に於ては未だ右に対する明確なる見解を表示するに至らずして其の首脳者は「ポツダム」  会談に赴きたり 二、七月二十六日米、英、支三国首脳者は「ポツダム」に於て帝国に対し降伏を勧告する趣旨を以て共同宣  言を発出せるが(別紙第一)帝国政府に於ては前記ソ連邦政府の明確なる回答を待つこととし右共同宣言  に対しては積極的意思表示を為すことを避けつつありし処此の間八月六日広島市に対し米国軍の原子爆弾  に依る空襲の実施を見るに至り戦争の方法に付画期的変化を生じ極めて多数の無辜の人民を殺傷するが如  き事態を現出せり(其の後八月九日長崎市に対しても原子爆弾に依る攻撃行はれたり) 三、而して八月八日に至りソ連邦政府は在莫斯科佐藤大使に対し「日本が七月二十七日付『ポツダム』宣言  を拒否したる結果日本政府のソ連邦に対する斡旋方提案の基礎は失はれソ連邦としては連合国の提案を受  諾し『ポツダム』宣言に参加し八月九日より日本と戦争状態に入るべきことを宣言する旨」を伝達せりと  発表せる一方九日未明よりソ軍は満ソ国境を越え侵入し来ると共に満鮮諸都市に対し爆撃を開始するに至  れり 四、右の如く帝国を繞る情勢は益々悪化の一途を辿り最悪の事態に立到り交戦の継続は激烈なる破壊と惨酷  なる殺戮との極まる所遂には我民族生存の根拠を奪ふのみならず人類文明の大本を滅却するに到ること必  然となりたり  帝国政府は斯して勢の赴く所我民族の犠牲愈々甚しく人倫の大網失はれ民族生存の根拠滅却せられ国体の  維持も亦危殆に陥るべきを憂ひ就中畏くも一億民草の康寧と人類の福祉とを深く御軫念せらるる天皇陛  下の大御心を体して之に副ひ奉るべき方途に付き八月九日以来両統帥部とも連絡し慎重なる熟議を重ね御  聖断を仰ぎ奉りたる結果八月十日払暁の閣議に於て本年七月二十六日米、英、支首脳に依り共同に決定せ  られ爾後ソ連の参加を見たる対本邦共同宣言は国体を変更するの要求を包含し居らずとの趣旨の了解を明  らかにして右宣言を受諾することに決定せり、依て八月十日中立国たる瑞西及瑞典両国政府に対し右次  第を前記四交戦国政府に伝達し右了解に関する先方の回答要請方依頼すると共に(別紙第二)同日偶々宣  戦布告通告の為外務大臣を来訪せる在東京ソ連邦大使に対しても同国政府に伝達方を依頼せり 五、右に対する八月十一日付四国政府の回答(別紙第三)は瑞西政府を通して八月十三日接到せるが十二日  払暁の放送に依り其の内容を承知せる帝国政府は十二、十三両日数回に亘り閣議及最高戦争指導会議懇談  会を開き右回答の条項が帝国国体の護持と矛盾せざるやに付慎重検討を加へ十四日の御前会議(首相以下  全閣僚、内閣四長官、参謀総長、軍令部総長、枢密院議長出席)に於て御聖断を仰ぎ奉りたる結果同日午後の  閣議に於て帝国政府は「ポツダム」共同宣言に挙げられたる条件を受諾、之を実施することに決定し畏く  も天皇陛下に於かせられては昭和二十年八月十四日付を以て「ポツダム」宣言の条項受諾に関する大詔を  渙発せられたり右帝国政府の決定は同日付を以て瑞西国政府を通し米英ソ支四国政府に伝達せられたり  (別紙第四)尚帝国政府は右に引続き瑞西国政府を通し「ポツダム」宣言の条項受諾に当り帝国政府の有す  る希望を四国政府に伝達せり(別紙第五)     第二 其の後に於ける連合国側との交渉の経緯 一、帝国政府より「ポツダム」宣言の条項受諾及右に関する大詔渙発の通報に接し米国政府は停戦命令の発  出と正式降伏条項受理の下打合の為比島への使者派遣とを求むる「メッセージ」(別紙第六)を瑞西国政府  を通じ我方に通告し来り之が公電は十六日午前接到せり  之より曩米国側より盛に無線を以て我方を呼出し接触を求めつつありしが十六日午前連合国最高司令官  「マッカーサー」より戦闘の即時停止と比島向使者派遣とを命ずると共に其の任務権限航行手筈等を定め  たる無電連絡(要旨別紙第七)到達せり  停戦の大命は十六日午後四時発出を見たるを以て我方は連合国最高司令官に対し(イ)右の旨通報せる他  (ロ)天皇陛下に於かせられては大陸各地方及南方の出先軍等に対し大詔換発の御聖旨並に停戦大命の徹  底を期せられ御名代の宮を御差遣遊ばさるることと相成りたるに付(ハ)右に対する安導を併せ要求す  る旨又(ニ)時間の余裕なく比島向我方使者を連合国最高司令官の要求通り十七日中に出発せしむること  困難なる旨通報せる処十七日朝同司令官より(イ)(ロ)に満足し(ハ)(ニ)を諒承せる旨回答越せり  尚右使者の任務権限に付ては前述米国政府通告第二項は正式降伏受理の打合を為すべき充分の権限を与へ  られたる使者とするに対し右最高司令官来電には降伏条項実施のための一定要求事項を受理する権限を有  する代表者とありその間若干相違あるが如く解せられ就中最高司令官来電に示されたる「一定要求事項」  の意義明かならず全権委任状発出上右を明確ならしむる要ありしためこの点に関し十六日最高司令官宛照  会を発出せり之に対し十七日最高司令官より本件使者は比島に於て降伏条項に署名するを要するものに  非る旨回答し来ると同時に右使者の出発を督促し来れり 二、八月十八日前記米国政府の通告第二項に記せられたる連合国最高司令官の指令する打合を天皇陛下の名  に於て為すの権限を陸軍中将河辺虎四郎に付与する旨の全権委任状の御下付相成りたり 三、河辺全権委員一行は十九日朝出発伊江島にて先方の飛行機に乗換へ同日夕刻「マニラ」に到着せるが同  夜直に主として連合国軍の本土進駐並に我軍の武装解除に関する事項に付先方との会談あり我方より国内  情勢に鑑み連合国軍の進駐開始期日繰延方要請し結局右期日は八月二十六日に決定せられたり  翌二十日の午前の会談に於て我方全権委員は連合国最高司令官及其の随行部隊の東京湾内及鹿屋飛行場地  域への進入を容易ならしむる為の連合国最高司合官の要求事項を記載せる文書並びに帰京後帝国政府に伝  達すべき日本国天皇の詔書降伏文書及陸海軍一般命合第一号を受領せり  日本国天皇の詔書の概要は天皇が「ポツダム」宣言の条項を受諾すると共に帝国政府及帝国大本営に対し  天皇に代り連合国最高司令官より提出せられたる降伏文書(後述)に署名することを命じ且同司令官の指  示に基き帝国政府及帝国大本営に対し陸海軍に宛て一般命令(後述)を発すべきことを命じ帝国臣民に対  して敵対行為を終止し降伏文書並に一般命令の一切の規定を誠実に履行すべきことを命ぜらるるものにし  て降伏文書は(イ)「ポツダム」宣言の条項受諾の確認(ロ)帝国軍隊の無条件降伏(ハ)一切の日本軍  及日本国民の敵対行為の終止及軍用非軍用財産の毀損防止(ニ)一切の陸海軍軍人及行政官庁官吏の離職  制限(ホ)天皇帝国政府盈其の後継者の「ポツダム」宣言条項履行確約(ヘ) 連合国俘虜及被抑留者の解  放及保護を内容とすると共に末項に於て天皇及帝国政府の国家統治の権限が「ポツダム」宣言の条項実施  の為適当と認むる措置を執るべき連合国最高司令官の制限の下に置かるべきことを規定し居り又陸海軍に  対する一切の日本の軍隊に対して戦闘を停止し武装を解除し無条件降伏を為すべきことを命じ各地域に於  ける日本国軍隊が降伏すべき連合軍が夫々何国なるやを規定し更に日本軍隊軍事施設並に俘虜及被抑留者  に関する一切の情報供与等を命じたるものなり此等文書を受領せる我方使者一行は二十日午後一時「マニ  ラ」出発伊江島経由二十一日午前帰京せり 四、連合国軍隊の日本本土第一次進駐は帝国政府及統帥部の誠意と努力とに依り八月二十八日以降所定の如  く且平穏裡に行はれたると共に日本本土外各地域に於ける停戦も亦通信杜絶せる前線部隊の一部を除き八  月二十二日頃停戦の大命徴底を見たる結果其の実効を挙げるに至れり但し支那大陸特に満州、蒙彊、北  支の一部及朝鮮北部並に南樺太に於ては当該戦線に於ける連合国側軍隊の態度及当該地方の治安状況等必  ずしも我軍隊の平穏なる停戦の実施及武装解除を容易ならしめざるものありて我が居留民の生命財産に対  する侵害行為の発生を見たるは帝国政府の極めて遺憾とする所なると共に今後に於ける此等方面の事態の  推移就中武装解除後の我が将兵の待遇並に我居留民の安全に付ては帝国政府は重大なる関心を持する所に  して連合国側の善処を強く要望し居れり 五、九月二日午前九時過ぎ東京湾内米国軍艦「ミズーリ」号に於て我万全権委員重光葵及梅津美治郎は連合  国最高司令官「マッカーサー」元帥に対し詔書(別紙第八)を提出し降伏文書(別紙第九)に署名を了し次  で同最高司令官、米、支、英、ソ各国代表署名し更に豪州、加奈陀、仏、和蘭、新西蘭各代表署名し我方  全権委員は降伏文書一通(他の一通は連合国最高司令官に於て保持す)並一般命令(陸海軍)第一号(別紙第  十)を受領し立に正式降伏の式を了せり

 「大東亜戦争終戦に関する資料」(昭和20年9月4日から同月6日の第88臨時議会に於て配布された政府作成資料)
 《「日本の選択 第二次世界大戦終戦史録・下巻」(外務省編纂,1990.12.23第1刷,山手書房新社発行)及び
  「終戦史録」(外務省編纂,昭和27年5月1日,新聞月鑑社発行)から引用、又は参考、原文縦書き》

 2004.2.11 登載
  【参考資料集】
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