戦陣訓（ルビ付き・旧字体）

　戦陣訓

　　戰　陣　訓

陸訓第一號
本書ヲ戰陣道󠄁德昂揚ノ資ニ供スベシ
　　　昭和十六年一月八日

陸軍大臣　東條英機　　

　戰陣訓
　　目次
序
本訓　其の一
本訓　其の二
本訓　其の三
　第一　戰陣の戒
　第二　戰陣の嗜
結

戰陣訓せんぢんくん

　序じよ

夫それ戰陣せんぢんは、大命たいめいに基もとづき、皇軍くわうぐんの神髓しんずゐを發揮はつきし、攻せむれば必かならず取とり、戰たたかへば必かならず勝󠄁かち、遍󠄁あまねく皇道󠄁かうどうを宣布せんぷし、敵てきをして仰あふいで御稜威みいづの尊󠄁嚴そんげんを感銘かんめいせしむる處ところなり。されば戰陣せんぢんに臨のぞむ者ものは、深ふかく皇國くわうこくの使命しめいを體たいし、堅かたく皇軍くわうぐんの道󠄁義だうぎを持ぢし、皇國くわうこくの威德ゐとくを四海しかいに宣揚せんやうせんことを期きせざるべからず　。
惟おもふに軍人ぐんじん精神せいしんの根本義こんぽんぎは、畏かしこくも軍人ぐんじんに賜たまはりたる勅諭ちよくゆに炳乎へいことして明あきらかなり。而しかして戰鬪竝せんとうならびに訓練等くんれんとうに關くわんし準據じゆんきよすべき要綱えうかうは、又典令またてんれいの綱領かうりやうに敎示けうしせられたり　。然しかるに戰陣せんぢんの環境くわんきやうたる、兎ともすれば眼前がんぜんの事象じしやうに捉とらはれて大本たいほんを逸󠄁いつし、時ときに其その行動軍人かうどうぐんじんの本分ほんぶんに戾もどるが如ごときことなしとせず　。深ふかく愼つつしまざるべけんや　。乃すなはち既往きわうの經驗けいけんに鑑かんがみ、常つねに戰陣せんぢんに於おいて勅諭ちよくゆを仰あふぎて之これが服行ふくかうの完璧くわんぺきを期きせむが爲ため、具體的ぐたいてき行動かうどうの憑據ひようきよを示しめし、以もつて皇軍くわうぐん道󠄁義だうぎの昂揚かうやうを圖はからんとす　。是これ戰陣訓せんぢんくんの本旨ほんしとする所󠄁ところなり　。

本訓ほんくん　其その一いち

　第一だいいち　皇國くわうこく

大日本だいにつぽんは皇國くわうこくなり　。萬世一系ばんせいいつけいの天皇てんわう上かみに在おはしまし、肇國てうこくの皇謨くわうぼを紹繼せうけいして無窮むきゆうに君臨くんりんし給たまふ。皇恩くわうおん萬民ばんみんに遍󠄁あまねく、聖德せいとく八紘はつくわうに光被くわうひす　。臣民亦しんみんまた忠孝ちゆうかう勇武ゆうぶ祖孫そそん相承あひうけ、皇國くわうこくの道󠄁義だうぎを宣揚せんやうして天業てんげふを翼󠄂贊よくさんし奉たてまつり、君民一體くんみいつたい以もつて克よく國運󠄁こくうんの隆昌りゆうしやうを致いたせり　。
戰陣せんぢんの將兵しやうへい、宜よろしく我わが國體こくたいの本義ほんぎを體得たいとくし、牢固ろうこ不拔ふばつの信念しんねんを堅持けんぢし、誓ちかつて皇國守護くわうこくしゆごの大任たいにんを完遂󠄂くわんすゐせんことを期きすべし　。

　第二だいに　皇軍くわうぐん

軍ぐんは天皇てんわう統帥とうすゐの下もと、神武しんぶの精神せいしんを體現たいげんし、以もつて皇國くわうこくの威德ゐとくを顯揚けんやうし皇運󠄁くわううんの扶翼󠄂ふよくに任にんず。
常つねに大御心おほみこころを奉ほうじ、正せいにして武ぶ、武ぶにして仁じん、克よく世界せかいの大和たいわを現げんずるもの是これ神武しんぶの精神せいしんなり　。武ぶは嚴げんなるべし仁じんは遍󠄁あまねきを要えうす。苟いやしくも皇軍くわうぐんに抗こうする敵てきあらば　、烈々れつ〳〵たる武威ぶゐを振ふるひ斷乎だんこ之これを撃碎げきさいすべし　。假令たとひ峻嚴しゆんげんの威ゐ克よく敵てきを屈服くつぷくせしむとも、服ふくするは撃うたず從したがふは慈いつくしむの德とくに缺かくるあらば、未いまだ以もつて全󠄁まつたしとは言いひ難がたし。武ぶは驕おごらず仁じんは飾かざらず、自おのづから溢あふるるを以もつて尊󠄁たふとしとなす　。皇軍くわうぐんの本領ほんりようは恩威おんゐ並ならび行おこなはれ、遍󠄁あまねく御綾威みいづを仰あふがしむるに在あり。

　第三だいさん　軍紀ぐんき

皇軍くわうぐん軍紀ぐんきの神髓しんずゐは、畏かしこくも大元帥だいげんすゐ陛下へいかに對たいし奉たてまつる絕對ぜつたい隨順ずゐじゆんの崇高すうかうなる精神せいしんに存そんす。
上下齊しやうかひとしく統帥とうすゐの尊󠄁嚴そんげんなる所󠄁以ゆゑんを感銘かんめいし、上かみは大權たいけんの承行しやうかうを謹嚴きんげんにし、下しもは謹つつしんで服從ふくじゆうの至誠しせいを致いたすべし　。盡忠じんちゆうの赤誠せきせい相結あひむすび、脈絡一貫みやくらくいつくわん、全󠄁軍一令ぜんぐんいちれいの下もとに寸毫紊すんがうみだるるなきは、是これ戰捷せんせふ必須ひつすの要件えうけんにして、又實またじつに治安ちあん確保かくほの要道󠄁えうだうたり　。
特とくに戰陣せんぢんは、服從ふくじゆうの精神せいしん實踐じつせんの極致きよくちを發揮はつきすべき處ところとす　。死生しせい困苦こんくの間かんに處しよし、命令一下欣然めいれいいつかきんぜんとして死地しぢに投とうじ、默々もく〳〵として獻身けんしん服行ふくかうの實じつを擧あぐるもの、實じつに我わが軍人ぐんじん精神せいしんの精華せいくわなり　。

　第四だいし　團結だんけつ

軍ぐんは、畏かしこくも大元帥だいげんすゐ陛下へいかを頭首とうしゆと仰あふぎ奉たてまつる。渥あつき聖慮せいりよを體たいし、忠誠ちゆうせいの至情󠄁しじやうに和わし、擧軍きよぐん一心一體いつしんいつたいの實じつを致いたさざるべからず　。　
軍隊󠄁ぐんたいは統率󠄁とうそつの本義ほんぎに則のつとり、隊󠄁長たいちやうを核心かくしんとし、鞏固きようこにして而しかも和氣わき藹々あい〳〵たる團結だんけつを固成こせいすべし　。上下各〻其しやうかおの〳〵その分ぶんを嚴守げんしゆし、常つねに隊󠄁長たいちやうの意圖いとに從したがひ、誠心まごころを他たの腹中ふくちゆうに置おき、生死せいし利害りがいを超越てうゑつして、全󠄁體ぜんたいの爲ため己おのれを沒ぼつするの覺悟かくごなかるべからず　。

　第五だいご　協同けふどう

諸兵しよへい心こころを一いつにし、己おのれの任務にんむに邁進󠄁まいしんすると共ともに、全󠄁軍ぜんぐん戰捷せんせふの爲ため欣然きんぜんとして沒我ぼつが協力けふりよくの精神せいしんを發揮はつきすべし　。
各隊󠄁かくたいは互たがひに其その任務にんむを重おもんじ、名譽めいよを尊󠄁たふとび、相信あひしんじ相援あひたすけ、自みづから進󠄁すすんで苦難くなんに就つき、戮力りくりよく協心けふしん相携あひたづさへて目的もくてき達󠄁成たつせいの爲ため力鬪りきとうせざるべからず　。

　第六だいろく　攻撃精神こうげきせいしん

凡およそ戰鬪せんとうは勇猛ゆうまう果敢くわかん、常つねに攻撃こうげき精神せいしんを以もつて一貫いつくわんすべし　。
攻撃こうげきに方あたりては果斷くわだん積極せききよく機先きせんを制せいし、剛毅がうき不屈ふくつ、敵てきを粉碎ふんさいせずんば已やまざるべし　。防禦ばうぎよ又また克よく攻勢こうせいの鋭氣えいきを包藏はうざうし、必かならず主動しゆどうの地位ちゐを確保かくほせよ　。陣地ぢんちは死しすとも敵てきに委ゐすること勿なかれ　。追󠄁撃ついげきは斷々乎だん〳〵ことして飽あく迄までも徹底的てつていてきなるべし　。
勇往邁進󠄁ゆうわうまいしん百事ひやくじ懼おそれず、沈著󠄁大膽ちんちやくだいたん難局なんきよくに處しよし、堅忍不拔けんにんふばつ困苦こんくに克かち、有あらゆる障碍しやうがいを突破とつぱして一意勝󠄁利いちいしようりの獲得くわくとくに邁進󠄁まいしんすべし　。

　第七だいしち　必勝󠄁の信念ひつしよう　　しんねん

信しんは力ちからなり　。自みづから信しんじ毅然きぜんとして戰たたかふ者常ものつねに克よく勝󠄁者しようしやたり　。
必勝󠄁ひつしようの信念しんねんは千磨必死せんまひつしの訓練くんれんに生しやうず。須すべからく寸暇すんかを惜をしみ肝膽かんたんを碎くだき、必かならず敵てきに勝󠄁かつの實力じつりよくを涵養かんやうすべし　。
勝󠄁敗しようはいは皇國くわうこくの隆替りゆうたいに關すくわん　　。光輝くわうきある軍ぐんの歷史れきしに鑑かんがみ、百戰百勝󠄁ひやくせんひやくしようの傳統でんとうに對たいする己おのれの責務せきむを銘肝めいかんし、勝󠄁かたずば斷だんじて已やむべからず　。

本訓ほんくん　其その二に

　第一だいいち　敬神けいしん

神靈上しんれいかみに在ありて照覽せうらんし給たまふ。
心こころを正ただし身みを修をさめ篤あつく敬神けいしんの誠まことを捧ささげ、常つねに忠孝ちゆうかうを心こころに念ねんじ、仰あふいで神明しんめいの加護かごに恥はぢざるべし　。

　第二だいに　孝道󠄁かうどう

忠孝一本ちゆうかういつぽんは我わが國くに道󠄁義だうぎの精粹せいすゐにして、忠誠ちゆうせいの士しは又また必かならず純情󠄁じゆんじやうの孝子かうしなり　。
戰陣深せんぢんふかく父󠄁母ふぼの志こころざしを體たいして、克よく盡忠じんちゆうの大義たいぎに徹てつし、以もつて祖先そせんの遺󠄁風ゐふうを顯彰けんしやうせんことを期きすべし　。

　第三だいさん　敬禮擧措けいれいきよそ

敬禮けいれいは至純しじゆんの服從心ふくじゆうしんの發露はつろにして、又また上下一致しやうかいつちの表現へうげんなり　。戰陣せんぢんの間かん特とくに嚴正げんせいなる敬禮けいれいを行おこなはざるべからず　。
禮節󠄁れいせつの精神せいしん内うちに充溢じゆういつし、擧措謹嚴きよそきんげんにして端正たんせいなるは强つよき武人ぶじんたるの證左しようさなり　。

　第四だいし　戰友道󠄁せんいうだう

戰友せんいうの道󠄁義だうぎは、大義たいぎの下もと死生せいし相結あひむすび、互たがひに信頼しんらいの至情󠄁しじやうを致いたし、常つねに切磋琢磨せつさたくまし、緩急相救くわんきふあひすくひ、非違󠄂相戒ひゐあひいましめて、倶ともに軍人ぐんじんの本分ほんぶんを完まつたうするに在あり。

　第五だいご　率󠄁先躬行そつせんきゆうかう

幹部かんぶは熱誠ねつせい以もつて百行ひやくかうの範はんたるべし　。上かみ正ただしからざけば下しも必かならず紊みだる　。
戰陣せんぢんは實行じつかうを尙たつとぶ　。躬みを以もつて衆しゆうに先さきんじ毅然きぜんとして行おこなふべし　。

　第六だいろく　責任せきにん

任務にんむは神聖しんせいなり　。責任せきにんは極きはめて重おもし。一業一務いちげふいちむ忽ゆるがせにせず、心魂しんこんを傾注けいちゆうして一切いつさいの手段しゆだんを盡つくし、之これが達󠄁成たつせいに遺󠄁憾いかんなきを期きすべし　。
責任せきにんを重おもんずる者もの、是眞これしんに戰場せんぢやうに於おける最大さいだいの勇者ゆうしやなり　。

　第七だいしち　死生觀しせいくわん

死生しせいを貫つらぬくものは崇高すうかうなる獻身奉公󠄁けんしんほうこうの精神せいしんなり　。
生死せいしを超越てうえつし一意任務いちいにんむの完遂󠄂くわんすゐに邁進󠄁まいしんすべし　。身心一切しんしんいつさいの力ちからを盡つくし、從容しようようとして悠久いうきうの大義たいぎに生いくることを悅よろこびとすべし　。

　第八だいはち　名を惜な　おしむ

恥はぢを知しる者ものは强つよし。常つねに郷󠄁黨家門きやうたうかもんの面目めんぼくを思おもひ、愈〻奮勵いよ〳〵ふんれいして其その期待きたいに答こたふべし　。
生いきて虜囚りよしうの辱はづかしめを受うけず、死しして罪禍ざいくわの汚名おめいを殘のこすこと勿なかれ　。

　第九だいく　質實剛健しつじつがうけん

質實しつじつ以もつて陣中ぢんちゆうの起居ききよを律りつし、剛健がうけんなる士風しふうを作興さくこうし、旺盛わうせいなる士氣しきを振起しんきすべし　。
陣中ぢんちゆうの生活せいくわつは簡素かんそならざるべからず　。不自由ふじいうは常つねなるを思おもひ、每事節󠄁約まいじせつやくに努つとむべし　。奢侈しやしは勇猛ゆうまうの精神せいしんを蝕むしばむものなり　。

　第十だいじふ　淸廉潔白せいれんけつぱく

淸廉潔白せいれんけつぱくは、武人氣節󠄁ぶじんきせつの由よつて立たつ所󠄁ところなり　。己おのれに克かつこと能あたはずして物慾ぶつよくに捉とらはるる者もの、爭いかでか皇國くわうこくに身命しんめいを捧ささぐるを得えん。
身みを持ぢするに冷嚴れいげんなれ　。事ことに處しよするに公󠄁正こうせいなれ　。行おこなひて俯仰天地ふぎやうてんちに愧はぢざるべし　。

本訓ほんくん　其その三さん

　第一だいいち　戰陣せんぢんの戒いましめ

一　一瞬いつしゆんの油斷ゆだん、不測ふそくの大事だいじを生しやうず。常つねに備そなへ嚴げんに警いましめざるべからず　。
敵及住民てきおよびぢゆうみんを輕侮󠄁けいぶするを止やめよ　。小成せうせいに安やすんじて勞らうを厭いとふこと勿なかれ。不注意ふちゆういも亦災禍またさいくわの因いんと知しるべし　。

二　軍機ぐんきを守まもるに細心さいしんなれ　。諜者てふじやは常つねに身邊しんぺんに在あり。

三　哨務せうむは重大ぢゆうだいなり　。一軍いちぐんの安危あんきを擔になひ、一隊󠄁いつたいの軍紀ぐんきを代表だいへうす。宜よろしく身みを以もつて其その重おもきに任にんじ、嚴肅げんしゆくに之これを服行ふつこうすべし　。哨兵せうへいの身分みぶんは又また深ふかく之これを尊󠄁重そんちようせざるべからず　。

四　思想戰しさうせんは、現代戰げんだいせんの重要ぢゆうえうなる一面いちめんなり　。皇國くわうこくに對たいする不動ふどうの信念しんねんを以もつて、敵てきの宣傳欺瞞せんでんぎまんを破摧はさいするのみならず、進󠄁すすんで皇道󠄁かうどうの宣布せんぷに勉つとむべし　。

五　流言りうげん蜚語ひごは信念しんねんの弱󠄁よわきに生しやうず。惑まどふこと勿なかれ、動どうずること勿なかれ　。皇軍くわうぐんの實力じつりよくを確信かくしんし、篤あつく上官じやうくわんを信頼しんらいすべし　。

六　敵產てきさん、敵資てきしの保護ほごに留意りういするを要えうす。
徴發ちようはつ、押收あうしう、物資ぶつしの燼滅等じんめつとうは總すべて規定きていに從したがひ、必かならず指揮官しきくわんの命めいに依よるべし　。

七　皇軍くわうぐんの本義ほんぎに鑑かんがみ、仁恕じんじよの心能こころよく無辜むこの住民ぢゆうみんを愛護あいごすべし　。

八　戰陣せんぢん苟いやしくも酒色しゆしよくに心こころ奪うばはれ、又または慾情󠄁よくじやうに驅かられて本心ほんしんを失うしなひ、皇軍くわうぐんの威信ゐしんを損そんじ、奉公󠄁ほうこうの身みを過󠄁あやまるが如ごときことあるべからず　。深ふかく戒愼かいしんし、斷だんじて武人ぶじんの淸節󠄁せいせつを汚けがさざらんことを期きすべし　。

九　怒いかりを抑おさへ不滿ふまんを制せいすべし　。「怒いかりは敵てきと思おもへ」と古人こじんも敎おしへたり　。一瞬いつしゆんの激情󠄁悔げきじやうくいを後日ごじつに殘のこすこと多おほし。

軍法ぐんぱふの峻嚴しゆんげんなるは特とくに軍人ぐんじんの榮譽えいよを保持ほぢし、皇軍くわうぐんの威信ゐしんを完まつたうせんが爲ためなり　。常つねに出征當時しゆつせいたうじの決意けついと感激かんげきとを想起さうきし、遙はるかに思おもひを父󠄁母妻子ふぼさいしの眞情󠄁しんじやうに馳はせ、假初かりそめにも身みを罪科ざいくわに曝さらすこと勿なかれ　。

　第二だいに　戰陣せんぢんの嗜たしなみ

一　尙武しやうぶの傳統でんとうに培つちかひ、武德ぶとくの涵養かんやう、技能ぎのうの練磨れんまに勉つとむべし　。
「每事退󠄁屈まいじたいくつする勿なかれ」とは古ふるき武將ぶしやうの言葉ことばにも見みえたり　。

二　後顧󠄁こうこの憂うれひを絕たちて只管ひたすら奉公󠄁ほうこうの道󠄁みちに勵はげみ、常つねに身邊しんぺんを整ととのへて死後しごを淸きよくするの嗜たしなみを肝要かんえうとす　。
屍かばねを戰野せんやに曝さらすは固もとより軍人ぐんじんの覺悟かくごなり　。縱たとひ遺󠄁骨いこつの還󠄁かえらざることあるも、敢あえて意いとせざる樣やう豫かねて家人かじんに含ふくめ置おくべし　。

三　戰陣せんぢん病魔びようまに斃たふるるは遺󠄁憾ゐかんの極きはみなり　。特とくに衞生えいせいを重おもんじ　、己おのれの不節󠄁制ふせつせいに因より奉公󠄁ほうこうに支障ししやうを來きたすが如ごときことあるべからず　。

四　刀かたなを魂たましひとし馬うまを寶たからと爲なせる古こ武士ぶしの嗜たしなみを心こころとし、戰陣せんぢんの間常かんつねに兵器資材へいきしざいを尊󠄁重そんちようし、馬匹ばひつを愛護あいごせよ　。

五　陣中ぢんちゆうの德義とくぎは戰力せんりよくの因もとなり　。常つねに他隊󠄁たたいの便益べんえきを思おもひ、宿舍しゆくしや、物資ぶつしの獨占どくせんの如ごときは愼つつしむべし　。
「立たつ鳥跡とりあとを濁にごさず」と言いへり。雄々ををしく床ゆかしき皇軍くわうぐんの名なを、異郷󠄁邊土いきやうへんどにも永ながく傳つたへられたきものなり　。

六　總そうじて武勳ぶくんを誇ほこらず、功こうを人ひとに讓ゆづるは武人ぶじんの高風かうふうとする所󠄁ところなり　。
他たの榮達󠄁えいだつを嫉ねたまず己おのれの認みとめられざるを恨うらまず、省かへりみて我わが誠まことの足たらざるを思おもふべし　。

七　諸事正直しよじせいちよくを旨むねとし、誇張虚言こちやうきよげんを恥はぢとせよ　。

八　常つねに大國民だいこくみんたるの襟度きんどを持ぢし、正せいを踐ふみ義ぎを貫つらぬきて皇國くわうこくの威風ゐふうを世界せかいに宣揚せんやうすべし　。
國際こくさいの儀禮ぎれい亦輕またかろんずべからず　。

九　萬死ばんしに一生いつせいを得えて歸還󠄁きくわんの大命たいめいに浴よくすることあらば、具つぶさに思おもひを護國ごこくの英靈えいれいに致いたし、言行げんかうを愼つつしみて國民こくみんの範はんとなり、愈〻いよ〳〵奉公󠄁ほうこうの覺悟かくごを固かたくすべし　。

　結むすぴ

以上いじやう述󠄁のぶる所󠄁ところは、悉ことごとく勅諭ちよくゆに發はつし、又之またこれに歸きするものなり　。されば之これを戰陣道󠄁義せんぢんだうぎの實踐じつせんに資しし、以もつて聖諭服行せいゆふくかうの完璧くわんぺきを期きせざるべからず　。
戰陣せんぢんの將兵しやうへい、須すべからく此この趣旨しゆしを體たいし、愈〻いよ〳〵奉公󠄁ほうこうの至誠しせいを擢ぬきんで、克よく軍人ぐんじんの本分ほんぶんを完まつたうして、皇恩くわうおんの渥あつきに答こたへ奉たてまつるべし　。

　旧字体漢字は、ユニコード上等の制約により、完全な表記ではありません。ブラウザや環境により文字化けを生じることがあるかもしれません。参考程度にご活用ください。

二〇〇五･八･一五初掲載
「軍人勅諭」　「教育ニ関スル勅語」
　「青少年学徒ニ賜ハリタル勅語」　「戦陣訓」
「我が家の第二次世界大戦犠牲者研究」
【参考資料集】(資料閲覧に関してのお願い)
⚜
　感想、ご意見等をお送りください。
【メールフォームのページへ】

　戦陣訓 WB6 * **
　このホームページは個人が開設しております。開設者自己紹介　